よくある質問一覧

保証人を用意するに際し、公正証書を作成しなければならないのは、どのような場合ですか?

結論:個人間であっても、事業資金の貸し借りに関する保証・根保証を行うには、貸金契約に先立ち、保証人になる者が「公正証書」をもって保証債務を履行する意思を表示していることが必要となります。

1 事業資金の貸し借りの保証に「公正証書」が必要となった背景
事業資金の貸し借りは、一般に多額になることから、安易に保証人となってしまうと、後日に保証債務の支払いを求められた際に応じられず、生活破綻に至る事例が指摘されていました。

そこで改正民法(令和2年(2020年)4月1日施行)は、個人の保証人の保護を図るため、事業資金の貸し借りに関する個人保証・根保証につき、先だって公正証書を作成することが必要としました。
根拠規定は、465条の6です。

2 手続きの概要
前記公正証書は、一般に「保証意思宣明公正証書」と呼称されます。

保証意思宣明公正証書は、事業資金の貸し借りが行われる前1か月以内に作成しなければなりません。

公正証書の作成には、公証人の立会が必要で、通常は公証人役場にて行います(例外的に公証人に出張してもらうケースもありますが、費用が嵩みます)。

記載事項は、主債務の債権者と債務者の個人情報、主債務の元本、利息・違約金・損害賠償等の特則、保証意思、(根保証については)極度額・元本確定期日の定め等が主な内容となります。

公証人役場及び公証人によって、進め方に違いがあることが少なくないため、以上を踏まえて、担当公証人と細かな打ち合わせをしながら進めていくのがよいでしょう。

3 保証意思宣明公正証書が作成されていない場合
事業資金の貸し借りの保証に関し、保証意思宣明公正証書が作成されていない場合は、当該保証は、基本的に無効とされます。

4 保証意思宣明公正証書が不要とされる場合(改正民法465条の9)


事業用資金の借主が法人の場合で、役員等当該法人と関連性の強い一定の者が保証人となる場合は、不要となります。

事業用資金の借主が個人の場合も、借主の事業に従事している配偶者や共同事業者(※ 事業執行に関与する権利を有し、事業に利害関係を有する者)が保証人となる場合も不要となります。

これらに保証意思宣明公正証書が不要とされる理由は、従来、強いニーズや有用性があることを踏まえ、利便性が優先されたからと解されます。

実務においては、当該保証人より、改正民法465条の9に該当することを具体的に証明する書面・資料を提出し、債権者側の了承を得る必要があるものと解されます。

弁護士 北野 岳志

2024年05月15日その他:その他

相手の身体に触れなければ、不同意わいせつ罪は不成立ですか?

結論:身体接触がなくても、不同意わいせつ罪が成立することがあります。

1 不同意わいせつ罪(刑法176条)は、改正前は強制わいせつ罪と呼称されていました。

施行されたのは2023年7月13日で、まだ耳なじみのない罪名と思われます。

強制→不同意になったことによって、犯罪が成立する余地が広くなりましたが、「わいせつ」の意義については、特に変更はないと解されます。

2 「わいせつ」な行為とは、判例は、徒に性欲を興奮または刺激せしめ、かつ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反する行為としています。

もっとも、これでは、具体的に何が該当するのかわかりにくいと思われますので、以下で具体例をあげていきます。

1)陰部に手を触れる
2)女性の乳房を弄ぶ ※ 単に触れるだけでは足りないとされる可能性大
3)自己の陰部を押し当てる
4)下着の上から尻を撫でる
5)接吻

3 前述のわいせつ行為の意義には、身体接触を必須要件とはしておらず、身体接触のない非接触型わいせつ行為も成立し得ると解されます。

例えば、人前で裸にする行為・(抗拒困難な状態にした上で)裸にさせる行為があります。

裸にした状態を写真・動画撮影する行為も該当するとされます。

4 いうまでもなく、不同意わいせつ罪は重大犯罪(6月以上10年以下の拘禁刑)です。

自身が不同意わいせつ罪に問われるような状況に陥ったら、速やかに弁護士に相談することを推奨します。

弁護士 北野 岳志
2024年05月08日刑事:刑事

離婚協議中の夫に対して、財産分与を求めたところ、夫名義の借金について、半分を負担するよう言われましたが、その必要があるのでしょうか?

結論:借金は、基本的に離婚における財産分与の対象とはなりません。

1 前提・財産分与とは
財産分与とは、離婚時に、夫婦の一方が他方に対し、婚姻中に築いた財産を分配するものです。

離婚時に、当事者間で合意に至らない場合は、家庭裁判所に対して、協議に代わる処分を請求することができます。

離婚成立後も、2年以内であれば、財産分与請求をすることが認められています。

2 借金等の負債の基本的な取扱い
負債については、基本的に、財産分与の対象になりません。

よって、夫婦の一方が他方に対し、個人名義の借金を半分引き継ぐよう求めることは基本的にできません。

3 負債を例外的に考慮する場合
住宅ローン、教育ローン等の場合は、通常、夫婦や子どもとの共同生活に必要な債務にあたります。

そのため、個人名義であるという形式的理由で、一方のみが負担を負うべきとするのは、公平でないと解されます。

実務においては、各種ローン相当額を、現金・預貯金等の積極財産から控除するような措置が行われています。

弁護士 北野 岳志

2024年02月13日離婚:離婚

生前贈与や債務がある場合、遺留分の基礎となる財産はどのようにして算定するのですか?

結論:遺留分算定の基礎となる財産は、相続開始時における被相続人の積極財産に、一定の期間内の生前贈与の額を算入し、被相続人の債務の額を控除した上で、算出します(民法1043条1項)。

1 ステップ1:死亡時の被相続人の積極財産を整理・集計する
積極財産とは、現金、預貯金、有価証券、土地建物、自動車、貴金属類などの金銭的価値のある財産を意味します。

評価の基準時は、死亡時(=相続開始時)です。

借金等の負債は、消極財産と呼称され、積極財産には含まれません。

なお、遺贈の対象となる財産は、含めて集計します。

2 ステップ2:生前贈与の有無を調査し、①相続人に対する生前贈与は死亡時から原則10年以内、②第三者に対する生前贈与は死亡時から原則1年以内のものを算入する
相続における生前贈与は、相続財産の前渡しと評価される贈与をいいます。

判例実務は、「生計の資本としての贈与」であれば、相続における生前贈与にはあたらないとしていますが、その判断基準については長くなるため割愛します。

生前贈与の相手方の属性によって、算入期間に違いが生じる点には注意を要します。

なお、いわゆる持戻し免除の意思表示がある場合においても、算入すべきとされます。

3 ステップ3:被相続人の債務を控除する
死亡した被相続人に、借金等の負債があれば、その全額を控除します。

制度趣旨としては、遺留分制度が、相続人が現実に取得する価額を基礎とするものであるから等と解されています。

4 例題
・令和5年12月31日に死亡したAは、死亡時に2000万円の積極財産を有していた。
・Aは、令和5年6月1日に、知人のBに5000万円を贈与していた。
・Aは、死亡時に、C銀行からの1000万円の借入金があった。
・Aの配偶者であるDは既に死亡していたが、子であるEとFは存命であった。

この場合における遺留分算定の基礎となる財産は、次の計算式に基づき、6000万円となります。
 2,000万円+5,000万円-1,000万円=6,000万円

更に進めると、E・Fの1人当たりの遺留分額は、次の計算式に基づき、1500万円となります。
 6,000万円×1/2(総体的遺留分率)×1/2(法定相続分率)=1,500万円

そして、E・Fの1人当たりの遺留分侵害額は、次の計算式に基づき、1000万円となります。
1,500万円(※ 遺留分額)-2,000万円(※ 積極財産の価額)×1/2+1,000万円(※ 負債の価額)×1/2=1,000万円

弁護士 北野 岳志

2024年02月05日相続:相続

親告罪とは何ですか?期限内に告訴する必要があると言われましたが、どういうことでしょうか?

結論:親告罪では、告訴がなければ、犯人が刑事罰を科されることはありません。告訴は犯人を知ってから6ヶ月以内に行う必要があります。

1 親告罪とは
親告罪とは、告訴が訴訟要件(公訴提起要件)となっている犯罪です。

親告罪が設けられた理由は、犯罪類型によって様々ですが、大きく3つの類型が考えられます。

1つ目は、公訴提起によって、かえって被害者の利益・名誉等の侵害が拡大するおそれがあることから、公訴提起を被害者の意思に委ねるべきとされたものです。
例として、名誉の対する罪(刑法232条1項)や秘密を侵す罪(刑法135条)等があげられます。

2つ目は、犯罪被害が比較的軽微で、被害者の意思に反してまで公訴提起する必要はないとされたものです。
例として、過失傷害罪(刑法209条2項)、器物損壊罪(刑法264条)等があげられます。

3つ目は、犯人・被害者間に一定の人間関係があり、このことに鑑みて公訴提起を被害者の意思に委ねるべきとされたものです。
例として、親族間の犯罪に関する特例(刑法244条2項)があげられます。

なお、以前は親告罪とされていた性犯罪は、2017年の法改正によって、告訴不要の非親告罪とされています。

2 告訴期間
まず、告訴ができるのは、犯罪によって被害を受けた方(被害者)です(刑訴法230条)。

そして、告訴は、犯人を知った時から6ヶ月以内に行わなければなりません(刑訴235条)。

告訴期限が設けられた理由としては、公訴提起するか否かがはっきりしない状態を、長期間、個人の意思に委ねたままにしておくべきではないとされるからです。

事件から長期間が経過すると、関係者の記憶が亡失したり、物証が喪失・損壊したりして、公判請求や有罪立証が困難になるという事情もあるように思われます。

この「犯人を知った」とは、犯人が誰で、どのような人物かを認識する程度を意味し、住所・氏名等の詳細まで知る必要はないとされます。
よって、あの人だとわかったが、住所・氏名は知らないから、6ヶ月経過しても告訴できる・・・ということにはなりません。

3 最後に
勘違いしやすい場合として、自動車にぶつけられた場合と自転車にぶつけられた場合を取り上げたいと思います。

自動車にぶつけられてけがをした場合は、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律が適用され、非親告罪として処理されます。
他方、自転車にぶつけられてけがをした場合は、親告罪の過失傷害罪が適用されるため、告訴しなければ刑事罰を科されることはありません。

弁護士 北野 岳志

2024年01月31日刑事:刑事

土地を駐車場として貸していましたが、期間満了後も賃借し続けています。退去してもらうにはどうすべきですか?

結論:速やかに異議を述べて、退去を求める必要があります。

1 土地の賃貸借に関する法律
建物所有を目的とした土地賃貸借については、借地借家法が適用されます(同法1条等参照)。
それ以外の土地賃貸借については、その他特別法が適用される場合を除き、民法によって規律されます。

本件の目的物である駐車場は、建物所有を目的としないことから、民法の適用を受けると考えられ、以下では民法による規律を前提に説明します。

2 契約期間の終了と更新の推定
期間の定めのある土地賃貸借契約は、期間満了によって終了するのが原則ですが、民法619条は、黙示の更新を規定しています。

すなわち、期間満了後も、賃借人が当該土地の使用を継続し、賃貸人がそのことを知りながら異議を述べないときは、期間を1年とするほかは、従前と同一の条件で賃貸借契約が更新したとみなされます。

「異議」とは、継続使用を許さないという意思表示を含む行為であり、明示でも黙示でもよいとされています。
ただ、黙示の意思表示は、解釈の違いをもたらす危険があるため、明示の意思表示を行うのが安全です。
例えば、賃借人に対して、電話・手紙・メール等で、目的物の使用禁止・退去明渡を求める等があげられます。

異議を述べる時期は、期間満了後〇日以内のように明確には定まっていませんが、数か月も経過すれば、常識的に考えて時期を逸したとされるでしょう。
そうならないために、期間満了時点で返還・退去しているかどうかを確認し、していなければ、速やかに異議を述べるべきでしょう。

3 最後に
異議を述べても、賃借人が返還・退去しない場合は、退去明渡請求訴訟を検討せざるを得ません。
その場合は、強制執行も見据えて、弁護士に委任するのが妥当と考えられます。

弁護士 北野 岳志

2023年12月28日不動産:不動産

ハンドル操作を誤って他人の家の塀を壊してしまいました。家主は激怒しており、「器物損壊で被害届を出す」と言われています。どうなるのでしょうか?

結論:器物損壊罪の成立には故意(罪を犯す意思)が必要とされており、過失(不注意)では成立しません。

1 故意犯と過失犯
刑法では、犯罪が成立するには原則として行為者の故意、すなわち、罪を犯す意思が必要とされています(刑法38条1項本文)。

もっとも、法律に特別の定めがある場合は、故意がなくても犯罪の成立を認めています(刑法38条1項但書)。
その典型が、不注意による犯罪、いわゆる過失犯です。

2 器物損壊罪(刑法261条)の成立要件
他人の②を、③損壊することです。

①は、言い換えれば、自分の所有物(共有物は除く)や無主物であれば、器物損壊等罪の対象にはないことを意味します。
ただ、自分の所有物でも、差押を受けたり、物件を負担したりしている場合は、対象に含まれます。

②は、財産権の目的となる一切の物件を意味します。
ただ、公用文書・権利義務に関する私用文書(電磁的記録含む)・建造物等については、別の規定によります(刑法258~260条)。

③は、その物の効用を害する行為とされています。
物理的に物の全部・一部を破壊するのが一般的ですが、裁判例では、食器への放尿、取り付けてあった看板の取り外し、窓ガラスへの多数のビラの貼付け等も損壊にあたるとされています。

そして、器物損壊に特別の規定はないため、故意犯のみが処罰対象となります。
過失で他人の物を損壊した場合、民法上の債務不履行責任・不法行為責任等が成立することはあっても、刑法上の器物損壊罪が成立することはありません

ちなみに、故意とは、詳述すると、構成要件的故意、すなわち実行行為とそれによる結果の発生を認識・認容していること解されます。
これを器物損壊罪にあてはめると、当該行為によって他人の物の効用が害される結果が生じることを認識・認容していることになります。


3 本件に関する今後の経過
被害者が被害届を出そうとしても、警察側からは、犯罪不成立の可能性が高いことから、自主的に撤回するよう働きかけがあるかと思われます。

それでも、撤回しなかった場合、警察側が不受理とすることはできませんが、送検後に嫌疑不十分で不起訴になるでしょう。

弁護士 北野 岳志

2023年12月14日刑事:刑事

家庭菜園のため購入した中古農機具が、初日に故障しました。業者に修理を求めたところ、契約上、修理費は購入者の全額負担と言われましたが、どうにもならないのでしょうか?

結論:修理費を買主が全額負担する旨の契約条項は無効であり、事業者に対して、事業者負担での修理等を求めることができます。

1 民法の原則
民法562条1項本文は、買主の追完請求権について、次のように規定しています。
「引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる」。

本件では、買主は、目的物である農機具について、不具合があるとは聞いていませんし、不具合を承知の上で購入しているわけでもありません。
よって、農機具の品質が、売買契約の内容に適合しないのは明らかであると考えられ、買主は売主に対して、故障の修理(※ 事業者負担で)や代替物の引渡しを要求できると考えられます。
これに買主が応じなければ、契約解除の上、代金の返還を求めることも可能でしょう(民法541条)。

2 消費者契約法における条項の無効
消費者契約法8条乃至10条は、消費者~事業者間における契約において、事業者の損害賠償責任を免除したり、消費者の利益を一方的に害したりする内容の条項は無効にすると規定しています。
その趣旨は、消費者と事業者における情報・交渉力の格差に鑑み、消費者を保護することにあります。

本件の買主は、消費者(※ 事業として、または、事業のために購入したわけではない)であること、及び、当該条項は前記民法に比して消費者の利益を一方的に害することになることから、当該条項は無効になると考えられます。

そのため、本件売主の言い分は排斥され、前述の民法の原則に従った責任を負うことになります。

3 最後に
このように、本件では、売主は農機具を修理したり、代替物を用意したりする義務を負うことになりますが、悪質な業者だと、屁理屈を述べて応じないことがあり得ます。
そのような場合、個人で対応するのは中々大変ですから、弁護士等専門家に相談することが推奨されます。

弁護士 北野 岳志

2023年12月01日その他:その他

「時効の中断」という言葉が使われなくなったとのことですが、どのように変わったのでしょうか?

結論:民法改正(R2.4.1施行)によって、「時効の完成猶予」と「時効の更新」という用語に置き換えられました

1 「時効の中断」の意義と法改正による区分
以前は、時効の完成が妨げられるという効力と、完成した時効が効力を失って新たな時効が進行を始めるという効力について、いずれも「時効の中断」という用語で表されていました。

民法改正によって、前者が「時効の完成猶予」に、後者が「時効の更新」に区分して整理されることとなりました。

2 「時効の完成猶予」
「時効の完成猶予」とは、一定期間、時効の完成を遅らせることです。

改正民法が「時効の完成猶予」となる事由として挙げているのは、主として次のとおりです。
裁判上の請求支払督促即決和解民事調停家事調停破産手続き参加再生手続き参加更生手続き参加(147条1項)
※ いずれも当該事由が終了するまで。ただし、確定判決や和解成立によって権利が確定しないまま終了した場合は、終了時から6ヶ月を経過するまで
強制執行担保権実行財産開示手続き(148条1項)
※ いずれも当該事由が終了するまで。ただし、申立ての取下げや裁判所による取消しによって終了した場合は、終了時から6ヶ月を経過するまで
仮差押え仮処分の終了時から6ヶ月を経過するまで(149条)
催告の時から6ヶ月を経過するまで(150条)
・権利について協議を行う旨の合意が書面でなされてから、1年間又は定められた協議期間が経過するまで(どちらか短い方)(151条1項)
・時効期間満了前6か月以内に未成年又は成年後見人に法定代理人がいないときは、当人が行為能力者となった時又は法定代理人就任後6ヶ月を経過するまで(158条1項)
・相続財産につき、相続人確定時、相続財産管理人選任時、又は破産手続開始決定時から6ヶ月を経過するまで(160条)
・時効期間満了の際、天災その他回避不能な事変によって、完成猶予のための諸手続きを行使できない場合は、その障害が消滅した時から3ヶ月を経過するまで(161条)

3 「時効の更新」
「時効の更新」とは、所定の事由が生じたときに、これまでの時効が完成することはなくなり、新たな時効の期間が進行し始めることです。

改正民法が「時効の更新」となる事由として挙げているのは、主として次のとおりです。
確定判決又は和解の成立(147条2項)
※ 147条1項所定事由が終了した時から進行開始
強制執行担保権実行財産開示手続きの終了時(148条2項)
※ ただし、申立ての取下げ、裁判所による取消しによって終了した場合は、更新されない。
権利の承認(152条1項)
※ 権利の承認は、権利存在の認識を示すすべての行為を意味する。裁判内・裁判外であるかは関係なく、口頭・文書いずれの形式でも可能である。

4 その他
長期間弁済が滞っている債務者においては、所定の行為によって、消滅時効が完成猶予となったり、更新されたりしないかを意識したほうがよいでしょう。

逆に債権者としては、消滅時効が完成しないために、完成猶予や更新に向けた手続きをとることが重要となるでしょう。

弁護士 北野 岳志

2023年11月27日債務整理:債務整理

検討のために渡された刑事事件の証拠書類を、親友にも見てもらうべく、コピーを渡したり、スキャンしたデータを送信したりすることは問題ありませんか?

結論:刑事裁判の証拠書類を、勝手に第三者に見せたり、交付したりする行為は禁止されています。これに違反した場合は刑事罰に問われる可能性があります。

1 刑事裁判で閲覧・謄写した証拠書類の取り扱い
刑事裁判では、検察側は、被告人の有罪を立証するために多数の証拠書類を提出します(刑事訴訟法317条参照)。
これら証拠書類については、適切な防御活動を行うため、弁護人は閲覧・謄写することができます(刑事訴訟法299条)。

通常、被告人は、事件の経緯や関係者に関する事情を、弁護人より詳しく把握しています。
また、弁護人は、基本的に被告人の意向を無視して弁護活動を行うことはできません。
そのため、証拠書類を更に複製して、被告人に交付し、内容をよく検討してもらうことが行われています。

もっとも、刑事裁判で用いられる証拠書類には、被告人以外の個人情報が多数含まれており、これが拡散すると、名誉棄損やプライバシー侵害が生じかねません。
そのため、刑事裁判において弁護人側に開示された証拠書類については、適切に管理・保管しなければならないとされ(刑事訴訟法281条の3)、正当な理由なく目的外に交付等することは禁止されています(刑事訴訟法281条の4)。
実際に交付等してしまった場合には、1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処されることがあります(刑事訴訟法281条の5)。

以上のことから、弁護人から渡された刑事裁判の証拠書類のコピーをしたり、第三者に見せたりするのは、やめるべきでしょう。

2 民事訴訟との関係
刑事裁判で閲覧・謄写した証拠書類を、損害賠償請求や離婚請求等の民事訴訟の証拠書類に転用することが考えられます。
訴訟であれば、先程の名誉棄損・プライバシー侵害の可能性は乏しいようにも思われますが、現行法はこれも禁止していると解されています。

民事訴訟で刑事記録を使用する場合は、あらためて、謄写申請したり、弁護士法23条の2に基づく照会をかけたりするしかないと考えられます。
ただ、これによって開示される刑事記録は、黒塗りや部分開示等の処置が施され、すべてを見ることができないようになっていることが多々あります。
これらも明らかにしたいのであれば、裁判所を介しての文書開示命令等の利用が考えられます(民事訴訟法223条参照)。

弁護士 北野 岳志

2023年11月17日刑事:刑事

犯罪でよく言われる「営利の目的」とは何でしょうか?

結論:自分や第三者が利得するように企むことを意味します。

1 「営利の目的」が要件とされている刑罰
代表的なものとしては、淫行勧誘罪(刑法182条)、営利目的等略取及び拐取罪(刑法225条)、覚醒剤輸入等罪(覚醒剤取締法41条2項)、覚醒剤所持等罪(覚醒剤取締法41条の2第2項)等があげられます。

2 「営利の目的」の意義
自分自身や第三者が財産上の利益を得るようにすることです。
覚醒剤取締法違反で考えると、覚醒剤を輸出したり、譲渡したりすることによって、金銭ないしこれに準じるもの(債権、電子マネー、動産、不動産等)を獲得するということです。
借金・債務免除も含まれます

利得は一時的なものでもよく、営業的・継続的・反復的である必要はないとされています。
覚醒剤取締法違反で考えると、プロの売人や反社会的勢力に属する者でなくても、営利目的が肯定されてしまうということです。

3 「営利の目的」による厳罰化
一般に、営利の目的で犯罪を計画・実行することは、非常に悪質であるとされていて、重度の法定刑が規定されています。

覚醒剤取締法違反において、営利目的のない単純所持等であれば、法定刑は10年以下の懲役です(同法41条の2第1項)。
しかし、営利目的がある場合は、法定刑は1年以上の懲役となり、場合によっては500万円以下の罰金が併科されます。

また、営利目的のない単純所持等であれば、初犯には執行猶予が付くのが通常です。
しかし、営利目的がある場合は、初犯でも実刑の可能性が高くなります。
2犯目以降でも、営利目的がある方がより重い量刑となっています。

4 その他
営利目的の有無は、罪刑の成立のみならず、量刑や執行猶予の有無に多大な影響を及ぼすこともあって、裁判で争われることが少なくありません。
具体的には、検察側が営利目的ありを主張し、被告人側が営利目的なしを主張するというものです。
争う余地があるのかどうかは、個別具体的な判断となりますので、弁護士を含めてよく検討をすべきでしょう。


弁護士 北野 岳志

2023年11月03日刑事:刑事

財産散逸行為等とは何ですか?どうして、してはならないのですか?

結論:支払不能・困難となった債務者が、自己の財産を不当に減少させる行為や、隠匿する行為、偏頗弁済等を意味します。財産散逸行為等が禁止される理由は、債権者全体の利益を害し、債権者間の平等を害するからです。

1 債務者の財産に対する制約とその理由
破産申立てを弁護士に委任した後も、破産手続開始決定が出るまでは、債務者は財産の管理処分権を有します。
すなわち、自由に使用・処分することは一応可能ということです。

しかし、債務者の財産は、破産手続きにおける配当の原資となるものです。
債務者の財産が少なくなれば、その分配当金が減ることになります。

また、受任弁護士からの受任通知後、債権者が事実上取立てを控えている中で、特定の債権者に対してだけ弁済が行われていたら、不公平となります。
他の債権者からすれば、「だったら、こっちにも払ってよ」と言いたくなるでしょう。

そのため、破産手続きを控えた債務者の財産は、生活上必要なものや破産申立てに必要なものを除き、使用・処分することは制限されると解されています。

2 財産散逸行為等の具体例
(1)財産を不当に減少させる行為
生活に不必要な高額商品を購入したり、国内・海外旅行に行ったりするようなことがあげられます。
食費が、平均値と比較して著しく高い場合も、不相当とされる可能性があります。
保険・共済についても、補償内容や金額等から、一部が不相当とされる可能性があります。

(2)隠匿行為
所持金をタンス預金にして申告しなかったり、何かに使ったと見せかけて隠し口座に貯蓄したりするようなことがあげられます。

(3)偏頗弁済
特定の債権者のみ弁済することです。

A・B・C・Dの債権者がいるとした場合、Aにだけ弁済したり、B・Cにだけ弁済したりするような行為が該当します。

A~Dすべてに弁済する場合は偏頗弁済となりません。
しかし、A・Bは全額、C・Dは半額だけ支払うような場合は、偏頗弁済となる可能性があります。

3 財産散逸行為等がなされた場合
否認(破産法160条以下)の対象となる可能性があります(※ 否認の意義についてはここでは省略)。
悪質な場合は、詐欺破産罪(破産法265条)等の犯罪に該当することもあり得ます。

また、受任した弁護士も、財産散逸行為等を防止すべき義務を怠ったとして、責任を問われることがあります。
そのため、破産申立てを受任した弁護士は、基本的に毎月の家計簿作成を求め、財産散逸行為等と疑われる支出や不審な記載がある場合は、質問したり、指導したりします。
債務者にとっては耳の痛い話となりますが、破産手続きを滞りなく進めるためにも、ご理解いただきたいところです。


弁護士 北野 岳志

2023年10月27日債務整理:債務整理

警備員をしていますが、破産すると警備業ができなくなるのでしょうか?

結論:破産手続き中は資格が制限されるので、警備業はできませんが、後日に解消されます。

1 破産手続きと資格制限
破産手続開始決定がなされると、制限される公法上・私法上の資格は複数あります。

公法上の資格制限は、主として次のようなものです。
弁護士、公証人、司法書士、税理士、公認会計士、社会保険労務士、不動産鑑定士、警備員、生命保険募集人、損害保険代理店、宅地建物取引士、建設業、貸金業

私法上の資格制限は、主として次のようなものです。
後見人、後見監督人、保佐人、補佐官特任、補助人、補助監督人、遺言執行者

2 資格制限の効果
資格制限されるということは、当該資格の登録を拒否されたり、登録を抹消されたりするということです。
そうなれば、従前の業務を適法に継続することはできなくなります

勤務先に、資格制限と無関係な業務がある場合は、そちらへ配置転換してもらうということも考えられます。
例えば、警備会社で警備業務をしている者が、破産手続開始決定後、総務・経理の業務に就くというものです。
配置転換が困難であれば、休職・転職を検討せざるを得ないでしょう。

3 資格制限の期間と復権
破産手続きによる資格制限は、永遠に続くわけではありません。
免責許可決定が確定すれば、資格制限は消滅し、元の業務を再開することが可能となります
これを復権といいます。

免責許可決定が確定して復権するのは、免責許可決定が官報に記載されてから2週間の即時抗告期間が経過した時とされています。
概ね、免責許可決定してから約1か月を要します。

なお、破産手続開始決定から免責許可決定までの期間は、同時廃止か管財かによって異なります。
同時廃止の場合は3ヶ月程度、管財の場合は4ヶ月~1年程度です。
管財は、破産の規模や債権者集会の回数、換価・配当の有無等によって、期間が変動しますが、いずれにしても同時廃止より時間がかかるのは確実です。

弁護士 北野 岳志

2023年10月26日債務整理:債務整理

令和5年7月13日から、盗撮が新法で処罰されるとのことですが、これまでとの違いは何でしょうか?

結論:成立範囲、法定刑の重さ等に違いがあります。

1 条文の対比
(1)性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律(以下「性的姿態等撮影行為等法」といいます)第2条
次の各号のいずれかに掲げる行為をした者は、3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金に処する。」
1項1号
「正当な理由がないのに、ひそかに、次に掲げる姿態等(以下「性的姿態等」という。)のうち、人が通常衣服を着けている場所において不特定又は多数の者の目に触れることを認識しながら自ら露出し又はとっているものを除いたもの(以下「対象性的姿態等」という。)を撮影する行為
イ 「人の性的な部位(性器若しくは肛門若しくはこれらの周辺部、臀部又は胸部をいう。以下このイにおいて同じ。)又は人が身に着けている下着(通常衣服で覆われており、かつ、性的な部位を覆うのに用いられるものに限る。)のうち現に性的な部位を直接若しくは間接に覆っている部分
ロ 「イに掲げるもののほか、わいせつな行為又は性交等(刑法(明治四十年法律第四十五号)第百七十七条第一項に規定する性交等をいう。)がされている間における人の姿態
(2)公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(三重県)(以下「迷惑防止条例」といいます)第2条2項
「何人も、正当な理由がないのに、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、次に掲げる行為をしてはならない。
⑵ 「通常衣服で隠されている人の身体又は下着をのぞき見し、又は撮影し、若しくはその目的で撮影機器を人に向け、若しくは設置すること。」

2 成立範囲
いずれも、「撮影」は禁止行為になっています。
すなわち、写真及び動画撮影機器を用いて、画像・映像を記録として残す行為です。
そのような機器を用いず単に覗き見るだけだと、性的姿態等撮影行為等法の違反にはなりません。
しかし、迷惑防止条例違反にはなりますので、要注意です。

いずれも、「正当な理由」があれば、違法になりません。
典型としては、被撮影者の同意、医療行為、刑事手続き上の強制処分があげられます。

撮影のやり方については、性的姿態等撮影罪では「ひそかに」、迷惑防止条例では「人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で」とやや異なる文言で規定されています。
なお、盗撮が、いずれにも該当するのは明らかです。

性的姿態等撮影罪では、「人が通常衣服を着けている場所において不特定又は多数の者の目に触れることを認識しながら自ら露出し又はとっているもの」は、あらかじめ除外されています。
他方、迷惑防止条例では、明確な除外はなされていません。
例えば、道路上を堂々と下着姿で歩いている人がいる場合、その人をこっそり撮影することは、性的姿態等撮影罪に該当しないことは明白ですが、迷惑防止条例違反に該当する余地がないとはいえないと考えられます。

禁止対象となる部位・物については、若干相違があります。
性的な部位や着用している下着が禁止対象となるのは共通です。
ただ、迷惑防止条例は、「通常衣服で隠されている人の身体」とやや広めに設定しているため、スカート内の膝や太腿等も含まれます。

迷惑防止条例違反は当該都道府県においてしか適用されないのに対し、性的姿態等撮影行為等法は本邦のどこでも適用されます。
これまでは、飛行機や電車等で移動中のため、事件場所の特定が困難な場合、どの条例が適用すべきかという問題がありました。
法律であれば、日本の国内・領空内であることさえ特定できれば、それで足りると解されます。

3 法定刑
性的姿態等撮影罪は、前述のとおり、3年以下の拘禁刑(旧懲役・禁錮刑)または300万円以下の罰金です。
他方、撮影に関する迷惑防止条例違反は、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金です(同条例15条1項)。
より悪質な行為に絞っている分、前者の方が重くなっている印象です。
これまで盗撮は、通常、迷惑防止条例違反で起訴されていましたが、令和5年7月13日以降は性的姿態等撮影罪が適用されることによって、厳罰化が予想されます


弁護士 北野 岳志

2023年10月18日刑事:刑事

恐喝罪(刑法249条)における恐喝行為とは何ですか?

結論:犯行を抑圧するに至らない程度の脅迫or暴行を加え、それによって畏怖した相手から、財物or財産上の利益の交付・処分を求めることです。

1 「犯行を抑圧するに至らない程度」
「強盗罪(刑法236条)」と線引きする要素となります。
すなわち、犯行を抑圧する程度に達していれば強盗罪が、達していなければ恐喝罪が成立し得るということです。

2 恐喝における「脅迫」
相手を畏怖させるような害悪の告知をすることです。

畏怖させるとは、恐れを抱かせる・怖がらせることです。
単に困惑させるに止まるもの、漠然とした不安を抱かせる程度の内容であれば、恐喝行為とはならないと解されます。

脅迫罪(刑法222条)では、生命・身体・自由・名誉・財産に害悪が限定されています。
他方、恐喝罪における「害悪」には、そのような限定はありません
例えば、発覚していない犯罪行為を警察に通報すると告げることや、私的な秘密(例:浮気、特殊な収集癖)を暴露すると告げることも、害悪の告知となります。

脅迫罪(刑法222条)では、害悪を受ける客体が、本人とその親族に限定されています。
他方、恐喝罪では、これらに加えて、友人その他の人的関係がある第三者も含まれると解されます。

言葉自体が一般に相手を畏怖させるようなものではなくても、行為者(犯人)の職業・地位その他事情と相俟って畏怖させることが可能であれば、それで足ります。
例えば、行為者が暴力団その他反社会的勢力に属する者であり、相手方がそれを知っている場合は、普通なら恐喝にならない言動も、恐喝になり得えます。

告知の手段・方法は、何でもよいとされます。
いわゆる暗黙の告知でも足ります。
行為者が第三者を通じて間接的に告知する場合も含まれます。

3 恐喝における「暴行」
有形力の行使、典型としては、殴る・蹴る・掴む・投げる・絞める等です。
相手方等の身体に直接触れる必要はないと解されます。

4 「財物」と「財産上の利益」
財物の典型は、金銭です。
宝石や自動車といった交換価値・経済的価値を有する物が財物に含まれるのは当然ですが、私人間の手紙(記載済み)等の主観的価値しかないようなものについても、財物になると解されます。
ただ、ちり紙のように所有権等の対象とならないようなものについては、刑法的保護に値する価値がないとして、財物性が否定される可能性があります。

財産上の利益には、財物以外のすべての財産上の利益が含まれます。
具体的には、借金等債務の免除、返済期限の延長、借金の肩代わり、預貯金口座への振込の約束等です。

5 交付・処分を求めること
恐喝は、畏怖させた相手方に財物・財産上の利益を交付させる処分させる犯罪です。

交付・処分先には、行為者本人のほか行為者と一定の関係に立つ第三者も含まれます。

弁護士 北野 岳志

2023年09月28日刑事:刑事

出会い系で知り合った女性から、不同意わいせつ罪で告訴されました。私は同意はあったとの主張ですが、彼女の供述だけで有罪とされることはありますか?

結論:被害者供述の信用性が高いと評価されると、有力な客観証拠がなくても、同意がなかった(→性的犯罪が行われた)と認定される可能性はあります。

1 性犯罪の特徴
性的行為が行われるのは、1対1の状況下であることが非常に多く、目撃証言は通常期待できません。
また、特殊な性癖がある場合を除き、音声・映像が記録されていることもありません。
そのため、類型的に客観証拠が乏しい犯罪と言えます。

2 被害者供述の信用性
一般的に、供述の信用性を判断する要素としては、供述内容の合理性(※ 不自然なところはないか)、供述の一貫性(※ 日によって供述が二転三転していないか)、供述を裏付ける客観証拠の有無等があげられます。

このうち、供述内容の合理性判断では、被害者・加害者との関係、当該行為に至る経緯、被害状況、被害後の経過等をみていくことになります。
問題を難しくしているのは、無理やりの性的行為に直面した被害者の反応に個人差があることです。
大声を出したり、暴れたりと積極的に抵抗する人もいれば、体が固まってしまい、気持ちとは裏腹に抵抗できなくなったりする人もいます。
そのため、供述内容の合理性判断は、極めて慎重に行う必要があります。

3 虚偽供述の動機
被疑者・被告人が性的犯罪をしていないことが事実であれば、被害者は嘘をついたということになります。
この点に関し、被害者に嘘をつく動機、言い換えれば被疑者・被告人を陥れる背景事情があるかも、評価のポイントになります。

例えば、双方の面識がない場合、被害者側の虚偽供述の動機が考え難いため、供述が具体的で一貫していれば、信用されやすいという傾向があります。
もっとも、初対面であっても、何かしらのトラブルがあり、被害者が被疑者・被告人に対して激しく憤っていた等の事情があれば、評価は変わってきます。

4 被疑者・被告人供述の信用性
被害者供述の信用性を図る上で、被疑者・被告人供述の信用性も評価されます。
難しく言うと、被害者供述の信用性は、被疑者・被告人供述から導かれる反対事実が存在するとの疑いに合理性がないといえる程度でなければならないということです。

となると、被疑者・被告人側としては、自らの供述を裏付ける客観証拠がある場合等は、黙秘するより、当該客観証拠に整合する供述を一貫して述べた方が効果的とも考えられます。

ただ、捜査段階で証拠が開示されることは基本的にないため、この点の判断は難しいと言えます。
少なくとも、信頼できる弁護人と十分に協議をすべきでしょう。


弁護士 北野 岳志

2023年09月18日刑事:刑事

あらかじめ時効を放棄する内容の合意は無効になると聞きましたが、どうしてですか?

結論:時効制度が無意味化するおそれがあるからです。

1 時効制度の趣旨
時効制度の趣旨の1つとして、真実の権利状態と異なった事実状態が永続した場合、その事実状態をそのままの権利状態として尊重し、認めるということがあげられています。

2 取得時効と消滅時効
取得時効は、時効の援用によって援用者が権利を取得するというものです。
例えば、荒れ放題だった山田さんの所有地を、鈴木さんが自分の所有地として占有し、20年間耕作し続けた場合、鈴木さんがその土地の所有権を時効取得することが可能となります(民法162条1項)。
この場合、鈴木さんが占有開始時に善意無過失なら、期間は10年に短縮されます(民法162条2項)。

消滅時効は、反対に、時効の援用によって援用者の義務が消滅するというものです。
例えば、佐藤さんからお金を借りた田中さんが、返済期限にお金を返さないまま5年が経過した場合、田中さんは返済義務を時効消滅させることが可能となります(民法166条1項1号)。

3 時効利益をあらかじめ放棄できない理由
分かりやすい例として、借金の貸し手と借り手の関係を取り上げてみます。
仮に時効利益をあらかじめ放棄できるとしたら、貸し手は、時効利益の放棄を借り手に迫ったり、契約書・約款にその条項を定めたりすることが想定されます。
借り手は、基本的に弱い立場にあることから、受け入れざるを得ず、その結果、世の中の貸金契約のほぼすべてにおいて、消滅時効を主張し得ず、時効制度が無意味化するという不都合な事態が起こりかねません

同じような趣旨で、時効期間の延長・中断・停止に関する特約も無効と解釈されます。

4 最後に
貸金業者等が、約款で消滅時効の放棄等を規定することはさすがにないと思われますが、法律に疎い個人間の契約では、今もなお起こり得る問題です。
貸し手から「契約で決めたことだから消滅時効は完成しない」等と言われ、何十年も前の借金の督促を受けているような場合は、弁護士にご相談ください。


弁護士 北野 岳志

2023年09月09日債務整理:債務整理

職権保釈・裁量保釈では、どのような事情が考慮されるのですか?

結論:刑訴法90条に規定されているように、逃亡・罪証隠滅のおそれのほか、身体拘束の継続によって被告人が被る各種不利益等が考慮されます。

1 考慮要素1:逃亡のおそれ
重大犯罪であったり、重大処分につながる前科前歴があったりする場合は、実刑を含む重い処罰を科されることが予想され、逃亡のおそれが高いとされる傾向があります。

また、単身者で借家住まいである、定職に就いていない、反社会的勢力に属している場合も、逃亡のおそれが高いとされがちです。

なお、保釈では高額な保釈保証金を納付し、逃亡があれば没収されます(刑訴法93条、94条、96条)。
そのため、保釈保証金の没収という威嚇があっても防止し得ない程度でなければ、逃亡のおそれありとすべきでないと解されます。

2 考慮要素2:罪証隠滅のおそれ
押収されていない物的証拠を隠滅したり、証人となり得る人物(被害者、目撃者、共犯者等)やその関係者に不当な働きかけをしたりする可能性があることです。

特に否認事件や組織犯罪において、このようなおそれが高いとされる傾向があります。

被害者側と示談が成立している場合は、示談した被害者に対して不当な働きかけをするということは想定し難いことから、罪証隠滅のおそれは著しく低下します。

公判が進行して証拠調べが終了し、判決言い渡しを待つだけとなった場合は、罪証隠滅のおそれを考慮する必要は基本的になくなると解されます。
証拠調べの途中でも重要証拠の調べが済んでいれば、罪証隠滅のおそれを考慮する必要は相当程度低下すると思われます。

なお、逃亡のおそれと同様に、保釈保証金の没収という威嚇があっても防止し得ない程度でなければ、罪証隠滅のおそれありとすべきでないと解されます。

3 考慮要素3:被告人の各種不利益
法文で明記されている不利益は、「健康」、「経済」、「社会生活」、「防御の準備」です。

(1)「健康」上の不利益
勾留によって疾病が発現・増悪したこと、行きつけの病院で継続治療が受けられないこと等があげられます。

しかし、建前上、勾留中でも必要な治療を受けられるとなっているため(刑事収容施設法62条・63条等)、単に調子が悪い・病気になったではさして考慮されないように思われます。

(2)「経済」上の不利益
被告人の勾留によって収入が途絶え、家族が経済的困窮に陥ること等があげられます。

しかし、経済的困窮者には各種福祉制度を活用する救済手段が(一応)あることから、通常、限定的な考慮にとどまると解されます。

(3)「社会生活」上の不利益
就業先から解雇されたり、廃業せざるを得なくなったりすること等があげられます。

ただ、当職の個人的印象では、そういった社会生活上の不利益について、裁判所は、犯罪の結果としての社会制裁として一定程度黙認している感が否めず、さほど重視はしていないように思われます。

(4)「防御の準備」上の不利益
公判における弁護活動に支障を来すことがあげられます。

勾留中も弁護人の接見は可能ですが、電話・メールのやり取りはできないことから、タイムリーなやり取りが難しく、在宅の弁護活動に比べて不便を被ることは否めません。

最近では、公判前整理手続・集中審理が予定される裁判員裁判事件において、訴訟準備を十全に行う必要があることを重視し、保釈を許可した事例が複数見受けられます。

もっとも、裁判員裁判は、重大犯罪を対象にし、類型的に逃亡のおそれが高いとされるものであることから、そのことを踏まえつつ「防御の準備」上の不利益をどこまで考慮するかは、判断が分かれるところだと思われます

弁護士 北野 岳志

2023年08月31日刑事:刑事

刑の時効と公訴時効とはどう違うのですか?

結論:刑の時効とは、有罪裁判が確定してから一定期間、刑罰権が行使されなければ、刑罰権が消滅するというものです。他方、公訴時効とは、刑事裁判の確定前において、犯罪が終了してから一定期間、公訴が提起されなければ、公訴権が消滅するというものです。

1 刑の時効
刑の時効は、有罪裁判確定後を対象とします。
すなわち、有罪裁判確定後、一定期間、刑罰権が行使されなければ、(確定した)刑罰を執行することはできなくなるというものです。

刑法32条は、刑の時効について、次のように定めています。
①無期の懲役又は禁錮:30年、②10年以上の有期懲役又は禁錮:20年、③3年以上10年未満の懲役又は禁錮:10年、④3年未満の懲役又は禁錮:5年、⑤罰金:3年、⑥勾留・科刑・没収:1年

具体的には、有罪裁判が確定した後に逃走した場合、罰金をずっと支払わない場合等があげられます。
ただ、ほとんどの有罪裁判は、確定後または確定と同時に即執行されるので、問題となる事例はあまりないように思われます。

なお、拘禁刑・罰金等については、国外に逃げた場合は、時効は進行しないとされています(刑法33条2項)。

2 公訴時効
前提として、人に刑罰を科すには、国(検察官)が公訴を提起し、有罪判決を得る必要があります。
公訴時効は、犯罪終了から一定期間が経過すると、このような公訴の提起ができなくなるというものです。

刑事訴訟法250条は、公訴時効について、次のように定めています。
(1)人を死亡させた罪であって禁錮以上の刑にあたるもの(死刑を除く)
①無期の懲役又は禁錮:30年、②長期20年以上の有期懲役又は禁錮:20年、③前記①②以外の罪:10年
(2)前記(1)以外の罪
①死刑にあたる罪:25年、②無期の懲役または禁錮:15年、③長期15年以上の有期懲役又は禁錮:10年、④長期15年未満の懲役又は禁錮:7年、⑤長期10年未満の懲役又は禁錮:5年、⑥長期5年未満の懲役又は禁錮:3年、⑦拘留又は科刑:1年
(3)前記(1)(2)以外の特別規定
①不同意わいせつ致傷罪、強盗・不同意性交等罪、常習強盗致傷、常習強盗不合意性交等罪:20年、②不同意性交等罪、監護者性交等罪:15年、③不同意わいせつ罪、監護者わいせつ罪、18歳未満の児童に対する淫行罪(自分を相手方とするもの):12年

被害者が18歳未満の場合は、被害者が18歳になるまでの期間が、公訴時効に加算されます。

公訴時効は、公訴が提起されれば進行が停止するほか、共犯者の1人に対する停止が他の共犯者にも効力を有するとされています(後者については、裁判確定後に公訴時効の進行が再開される)。

公訴時効は、犯人が国外にいる間についても、進行が停止します。
国内で(単に)逃げ隠れている場合は基本的に停止しませんが、公訴提起後、起訴状の送達が逃げ隠れているために不能となった場合については、進行が停止するとされています。

弁護士 北野 岳志

2023年08月22日刑事:刑事

冒頭陳述とは何ですか?

結論:検察官が行う冒頭陳述は、刑事裁判において、事件の全貌を明らかにし、公訴事実を構する個々の事実を具体的かつ詳細に述べる手続きです。弁護人が行う冒頭陳述は、弁護側が考える(検察側と異なる)ストーリーを、証拠により証明すべき事実をもって詳述する手続きです。

1 検察側冒頭陳述(刑訴296条)
検察官は、刑事裁判において、証拠調の冒頭において、証拠により証明すべき事実を明らかにしなればならないとされています。
これは、裁判所としては審理方針を立てること、弁護側としては防御方針を立てることに資するものです。

具体的には、被告人の身上経歴、犯行態様、犯行事実に直結する動機、犯行に至る経緯等です。
特殊な事例として、犯行の発覚から犯人の特定までの経過等が言及されることもあります。
これらによって、起訴状記載の公訴事実の存在と犯罪の成立を主張するわけです。

冒頭陳述の内容や分量は、認め事件か否認事件かで異なり、前者の方が簡潔になります。
これら事実を書面化して、検察官が朗読するというのが一般的です。

この冒頭陳述では、裁判所に偏見・予断を生じさせるような事項を述べることは許されないとされています。
仮にこのような陳述がある場合は、弁護側異議申立てが許されると解されます(刑訴309条1項)。
ただ、どこまで許容されるか・許されないかは諸説あり、裁判としては広く許容する(弁護側異議を認め難い)傾向にあると解されます。

2 弁護側冒頭陳述(刑事訴訟規則198条、裁判員法)
弁護側冒頭陳述は、公判前整理手続に付された事件(例:裁判員裁判)では義務とされています。
それ以外では任意的ですが、否認事件では実施されることが多いように思われます。

弁護側冒頭陳述では、弁護人の考えるストーリー(「ケースセオリー」と言われることも)を、それを構成する各事実(公訴事実を否定する事実、犯罪成立を阻却する理由や減刑理由となる事実、動機・量刑に関する事実等)をもって明らかにすることが求められます。
これにより、対立軸・争点が明確になり、的確な攻撃防御によって、審理を充実させ、円滑に進めることに資するとされます。

弁護士 北野 岳志

2023年08月19日刑事:刑事

公判前整理手続とは、いかなるものですか?

結論:公判前整理手続とは、検察官、弁護人、裁判所の三者によって、充実した公判の審理を継続的かつ迅速に実施するために行う手続きです。裁判員裁判では必須とされているほか、一般事件でも必要に応じて裁判所の判断で行うことが可能とされています。

1 はじめに
公判前整理手続の目的には、「充実」と「迅速」という文言が使用されていますが、一方を重視しすぎるともう一方が軽視されてしまう点に注意が必要です。
特に、裁判所は「迅速」を重視しすぎる傾向があると指摘されています。

公判前整理手続には、検察官、弁護人、裁判所の三者は必ず出頭します。
被告人は出頭できるものの、必須ではありません。

審理予定の策定のため、「争点」と「証拠」の整理が行われることになり(刑訴316条の2第1項)、以下で詳述します。

2 「争点」の整理
まず、検察官が、証明予定事実記載書面を提出します。(刑訴316条の13)。
証明予定事実とは、公判期日において証拠によって証明しようとする事実、言い換えれば、被告人を有罪として適切な量刑をするための事実です。

これを受けて、弁護側が予定主張を明示します(刑訴316条の17)。
ただ、一切の主張をしない、完全黙秘の場合は、予定主張は不要です。
証明予定事実に対する認否については、裁判所から求められることが少なくありませんが、義務とまでは言えず、個別具体的な対応が求められます。
なお、予定主張を明示する前提として、前記証明予定事実のほか、同時期に開示される検察官請求証拠と類型証拠の検討を行うことになります。

その他、手続終了までの間、検察側は証明予定事実を追加・変更することができ(刑訴316条の21)、同様に弁護側も予定主張を追加・変更することができます(刑訴316条の22)。

2 「証拠」の整理
まず、検察官が証明予定事実を証明するための証拠調べ請求が行われ(刑訴316条の13)、いわゆる検察官請求証拠が弁護人に開示されます(刑訴316条の14)。

もっとも、これで十分な証拠開示が行われることは稀です。
そのため、弁護側は、刑訴316条15に規定された証拠、いわゆる類型証拠開示請求を行うことになります。
検察側が証拠開示に応じない場合は、裁判所に対して、証拠開示を求める裁定請求をすることができます(刑訴316条の26)。
ただ、検察側が任意での証拠開示に応じる場合は、類型証拠開示請求が省略されることもあるようです。

以上を踏まえ、弁護側は、検察官請求証拠に対する同意・不同意の意見を述べます(刑訴316条16)。
なお、裁判員裁判では、通常の裁判より、直接主義・口頭主義の要請が強いことから、従来型裁判では同意してきたような書面についても、不同意にすべきとの意見があります。

前記弁護側予定主張の明示と同時に、未だ開示されていない検察側証拠について、弁護側主張に関連する証拠であるとして、開示請求することができます(刑訴316条の20)。
この主張関連証拠開示請求に関しては、証拠の類型による限定はありません。

弁護側としても、予定主張として、証明予定事実がある場合は、予定主張関連証拠の取調べ請求をする必要があります(刑訴316条17)。
証拠書類・物については、検察側に閲覧・謄写の機会を与えなければなりません。

公判前整理手続終了後は、「やむを得ない事由」がある場合に限り、新たな証拠調べ請求をすることができるとされています(刑訴316条32)。

3 証拠の採否決定と審理予定の策定
以上の手続きを経て、裁判所は、検察側・弁護側証拠の採否を決定し、審理予定を策定します。
これによって、公判前整理手続が終了し、公判に移行することになります。

採用された証拠については、相当でないことを理由として異議を述べることは不可とされており、異議を述べる際には何らかの法令違反を主張しなければなりません。

審理予定でもっとも問題となるのは、証人尋問の取調べ予定時間です。
裁判員裁判では、裁判員の負担を考慮し、時間を短くする傾向があるとされています。

終了後には整理された公判前整理手続調書が作成されるため、内容に誤りがないか等を確認しておくことが肝要です。

弁護士 北野 岳志

2023年08月12日刑事:刑事

給料の一部をもらえていませんが、どうしたらいいでしょうか?

結論:支払われていない賃金の効果的な請求方法としては、労働審判か訴訟が考えられます。また、労働基準監督署に労働基準法違反申告を行うことが考えられます。なお、時効には要注意です。

1 賃金支払いに関する原則
雇用主は、労働者に対して、賃金を①通貨で②直接③全額支払わなければなりません。
これは、労働基準法24条1項が規定する原則です。

言い換えれば、雇用主が、所定の賃金を一部でも支払わないことは、前記原則、ひいては法律に違反することになります

2 労働審判と訴訟
(1)労働審判
労働審判は、裁判官と労働審判員2名(労働者側と使用者側)が事件を審理し、基本的に調停による解決を試み、調停が成立しない場合は審判を行うという手続きです。
統計では、調停成立率は7割前後です。

最大の特徴は、原則3回以内の期日で解決するという迅速性です。
反面、申立て時点において、主張や証拠を出し尽くす必要があり、入念な事前準備が不可欠であるほか、膨大かつ緻密な立証が求められる事件には向かないとされます。

審判については、(2週間以内に)異議申立てされると、その効力を失って訴訟に移行してしまいます。
そうなると、当事者は、改めて主張・立証をやり直すことになります。
ちなみに、統計では、異議申立て率は6割程度となっています。

(2)訴訟
訴訟は、労働審判ほど性急な主張・立証は必要とされません。
ある期日に、当事者Aが主張・立証したら、次回期日に他方の当事者Bが反論や補充主張を行い、次々回期日に当事者Aが再反論や補充主張をして・・・というように進行するのが一般的です。
期日は、通常、1か月に1回です。
そして、双方の主張・立証が出尽くした段階で、裁判所が和解を試み、和解が成立しなければ当事者・証人を尋問の上、判決を行います。

当事者間において争いのある事実は、証拠(特に書証が重要)による立証が求められ、十分な証明ができない場合は、裁判上の事実として認定されません。
この点が、訴訟を選択する場合の判断基準となります。

(3)どちらが妥当か
賃金請求の主張・立証は、基本的に単純なものなので、どちらでも問題ないと解されます。

強いて言えば、証拠が揃っていて、遅延損害金も含めてきっちり獲得したい場合は訴訟を、ある程度減額しても早期解決を図りたい場合は労働審判を選ぶべきでしょう。

いずれの手段も相当な専門性が要求されますので、弁護士委任を推奨します。

3 申告受理
前述のように、賃金不払い・未払いは労働基準法違反であることから、労働基準監督官に当該事実を申告することができます(労働基準法104条1項)。

これを受けた労働基準監督官は、所定の調査を行い、違反ありと認めた場合は、是正勧告や指導等を行うことになります。

なお、これによって、賃金支払いの効果が直接生じるわけではないので、ご注意ください。

4 賃金請求権の消滅時効
2020年(令和2年)3月31日以前に発生した賃金請求権の消滅時効は、2年と規定されていました。
それ故、現時点では、前記賃金請求権を行使するのは困難と言えるでしょう。

法改正によって、2020年(令和2年)4月1日以降の賃金請求権については、消滅時効を5年としつつ、当分の間は3年にするという暫定措置がとられています(労働基準法115条1項、同法143条2項)。

以前より若干長くなったとはいえ、放っておけば消滅時効が完成してしまいますから、速やかに請求することが大事です。

弁護士 北野 岳志

2023年08月05日労災・労働問題:労災

前科があると、犯人になりやすいのでしょうか?

結論:前科があることを理由に犯人扱いすることは、基本的に認められません(※ 例外あり)

1 前科の内容と時間的間隔
現在問題となっている犯罪(以下「本件」といいます。)と前科との関連性については、少なくとも犯罪の内容時間的間隔の2点に注目する必要があります。

前科が「盗撮」で本件が「業務上横領」であるように、犯罪の内容が大きく異なる場合は、関連性はないと言えます。
他方、前科が「暴行」で本件が「傷害致死」であるような場合、他人に対して有形力を加えるという共通性があるため、一定の関連性は肯定されるように思われます。

前科と本件はともに「窃盗」ですが、前科が20年以上も前であるように時間的間隔が大きい場合、その間一度は更生したと評価し得ること等から、関連性はない又は乏しいと言えます。
他方、前科からほとんど時間が経っていないような場合(例:1~2年)、前科における犯罪傾向が維持・悪化している等と評価されてしまうでしょう。

2 前科と犯罪認定
前科によって犯人を認定するというのは、おおざっぱに言うと、次のようなものです。
「2年前、B宅で起きた下着泥棒の犯人は、Aだった。」
「最近、また、B宅で下着が盗まれる事件が発生した。」
「犯人はまたAに違いない。」

思い込みに依拠した非常に危険な推論であることがおわかりいただけましたでしょうか。
下着の窃盗事件は、いたるところで頻繁に起きており、Aだけが行い得るものではありません。
前科のあるAを捜査対象とすることはあり得るとしても、前科をもって犯人と決めつけたり、間接証拠にしたりするようなことは不合理です。

これに関して、最判平成24.9.7は、前科をもって犯人と推認することは基本的に許されないとしました。
ただ、前科及び本件の犯罪事実が顕著な特徴を有し、かつ、その特徴が相当程度類似することから、それ自体で同じ犯人であることを合理的に推認させるような場合については、例外的に許されるとしました。

3 前科と情状
このように、前科を犯罪認定に用いることは基本的に許されませんが、情状事実として用いることは妨げられません。

というより、前科や前歴は、情状事実の中で重要視されるものの1つであり、時間的間隔があまり空いていない同種前科がある場合は、量刑は確実に重くなると考えられます。

弁護士 北野 岳志

2023年07月24日刑事:刑事

「不同意わいせつ罪」や「不同意性交等罪」は、以前とどのように変わったのでしょうか?

結論:成立要件が広範になったほか、成立要件が明確された部分があり、以前より成立しやすくなった(立件しやすくなった)と思われます。

1 強制わいせつ罪と不同意わいせつ罪
以前の強制わいせつ罪(旧刑法176条)の条文は次のとおりです。
「13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。」

新たな不同意わいせつ罪(新刑法176条)の条文は次のとおりです。
「1 次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じてわいせつな行為をした者は婚姻関係の有無にかかわらず、6月以上10年以下の拘禁刑に処する。
一 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。
二 心身の障害を生じさせること又はそれがあること。
三 アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。
四 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。
五 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。
六 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕させること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。
七 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。
八 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。
2 行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じてわいせつな行為をした者も、前項と同様とする。
3 16歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者(当該16歳未満の者が13歳以上である場合については、その者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第一項と同様とする。」

暴行・脅迫等の違法行為を不要とする年齢について、旧法は「13歳未満」であったのに対して、新法は「16歳未満」となっています。

旧法の手段としては「暴行・脅迫」しかなかったのに対して、新法はこれに7類型(1項2~8号)が加わりました。

新法では「婚姻関係の有無にかかわらず」という文言が加わっており、夫婦間でも成立することが明らかになりました。
なお、旧法でも成立の余地はあったと解されますが、夫婦であることに遠慮して、捜査機関が捜査や立件をためらうことが少なくなかったと解されます。

新法2項では、誤信や人違いに乗じてわいせつ行為をすることも同罪で処されることとなりました。

2 強制性交等罪と不同意性交等罪
以前の強制わいせつ罪(旧刑法176条)の条文は次のとおりです。
「13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交・校門性交又は口腔性交(以下「性交等」)をした者は、強制性交等の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。13歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。」

新たな不同意性交等罪(新刑法176条)の条文は次のとおりです。
「1 前条第一項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて性交、肛門性交、口腔性交又は膣若しくは肛門に身体の一部(陰茎を除く。)若しくは物を挿入する行為であってわいせつなもの(以下この条及び第百七十九条第二項において「性交等」という。)をした者は婚姻関係の有無にかかわらず、五年以上の有期拘禁刑に処する。
2 行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて性交等をした者も、前項と同様とする。
3 16歳未満の者に対し、性交等をした者(当該16歳未満の者が13歳以上である場合については、その者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第一項と同様とする。」

前記強制わいせつ罪→不同意わいせつ罪と同様の成立範囲の拡大がなされたといえます。

加えて、性交等の概念も拡大されたと解されます。

3 その他
いずれにおいても、新法では、わいせつ罪・性交等罪が成立しやすくなったことは間違いないと言えるでしょう。

なお、旧形法178条の準強制わいせつ・性交等罪は、新法のわいせつ罪・性交等罪の行為類型に加えられた結果(新法176条1項2~4号参照)、削除されました。

弁護士 北野 岳志

2023年07月17日刑事:刑事

不貞(不倫)の慰謝料は、いくらぐらいになるのでしょうか?どのようにして算定されるのでしょうか?

結論:200万~400万円が多いと解されます。算定に当たっては、諸般の事情が総合考慮されますが、中でも、婚姻期間や不貞期間の長さ、及び、不貞行為によって婚姻関係が破綻に至ったか否かが重要と思われます。

1 前提
不貞行為とは婚姻当事者の一方が第三者と肉体関係を持つこと、不貞に及んだ婚姻当事者の一方と第三者には共同不法行為が成立すること、両名は他方の婚姻当事者に対して不真正連帯債務を負うことは、以前(2023.6.13付)のよくある質問(FAQ)で述べたとおりです。

なお、肉体関係がなくても、第三者が婚姻生活を破壊したと評価できる場合には、慰謝料を肯定した裁判例もありますが、レアケースであり、一般化することはできないでしょう。

2 不貞慰謝料の考慮要素
主に取り上げられる要素としては、①婚姻期間、②婚姻生活の状況と破綻の有無、③不貞の期間、④不貞の態様、⑤どちらが主導したか、⑥未成年の子の有無、⑦不貞された婚姻当事者における落ち度の有無・内容等です。

3 不貞慰謝料に関する裁判例の検討
以下では、いくつかの裁判例を取り上げ、前記2における①~⑦の事情がどうだったか、最終的な慰謝料がいくらになったかを見ていきます。

(1)東京地判平成16.3.2:慰謝料200万円
妻が夫の不貞相手に不貞慰謝料を請求した事例
①7年間、②別居する等、実質的には破綻しているが離婚には至っていない(妻が離婚を望んでいない)、③4年間?、④夫と不貞相手は妻に暴行や嫌がらせを行う、不貞相手は夫の子を出産、⑤不明、⑥1人あり、⑦不明

(2)東京地判平成16.2.19:慰謝料300万円
妻が夫の不貞相手に不貞慰謝料を請求した事例
①約20年間、②別居する等実質的には破綻しているが、離婚には至っていない、③2~3年間、④不貞相手は夫の子を出産し、生計を夫に依存、⑤夫がインターネットで相手を募集した、⑥なし、⑦不明

(3)東京地判平成15.6.12:慰謝料400万円
夫が妻の不貞相手に不貞慰謝料を請求した事例
①約11年間、②調停を経て離婚に至った、③1年間超、④妻と不貞相手は夫に無断で預金を引き出したり夫名義で借入をしたりした、⑤不明、⑥2人、⑦不明

(4)東京地判平成14.10.21:慰謝料500万円
妻が夫の不貞相手に不貞慰謝料を請求した事例
①約36年間、②別居中(不貞相手と同棲)だが、離婚には至っていない、③14年間、④不貞相手は夫の子を出産、夫は妻に無断で協議離婚届けを提出、⑤不明、⑥不明、⑦不明

4 最後に
不貞慰謝料の裁判例は非常に多いものの、考慮要素の内容や取り上げ方は様々であり、正確な認定額を見通すのは容易ではない印象です。

その中でも、婚姻期間及び不貞期間の長さ不貞行為によって婚姻関係が破綻に至っていることが、大きな影響を及ぼしていると思われます。

いずれにしても個別具体的な検討が必要ですので、弁護士への相談が推奨されます。


弁護士 北野 岳志

2023年07月14日離婚:離婚

警察に差押された物を早く取り戻したいのですが、どうしたらいいですか?

結論:還付請求・仮還付請求の手続きを用いることができます。

1 前提:差押とその効果
犯罪捜査の必要があるときは、令状に基づく差押ができるとされています(刑訴法218条1項 なお、令状によらない差押については刑訴法220条1項)。

差押は、捜査機関が一時的に物や書類等を領置する処分で、所有権に変動をもたらすものではありません。
そのため、犯罪捜査の必要がなくなれば、禁止薬物や盗品等を除き、押収物を被押収者に返還しなければなりません。

2 還付請求と仮還付請求
押収物は、通常、不起訴処分となったり、公判の証拠として用いられなかったり、終局判決が確定したりした後に、返還されます。

もっとも、被押収者は、捜査機関が押収物を自主的に返還する前に、押収物の返還を請求することができます
この制度が、「還付請求」と「仮還付請求」です(刑訴法123条1項2項、222条1項)。

還付請求は、「留置の必要がないもの」について、できるとされています。
具体的には、押収物が証拠物でない、または、証拠として使用する見込みがないことが明らかとなった場合や、没収することが不可能であるか、その必要がないことが判明した場合とされています。

仮還付請求は、「留置の必要」はなくなっていないものの、一時的に返還しても捜査に支障がないと認められる押収物について、できるとされています。
「仮」であることから、仮還付を受けた物を勝手に処分することは許されず、犯罪捜査の必要がなくなって正式な還付を受けるまで保管義務を負うことになります。

3 請求先と抗告
事件が検察官に送致される前の段階では、管轄警察署の署長が請求先となります。
送致後は、担当検察官が請求先となります。
押収物が証拠品として裁判所に提出されて領置手続きがとられると、裁判所が請求先となります。

還付請求が却下された場合には、これに対する抗告・準抗告を行うことができます。
明確な却下処分がなくても、相当期間、何の処分もしないまま放置されている場合にも、準抗告することができるとされています。

4 最後に
仕事等で、どうしても押収物を早期に返還してもらう必要があるケースは少なくありません。
そのための還付・仮還付請求を検討される場合は、弁護士に相談することをお勧めします。

弁護士 北野 岳志

2023年07月12日刑事:刑事

私だけが株式の生前贈与を受けました。父が亡くなった今、その分の価額を持戻して、みなし相続財産を算定しなければならないのでしょうか?

結論:当該株式の生前贈与については、持戻し免除の意思表示が認められる可能性があり、認められれば持戻しは不要となります。

1 「持戻し免除の意思表示」の概要
特別受益がある場合は、相続開始時点における被相続人の総資産に、特別受益分を持戻して、みなし相続財産を算定するのが原則です(民法903条1項)。

しかし、持戻しを行うと、相続人間の公平が確保される反面、ことさら特定の相続人にだけ便宜を図ろうとした被相続人の意思が無視されることになります。

そのため、被相続人の意思を尊重すべく、「持戻し免除の意思表示」が示されていれば、特別受益分の持戻しは行わないとされています(民法903条3項)。

遺言書等に明記してあれば容易くわかりますが、「持戻し免除の意思表示」があまり周知されていないこともあって、さほど多くはありません。

そして、「持戻し免除の意思表示」は特別の方式が要求されておらず、黙示でもよいとされていることから、その有無をめぐってしばしば争われてきました。

2 黙示の「持戻し免除の意思表示」の有無
一般論としては、贈与(遺贈含む、以下同じ)の内容・価額、贈与の動機、被相続人と受贈者である相続人及びその他相続人との生活関係、相続人・被相続人の職業、経済状態・健康状態、他の相続人における贈与の有無とその内容・価額等の諸般の事情を考慮して判断すべきとされます。

これに関連して、黙示の「持戻し免除の意思表示」が認められ得る典型としては、次の5つがあげられています。

(1)家業(原則:個人事業)のため、後継者となる特定の相続人に対して、不動産(例:店舗建物・敷地、農地)等を引き継がせる必要がある場合

(2)被相続人が特定の相続人から見返りとなる利益を享受していた場合

(3)特定の相続人が病気で働けない等、相続分以上の財産を必要とする特別な事情がある場合

(4)相続人全員に対して、贈与や遺贈をしている場合

(5)居住地域において、社会的慣行や風習と解される場合

3 最後に
黙示の「持戻し免除の意思表示」も認められるとは言え、争いになる余地を残しておくのはお勧めできません。

そのため、被相続人においては、遺言書等で、当該特別受益に関する「持戻し免除の意思表示」を明らかにしておくことが推奨されます。

弁護士 北野 岳志

2023年07月06日相続:相続

亡くなった父の死亡保険金の受取人が姉になっていました。この死亡保険金は、特別受益にはならないのでしょうか?

結論:原則として、特別受益とは扱われず、持戻しの対象にはなりません。もっとも、諸般の事情から、共同相続人間に看過し難い著しい不公平があると解される場合は、特別受益として持戻しの対象になります。

1 特別受益と持戻し
特別受益とは、被相続人から特定の相続人に対してなされた遺贈、または、婚姻・養子縁組・生計の資本としての贈与のことです。「特受(トクジュ)」と略する方もいるようです。

特別受益は、遺産の前渡しというべきものであり、これを無視して遺産分割を行うことは、前記特定の相続人だけが得をし、遺産分割の公平を失することになります。
そこで、被相続人が相続開始時(一般には死亡時)に有していた総財産の価額に、特別受益分の価額を加算して、みなし相続財産の額が算定されます。
この特別受益分の加算を、通常、特別受益の持戻し(モチモドシ)と呼称します。

2 持戻しが行われる場合の具体例
被相続人:A
相続人:BとCの2名 ※ いずれもAの子
A死亡時におけるAの総財産の価額:1億円
Cの特別受益の価額:2000万円
遺言等による相続分の指定なし、持戻し免除の意思なし

みなし相続財産は、2000万円を持戻した結果、1億2000万円となります。

Bが受け取る相続財産は、次の計算式に基づき、6000万円となります。
12,000万円×1/2=6,000万円

Cが受け取る相続財産は、次の計算式に基づき、4000万円となります。
12,000万円×1/2-2,000万円(※ 特別受益分)=4,000万円

3 特定の相続人が受け取る生命保険金は特別受益となるか
最決平成16.10.29は、①当該死亡保険金請求権は、当該保険金受取人が固有の権利として取得すること、②死亡保険金請求権は、被保険者が死亡した時に初めて発生するものであり、保険契約者の払い込んだ保険料と等価関係に立つものではなく、被保険者の稼働能力に代わる給付でもないのであるから、実質的に保険契約者又は被保険者の財産に属していたものとみることはできないこと、といった理由から、原則として特別受益にはならないとしました。

他方、前記最決は、保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、同条の類推適用により、当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となるとし、例外的に特別受益とする余地を認めました
そして、「特段の事情」として考慮する要素として、(a)保険金の額、及び、保険金額の遺産の総額に対する比率、(b)同居の有無、被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係、(c)各相続人の生活実態等をあげました。

4 調停・審判の傾向
死亡保険金額が遺産総額の6割以上で、かつ、高額である場合は、特別受益とされる可能性が高いと思われます。

もっとも、それだけで決まるわけではないため、まずは弁護士への相談をお勧めします。


弁護士 北野 岳志

2023年07月05日相続:相続

クーリング・オフには期間制限があると聞きましたが、すべて同じなのですか?

結論:訪問販売、電話勧誘販売、特定継続的役務提供、訪問購入は8日以内、連鎖販売取引、業務提供誘因販売取引は20日以内とされています。いずれも、法令の要件を満たした書面の交付、または、電磁的方法による提供がなされた時が起算点となります。

1 クーリング・オフの概要
クーリング・オフとは、特定の取引類型につき、所定の期間内に、消費者が無条件で契約を解除できる制度です。

詳細は、特定商取引に関する法律(通称「特商法」)に規定されています。

事業者と消費者との圧倒的な知識・交渉力の格差に鑑み、消費者の損害防止・利益保護の観点から設けられた制度と解されます(特商法1条参照)。

2 クーリング・オフの起算点
クーリング・オフは所定の期間内に行使する必要がありますが、起算点となるのは、法令の要件を満たした書面の交付、または、電磁的方法による提供がなされた時です。

言い換えれば、前記交付・提供がなされていなければ、いつでもクーリング・オフが行使できることになります。

3 クーリング・オフの対象となる取引類型と行使期間
(1)起算点から8日以内の行使が必要とされるもの
訪問販売、電話勧誘販売、特定継続的役務提供、訪問購入の4つがあげられます。

訪問販売は、事業者が消費者の自宅等に訪問し、商品や権利の販売、役務の提供等を行う契約をする取引のことです。

電話勧誘販売は、事業者が消費者に電話を架けて勧誘する取引のことです。

特定継続的役務提供とは、長期・継続的な役務の提供とこれに対する対価を支払う取引のことです。
現在、エステ、美容医療、語学教室、家庭教師、学習塾、結婚相手紹介サービス、パソコン教室7つが対象とされています。

訪問購入は、事業者が消費者の自宅等を訪問して、物品の購入を行う取引のことです。

(2)起算点から20日以内の行使が必要とされるもの
連鎖販売取引、業務提供誘因販売取引の2つがあげられます。

連鎖販売取引は、個人を販売員として勧誘し、更にその個人に別の販売員の勧誘をさせる形で、販売組織を連鎖的に拡大して行う商品(権利)・役務に関する取引のことです。
マルチ商法と言われるものが、これにあたります。

業務提供誘因販売取引とは、軽微な業務で多大な収入が得られるなどという口実で消費者を誘引した上で、当該業務に必要である等と理由をつけて、マニュアル・商品(権利)を先行して購入させる取引のことです。
高額なマニュアルを買わされたけど、約束されていたような美味しい仕事が来ないというのが、よくあるパターンです。

4 クーリング・オフは万能ではない
クーリング・オフを行使すると、契約は解除になり、事業者は受領した金員を消費者に返還しなければなりません。

もっとも、事業者の中には、屁理屈をつけてクーリング・オフを認めなかったり、突然音信不通になって行方をくらましたりすることがあります。
また、判決で勝訴しても、十分な資力がないので支払えないということもあります。

そのため、クーリング・オフさえすれば万事解決ということではなく、そのような悪質な事業者とは、契約自体しないことが最良と思われます。


弁護士 北野 岳志

2023年07月03日その他:その他

執行猶予期間中にまた窃盗をしてしまいましたが、もう執行猶予が付くことはないのでしょうか?

結論:可能性はゼロではありませんが、厳しい条件をクリアする必要があります。

1 刑法25条2項
「①前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその刑の全部の執行を猶予された者が②一年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け、③情状に特に酌量すべきものがあるときも、前項と同様とする。ただし、④次条第一項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。」

これが再度の執行猶予を規定した条文です。以下詳述します。

2 1①について
判決言渡しの時点で、(前刑の)執行猶予中の者を意味します。

裏を返せば、犯行時点では執行猶予期間でも、判決言い渡し時点では執行猶予期間が満了していれば、これにはあたらないと解されます。

3 1②について
文字通り、新たに言い渡される判決が1年以下の懲役または禁錮であることが要件になります。

1年超であれば、再度の執行猶予はつきません。

4 1③について
犯罪の情状が特に軽微で実刑の必要性が乏しく更生の見込みが大きいこととされますが、結局のところ、個別具体的な判断になります。

おそらく、人(裁判官)によって最も判断が分かれ得るのが、この要件です。

5 1④について
文字通り、(前刑の)執行猶予期間中に保護観察に付され、保護観察が終了(※ 仮解除含む)する前に犯罪に及んだ場合には、再度の執行猶予はつきません。

6 再度の執行猶予を付した裁判例
(1)名古屋地判令和2.2.17
公訴事実は窃盗(いわゆる万引き)です。

本件では、窃盗症等の精神障害が認定されています(但し、完全責任能力ありとされました)。
その診断をした医師は、鑑定書を提出するとともに、弁護側証人として出廷しています。

再度の執行猶予(5年)を付した理由として、判決では、被害(約3,000円)が軽微であること、被害弁償ができたこと、窃盗症の影響を大きく受けていたこと、入院して専門治療を受けた上でその後は専門施設に入所して治療を継続していること、両親や社会福祉士の支援が得られていること等があげられています。

(2)東京地判平成27.5.12
公訴事実は窃盗(いわゆる万引き)です。

本件では、(1)と同様にクレプトマニア等の精神障害が認定されています(但し、完全責任能力ありとされました)。

被害額は2万7000円で、万引きの部類としては大きいとされます。

再度の執行猶予を付した理由として、判決では、クレプトマニアによって責任非難が低減されること、被害弁償及び示談ができたこと、薬治療・カウンセリングを受けるとともに自助グループに参加していること、経営者である夫が自らの職場で働かせて公私ともに監督していくことを約束していること等があげられています。

7 まとめ
以上の裁判例を見る限り、再度の執行猶予を得るには、前記1③を満たすために、短期間にかなりの活動をする必要があると思われます。

個人・ご家族だけでは難しいことから、弁護士に相談されるべきでしょう。

弁護士 北野 岳志

2023年07月01日刑事:刑事

銀行から借金する知り合いから、保証人になってと頼まれ、やむなく了承してから5年以上経ちました。消滅時効を援用して保証債務を消滅させることはできますか?

結論:主たる債務者の分割・一部返済が行われているか否かを、確認する必要があります。分割・一部返済が行われれば、それによって保証債務についても時効が更新されるからです。

1 実例:主債務と保証債務
Aさんは、毎月1万円ずつ返済する約束で、B銀行から100万円を借りました。
その際、B銀行からの要請で、Cさんに保証人になってもらうことになりました。
この場合、AさんはB銀行に対して100万円を返済する義務を負い(※ これを「主債務」といいます)、CさんはAさんが100万円を返せない場合に代わりに返済する義務(これを「保証債務」といいます)を負います。

2 主たる債務者(Aさん)について生じた事由が保証人(Bさん)にもたらす効力
保証債務に独立の目的はなく、主たる債務を担保するために存在します。
これを、(主たる債務に対する)付従性といいます。

付従性の具体例は、次のようなものです。
①主たる債務の成立が無効であれば、保証債務も無効となる(なお、根保証に注意)。
②主たる債務が、弁済、取消し、解除等によって消滅すれば、保証債務も消滅する。
③保証債務が、主たる債務より重くなることはない。
④主たる債務者に対する時候の完成猶予、及び、更新は、保証人に対しても効力を生じる(民法457条1項)。
⑤保証人は、主たる債務者の抗弁権(同時履行、消滅時効等)を行使することができる(民法457条2項)。
⑥保証人は、主たる債務者に認められる相殺権、取消権、解除権の行使によって債務を免れられる限度において、保証債務の履行を拒むことができる(民法457条3項)。

3 保証債務における独自の消滅時効援用の可否
保証債務にも、消滅時効は適用されます(民法166条等参照)。

しかし、主たる債務者が一部でも弁済をすれば、それが残部に対する承認となるため、時効が更新されます(民法152条1項)。
すなわち、弁済の時点から新たに時効が起算されるということです。
そして、前記2④によって、主たる債務者にて時効の更新がなされれば、保証債務についても時効の更新がなされます
となると、主たる債務者の一部弁済が継続される限り、保証債務における消滅時効が完成することはありません。

4 実例における検討
B銀行がAさんに100万円を貸し付け、同時にCさんが保証人になってから5年以上経過したとしても、Aさんが毎月1万円の返済を怠らなければ、返済の都度、時効が更新されます。
そうであれば、Cさんの保証債務について消滅時効は完成せず、援用もできなくなります。

弁護士 北野 岳志

2023年06月28日その他:その他

知り合いにあげたり貸したりする目的で、預貯金通帳やキャッシュカードを作成することは、罪になるのでしょうか?

結論:詐欺罪(刑法246条1項)に当たります。

1 譲渡等禁止の背景
預貯金口座を、振り込め詐欺の受入口座にしたり、資金洗浄に用いたりするなど、不正に利用することが問題視されてきました。
そのようなこともあって、金融機関側には、口座開設申込時に、本人確認や利用目的を適切に確認することが義務付けられています(犯罪による収益の移転防止に関する法律、通称、「犯罪収益移転防止法」参照)。

そして、一般的な金融機関では、前記不正利用防止のほか、自由譲渡されると新たな権利者を確認する事務作業が大変であること等から、預貯金債権や通帳・キャッシュカード等を、第三者に譲渡・利用等させることを各規約で禁止しています。
別の言い方をすれば、前記規約に同意することが口座開設の条件であり、不同意であるにもかかわらず口座開設に応じる金融機関は皆無でしょう。

2 詐欺罪における欺罔行為該当性
詐欺罪における人を欺く行為(これを「欺罔行為」といいます)とは、これによって相手方が錯誤に陥り、行為者が希望するような財産の処分行為をするに至るようなものであることが必要です。
裏を返せば、相手方が本当のことを知っていれば、そのような財産の処分行為はしなかったという関連性が求められます

行為者が、第三者に通帳・キャッシュカードを譲渡する意図があるにもかかわらず、それを秘して、譲渡等を禁止した各規約に同意する旨のサインをすることは、金融機関をして、行為者が第三者に譲渡等はしないものと錯誤に陥らせ、それによって口座を開設させ、通帳・キャッシュカード等を交付させる行為と解されます。
裏を返せば、金融機関が、第三者に譲渡等する目的を知っていれば、口座開設や通帳・キャッシュカードの交付等はしなかったという関連性が認められます。

それ故、標題の行為は、欺罔行為に当たり、詐欺罪が成立すると考えられます(最判平成19.7.17参照)。

3 知らなかったという主張は認められるか
「第三者への譲渡等が禁止されているとは知りませんでした。」、「契約書は言われた通りにサインしただけで、第三者への譲渡等の禁止について理解していませんでした」と主張して、詐欺罪の故意を否認することが考えられます。

もっとも、前述の譲渡等禁止について、最判昭和48・7・19は次のように述べています。
「銀行を債務者とする各種の預金債権については一般に譲渡禁止の特約が付されて預金証書等にその旨が記載されており、また預金の種類によっては、明示の特約がなくとも、その性質上黙示の特約があるものと解されていることは、ひろく知られているところであって、このことは少なくとも銀行取引につき経験のある者にとつては周知の事柄に属する」

このように譲渡等禁止が社会通念化していると解されている以上、被告人側が知らなかったことを積極的に立証していく必要がありますが、容易ではないと考えられます。

弁護士 北野 岳志

2023年06月24日刑事:刑事

ある企業から内定をもらっていますが、最近、痴漢行為をして書類送検されました。内定は取消しになるのでしょうか?

結論:内定通知中、内定取消事由として犯罪行為が明記されていた場合、内定取消しが適法とされる可能性が高いと考えられます。

1 採用内定の法的性質
採用内定は、始期付解約権留保付労働契約と解されています。

「始期付解約権留保付」とは、入社時まで、使用者側から労働契約を解約する権利が保持されるということです。

2 内定取消の適法性判断
判例では、解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認することができるものでなければならない。

基本的には、内定通知や誓約書等に記載された取消事由への該当性で判断されますが、それだけで適法になるとは限りません。

3 代表的な内定取消事由
(1)重大な病気(疾患)
内定後の健康診断で、業務に耐えられない程度の病気が判明したような場合があげられます。
(2)卒業できなかったこと
留年して卒業できなくなった場合、1年待ってくれるところもありますが、多くは内定取消となります。
(3)犯罪行為
内定後に犯罪をした場合、犯罪内容にもよりますが、内定取消となる可能性が高いです。
(4)経歴詐称
内定後に経歴詐称が判明した場合、内容や動機にもよりますが、内定取消となる可能性が高いです。

4 裁判で違法な内定取消とされた事例
最判昭和54.7.20(通称:大日本印刷事件)では、内定者に対して陰気な印象があったところ、入社までにそれを打ち消す事情が出なかったことを理由にした内定取消しが、違法かつ無効とされました(※ 別途慰謝料100万円を認定)。

東京地判平成17.1.28は、入社前内定者研修に参加しなかったり、研修結果がよくなかったりしたことを理由とした内定取消しを違法としました(※ 別途慰謝料80万円を認定)。

東京地判平成16.6.23では、能力に問題ありとして内定取消するには、内定後に新たな事実が見つかったこと等の事由が必要であると述べた上で、そのような事由は認められず、違法・無効としました。

5 本件の検討
痴漢行為は、各都道府県の迷惑防止条例違反行為に該当して刑罰の対象となり、社会的な非難も大きいことから、適法な内定取消しとされる可能性が高いと思われます。

もっとも、迷惑防止条例違反の法定刑は強制わいせつ等に比べると軽いことから、被害者と示談できて、最終的に不起訴になったような場合は、取消までされない可能性が高まると考えられます。

弁護士 北野 岳志

2023年06月21日その他:その他

貸金業者から「1万円でいいから支払って」との督促状が届きました。残債は約50万円で、最後の支払から5年以上経ちますが、言うとおりに支払うことによるデメリットはありますか?

結論:一部弁済をすると、時効の更新と評価されて、完成した消滅時効の援用ができなくなります。

1 前提:貸金に関する消滅時効
返済期限が到来してから何事もなく5年間が経過すれば、当該金融機関に対して消滅時効援用し、もって貸金債務の支払いを免れることができると解されます(民法166条1項、同145条)。

2 時効の更新について
時効の「更新」とは、所定の事由が生じたときに時効期間が新たに進行を開始するというものです。
言い換えれば、更新後は、従前に完成していた時効の援用はできなくなります

「更新」事由としては、確定判決、確定判決の同一の効力を有するもの(民法147条2項)や強制執行手続きの完了等(民法148条2項)のほか、権利の承認(民法152条1項)があります。

3 承認について
ここでいう承認とは、抽象的には、時効利益を受ける者が、時効によって権利を失う者に対して、その権利の存在を認識していることを示すことです。

具体例は以下のとおり。

・「〇に対して、…円の借金があることを認めます」と口頭で言うor文書・メールを出す
↑ 
債務(借金)の存在の認識を示す行為と評価されます。

・利息のみ支払う

元本の承認となります。

・借金の一部の支払う

残りについての承認となります。

4 本件の考え方
一部でも支払った場合は、残りについての承認となり、時効が更新されることになります。
すなわち、完成した消滅時効の援用をすることができなくなります。

後で支払をなかったことにはできないため、慎重に検討するべきでしょう。
判断に迷う場合は、弁護士にご相談ください。

弁護士 北野 岳志

2023年06月19日債務整理:債務整理

数年間勤めている会社から、営業成績がよくないことを理由に解雇されました。このような理由で解雇することができるのでしょうか?

結論:成績不良・能力不足での解雇が有効とされることはあります。ただし、プロフェッショナル・即戦力として雇用された場合を除き、非常に厳格な要件をみたすことが求められることから、解雇が無効とされることが多々あります。

1 解雇の法規制
労働契約法16条は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でない解雇は無効と定めています。

一般的に解雇が有効とされるのは、解雇事由が重大で、将来においても存続することが予想され、他に解雇を回避する手段がない場合をいうと解されます。

2 成績不良・能力不足と解雇
多くの就業規則や労働契約においては、成績不良・能力不足を解雇事由の1つに定めています。

実際、出来の悪い社員を雇用し続けるのは、経営者に過度の負担を課すものであるほか、他の社員に悪影響を及ぼすという観点から、解雇を柔軟に認めるべきという考え方もあります。

しかし、本邦の裁判例は、現状そのような考え方は採用せず、解雇が労働者に重大な不利益をもたらす点を重視し、解雇の有効性を厳しく判断しています。

3 成績不良・能力不足による解雇の有効性が争われた裁判例。
(1)解雇が無効とされたもの
東京地決H11.10.15(通称:セガ・エンタープライゼス事件)では、解雇が有効となるには、平均的水準に達していないだけでなく、著しく労働能力が劣り、向上見込みがないことを要するとした上で、本件でそれにあたるとは認定できないとしました。

東京地判H24.10.5(通称:ブルームバーグ・エル・ピー事件)では、当該労働契約上必要とされている職務能力の低下が当該労働契約の継続を期待できない程重大か否か、改善矯正を促して努力反省の機会を与えたのに改善がされなかったか否か、今後の指導による改善可能性の見込みはないか否か等を総合考慮した上で、解雇が相当とは言えないとしました。

(2)解雇が有効とされたもの
東京地判H27.6.2(通称:KPIソリューションズ事件)では、成績不良・能力不足のほか、経歴詐称、論文の盗用、勤務態度の不良等が指摘され、解雇は有効とされました。

解雇が有効とされた裁判例は、成績不良・能力不足だけでなく、それ以外の問題行為(業務命令違反、勤務態度不良、服務規律違反等)が考慮されているものが少なくないように思われます。

4 プロフェッショナル・即戦力について
プロフェッショナル・即戦力として雇用した労働者が期待した能力・資質を有していないような場合は、裁判例は比較的容易に解雇を有効としている傾向がみられます。

東京地判H14.10.22(通称:ヒロセ電機事件)では、海外勤務歴に着目し、語学力・品質管理能力を具備した即戦力として採用したにもかかわらず、予定された能力を有しておらず、これを改善しようとしなかった場合には、解雇されてもやむを得ないとしました。

弁護士 北野 岳志

2023年06月17日その他:その他

収入減で途中で返済できなくなった借金があります。返済中止から10年近くになりますが、未だに督促状が送られてきます。どうすればよいでしょうか?

結論:返済が止まって、期限の利益を失ってから、何事もなく5年超経過している場合は、消滅時効を援用することで返済義務を免れることができると考えられます。

1 消滅時効について
消滅時効とは、一定期間、行使されていない債権を消滅させる制度です(民法166条乃至169条)。

期間経過後、自動的に消滅するのではなく、債務者から「援用」という表示行為が必要となります(民法145条)。
なじみのない言葉ですが、さして難しいものではなく、債権者に対して、口頭・書面等で「時効を援用する」と伝えるだけです(※ 裁判外でも可)。

「一定期間」については、一般の貸金債権の場合、①債権者(貸し手)が権利行使可能であることを知った時から5年、②権利行使可能であるときから10年とされています(民法166条1項)。
権利行使可能であるとは、返済期限が到来しているときと考えられます。
銀行や消費者金融等の金融機関については、専門的知識とそれに基づく管理を行っていると解されることから、権利行使可能であることを知らなかったとは言い難く、基本的に①(5年)となるでしょう。

2 改正民法施行前(2020.3.31以前)について
一般の民事債権の消滅時効の期間は、10年とされていました(改正前民法167条1項)。

他方、貸金業者は、信用組合等の一部例外を除いて会社であり、会社が事業として行う行為は商行為となることから、商事債権として5年の消滅時効(商法522条)が適用されると解されていました。

なお、現在は、商法522条は廃止され、民事債権・商事債権とも、基本的に改正後民法166条1項が適用されます。

3 本件の考え方
借入時期は2020.3.31以前と思われますが、消費者金融からの貸金債権については、前述のように5年で消滅時効が完成します。
そのため、最後の返済から5年以上の期間が経過している場合は、消滅時効の援用を検討すべきでしょう

ところで、一部の悪質な担当者は、消滅時効の援用など馬耳東風で請求を続けることがあるようです。
そのような場合は、対応について、弁護士にご相談ください。

弁護士 北野 岳志

2023年06月16日債務整理:債務整理

ライン工をしていますが、昨日、痴漢行為で罰金刑を受けた後、勤務先から懲戒解雇されてしましました。この処分は妥当でしょうか?

結論:懲戒解雇は重過ぎると思われます。

1 懲戒処分の意義
懲戒処分とは、使用者(雇用主)が従業員(雇用者)の企業秩序違反行為に対する制裁として科す「罰」であり、懲戒解雇、諭旨解雇、降格、出勤停止、減給、戒告、訓告、けん責等があります。

2 懲戒処分と私生活上の非違行為
懲戒処分が有効になされるには、就業規則に懲戒事由が明記された上で、労働者の懲戒事由の程度・内容等に照らして相当なものであることが必要とされます。

労働者の私生活には、基本的に使用者(雇用主)の指揮命令権は及びません。
しかし、労働者は信義則上、使用者の信用・名誉等を下落させない義務(誠実義務)を負うことから、私生活上の行為であっても、企業の円滑な運営に支障を来すおそれがある等の場合には懲戒事由になるというのが判例であり、実際に私生活上の非違行為を懲戒事由としている使用者がほとんどであると言えます。

3 懲戒解雇と痴漢行為
前述のとおり、私生活上の非違行為も懲戒処分の対象にはなるものの、懲戒解雇は最も重い処分であることから、非違行為の内容等に照らして相当であることが求められます。
重過ぎる場合は、懲戒権の濫用として無効となります(労働契約法15条)。

通常、痴漢行為の被疑事実・公訴事実は、迷惑防止条例違反とされています。
なお、程度がひどい場合には、強制わいせつ罪等にもなり得ます。

三重県の迷惑防止条例に照らすと、「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」と規定されており、余り重くない印象も受けます。
しかし、痴漢に代表される破廉恥罪は、社会的非難が厳しく、使用者の信用・名誉等との関係では看過し難い影響を及ぼす可能性があることから、軽く見ることはできません
いささか大げさに言うと、「痴漢をするような者を雇っているのか」と指摘されること等によって、営業上の悪影響が生じ得るということです。
特に、SNSの発達した現在では、実名報道された破廉恥罪の被疑者について、どこに勤めているのか、家族は何人か等の個人情報が匿名第三者によって調べられ、インターネット上にアップロードされることによって、広く知れ渡るということがしばしば生じています。

東京高判平成15.12.11によれば、以前に痴漢行為を複数回行って、その都度懲戒処分を受けていた電鉄会社社員に対する懲戒処分が有効とされています。
これは、何度も同じことをしているということと、本来痴漢行為を抑止すべき電鉄会社社員であることが重視されたものと考えられます。

4 本件の考え方
懲戒処分歴がないこと、強制わいせつ罪には至っていないこと、職業上積極的に痴漢行為を抑止する義務を負うとまでは言えないこと等から、いきなり懲戒解雇するのは重過ぎると言えるでしょう。
争い方としては、従業員としての地位確認や未払い賃金・慰謝料等の請求が考えられます。

懲戒解雇に限らず、科された懲戒処分の妥当性に疑問を持った場合は、弁護士等の専門家に相談することをお勧めします。

弁護士 北野 岳志

2023年06月14日その他:その他

妻が不貞行為をしたと疑っていますが、妻は否定しています。どのような事情があれば、不貞行為が認定されるのでしょうか?

結論:当事者が不貞行為を否定している場合は、事件ごとの個別具体的な事実から有り・無しを判断していくことになります。

1 不貞行為とその影響
 不貞行為は、婚姻中の者が婚姻相手以外の第三者(異性)と性交渉を持つことと解されます。
 一方的に性交渉に及んだ場合(例:強制性交の加害者)も、不貞行為に該当します。

 不貞行為は、裁判上の離婚原因として規定されています(民法770条1項1号)。

 また、婚姻共同生活における平和の維持という権利利益に対する侵害として、民法上の不法行為(民法709条)にもあたることから、不貞行為をされた側の配偶者は、不貞行為をした側の配偶者に対して、損害賠償請求することができます。

 不貞行為の相手方も、故意・過失がある場合、具体的には不貞に当たることを知っていた・知り得た場合には、不法行為責任を負います。
 この場合、不貞行為をした配偶者とその相手方は、他方配偶者に対する共同不法行為となります。
 いわゆる不真正連帯債務となり、次のような効果が生じます。
① 両名が損害の全額の賠償義務を負う。
② 弁済による消滅を除いて、両名の一方に生じた事由(例:免除)は他方に何の影響ももたらさない。
③ 民法上の連帯債務の規定はそのまま適用されず、両名の実質的な関係によって判断される。

2 不貞行為に関する諸事実
(1)妊娠
 妊娠したという事実は、当該女性が直近で性交渉をしたことを推認させます。
もちろん、その相手方が他方配偶者である可能性もありますが、妊娠可能期間中に他方配偶者との間で性交渉がなかったり、困難な状態(例:別居、出張中)であったりすれば、別の第三者と性交渉をしたという可能性が一気に高まります。

(2)メール・SNS等の履歴
 不貞行為に限らず、あらゆる裁判において、メール・SNS(LINEが多い)の履歴は、重要証拠となります。
 その理由は、機械的証拠で、強い客観性を持つからです。
 
 裁判例によれば、不貞行為を推認させるやり取りとして、次のようなものがあげられます。
 「昨日の夜からふくらはぎが筋肉痛」→「エッチのせいじゃん」
 「次はもっと〇〇触っちゃおう」→「ダメだよー」

 やり取りの内容が最重要であることはもちろんですが、日時、前後の文脈、当時における双方の関係性等も踏まえた総合的な判断となります。
 特に、内容だけでは微妙な場合は、周辺事情が大きな意味を持つことになります。

(3)宿泊・同室
 両名が、同じホテル・宿泊施設に泊まったり、数時間一緒に過ごしたりした場合は、それが不貞行為を推認させる事実となります。

 もっとも、それだけで100%不貞行為があったとまでは、断定できません。
 宿泊・同室の前後の事情、当時における双方の関係性等を踏まえた総合的判断となります。

 参考までに、東京地判R4.3.25では、同室の事実を認定しつつ、数年来の自宅の出入りを含めた交流があり、持病のある一方当事者のために家事を手伝ったりしていた事実を指摘して、不貞行為を認定しませんでした。

(4)避妊具やラブホテルのアメニティグッズ
 一方配偶者の私物の中に、避妊具やラブホテルのアメニティグッズが出てきた場合、誰かと性交渉を持ったことが推認されます。

 もっとも、これだけで100%確実とまでは言えず、やはり周辺事情も含めた判断となります。

 前述の東京地判R4.3.25では、これらが見つかった事実を認定しつつ、不貞行為の認定まではしませんでした。

3 最後に
 結局のところ、他方配偶者等が否定している場合に、不貞行為がどの程度の確率をもって認定されるかは、個別具体的判断と言わざるを得ず、弁護士への相談をお勧めします。

弁護士 北野 岳志

2023年06月13日離婚:離婚

「ずっと無料です」という説明もあったので、ネット広告の契約をしましたが、契約書の隅に小さな文字で自動延長とその場合の料金発生が記載されていました。契約書にサインした以上、延長料金を支払わないといけないのでしょうか?

結論:錯誤、または、詐欺に該当すると考えられます。となると、取消しを主張することが可能で、これによって延長料金の支払いを拒否することができると解されます。

1 錯誤にあたるか
錯誤には、表示錯誤(民法95条1項1号)と動機錯誤(民法95条1項2号)の2つがあります。

表示錯誤は、実際に相手方にした意思表示と、本人の内心の意思とが合致しないことです。
契約書に「100万円支払う」と書いたものの、本人は「10万円」と思い込んでいた(※ 0が一つ多いことに気が付いていない)ような場合をいいます。

動機錯誤とは、意思表示と内心の意思との不一致はないものの、意思表示に至る過程、具体的には動機において誤認があることです。
相手が年老いた両親を自宅で世話するために必要という事情に影響を受けて、土地建物を格安で譲渡することに応じたものの、実際に相手の両親は施設に入居しており、それなら格安では売らなかったという事例があげられます。

本件においては、契約書上は自動延長とその際の料金支払いに応じるとなっているものの、これに対応する内心意思が存在しないことから、表示錯誤にあたると解されます。

2 詐欺に当たるか
民法における詐欺とは、騙して一定の意思表示をさせようと企んで、故意に真実を隠したり、嘘をついたりすることです(民法96条1項1号)。真実を告げる義務のある者が、意図して沈黙している場合は、それも詐欺となることがあります。

錯誤に比べてイメージしやすいと思いますが、詐欺の例としては、金メッキであるにも関わらず、「純金」と偽って相手を騙し、純金相当額の対価を得るような行為があげられます。

本件においては、業者は「ずっと無料です」という嘘をついていることから、詐欺に当たると考えられます。

3 意思表示の取消しとその効果
錯誤や詐欺に当たる場合は、それに基づく意思表示を取消すことができま
改正前民法では、錯誤は無効とされていましたが、現行法(令和2年4月1日施行)では取消しです。

意思表示が取消されると、初めから無効となります(民法121条)。
これを遡及効と言います。

本件においては、契約締結時に遡って無効となりますから、契約は成立しなかったことになり、契約に基づく延長料金支払い義務も生じません。
これによって、延長料金の支払いを拒否することができます。

4 その他
いわゆる悪徳業者は、上記のようなことはすべて承知の上で、営業していることが少なくありません。
そして、取消しを主張しても、屁理屈をこねて延長料金の支払いを迫ることがあり得ます。

そのような場合は、弁護士に相談し、代理人対応を依頼したほうがよいでしょう。


弁護士 北野 岳志

2023年06月08日その他:その他

定年まで大分かかる場合でも、退職金は財産分与の対象となりますか?

結論:定年まで相当な時間がかかる場合でも、退職金を財産分与の対象に含めるのが一般的です。もっとも、算定の仕方は一律ではなく、最終的には裁判所の判断となります。

1 退職金の性質と夫婦生活との関係
退職金は、賃金の後払いとしての性格と、(勤続内容・期間に応じた)功労報償としての性格を持つと解されています。

通常、勤務の継続については、同居する夫婦の一方(妻であることが多い)の協力・支えがあればこそと考えられます。
そこで、退職金を夫婦共有財産と同視し、財産分与の対象に含めるのが実務の運用です。

2 財産分与の基礎となる退職金の範囲
次の事例で考えてみたいと思います。
・ Yが20歳の時に、A社で勤務を開始した。A社の定年は65歳である。
・ Yが30歳の時に、Xと結婚した(※ 同時に同居を開始したとする)。
・ Yが50歳の時に、Xと離婚した(※ 別居も同時期とする)。

この場合の退職金の算定方法としては、主に次の3つが考えられます。
① Yが50歳の時に自己都合退職した場合(勤続30年で退職)の退職金を算出した上で、その内婚姻中の同居期間(20年)に対応する部分を対象とする。
② Yが15年後に定年退職した場合の退職金から、婚姻(同居)前期間分(10年)と離婚(別居)後労働分(15年)を差し引き、中間利息(ライプニッツ係数を使用することが多い)を控除した部分を対象とする。
③ Yが15年後に定年退職した場合の退職金から、婚姻(同居)前期間分(10年)と離婚(別居)後労働分(15年)を差し引くが、中間利息は控除しない。ただし、実際に支払うのは退職時(15年後)とする。

どの方式も、長所と短所があります。
また、裁判所は、上記①~③以外の方式で算定することも可能です。

3 同居と別居について
上記事例では婚姻と同居、離婚と別居を同時にしていますが、ズレがある場合は注意が必要です。
例えば、婚姻して半年後に同居を開始した場合、財産分与の対象となるのは、同居後となります。
また、離婚の1年前から別居している場合、財産分与の対象となるのは、別居までとなります。

 

夫婦が同居して生活をしていることが、夫婦の一方に対する生活面における協力・支えの前提と考えられるからです。


弁護士 北野 岳志

2023年06月07日離婚:離婚

財産分与とは何ですか?いつまでに行う必要がありますか?

結論:財産分与とは、離婚に際し、夫婦の一方が他方に対して、結婚中に築いた財産を分配することです。家庭裁判所への請求は、離婚が先行している場合、離婚から2年以内に行う必要があります

1 財産分与の意義と趣旨
離婚の際、夫婦の一方(妻であることが多い)は、他方(夫であることが多い)に対して、婚姻中に得られた財産の分配を請求することができます(民法768条1項)。

夫婦生活において得られた財産は、一般に夫婦の協力によって得られたものと解されます。
協力とは、働いて家族の生計を稼ぐことはもちろん、家事等の報酬を伴わない作業で他の家族の生活を支えることも含まれます。
そして、夫婦共同生活の消滅時、具体的にいうと離婚の際には、当該財産の名義がどちらになっていようと、これを分配するのが相当と解されています。

別の言い方をすると、結婚前から有する財産や婚姻中に自己の名で得た財産については、財産分与の対象となりません。
これらを「特有財産」と言います。
もっとも、夫婦のいずれに属するか定かでない財産は、夫婦の共有と推定されるほか(民法762条2項)、特有財産にあたることの立証責任はその主張をする側(夫であることが多い)が負います。
どちらのものか明確にしていない物が多いと、特有財産であることを主張・立証することは相当な困難を要するでしょう。

2 別居と財産分与
先行して別居している夫婦における財産分与では、別居時までに得た財産が分与の対象となります。

また、対象となる財産の評価は、財産分与請求時を基準とするのが原則ですが、預貯金や保険・共済の解約返戻金等は別居時が基準になると解されています。
後者の理由は、基本的に財産価値が変動しないからです。

3 財産分与の割合
半分半分、2分の1ずつが原則となります。

これに対して、一方が自身の寄与度が大きい旨を主張して、より大きな割合を主張することは可能ですし(民法768条3項も参照)、立証が奏功してその主張が認められた事例もあります。

4 財産分与の方法
原則どおり、割合を半々にしたとしても、すべての財産を均一に半々に分けることまでは求められません。

例えば、いずれも夫名義で、1000万円の不動産、100万円の自動車、900万円の預貯金、計2000万円相当が対象財産であった場合、妻は夫に対して、自動車+預貯金全額を請求することも、不動産のみの請求をすることも、理論上は可能と解されます(※ 実際は細かい調整が必要となりますが)。

5 債務・借金について
多数説は、債務・借金は、基本的に財産分与の対象にならないとします。

もっとも、実務では、プラスの財産(不動産、自動車等)がある場合には、これらを得るために負担した債務(例:住宅ローン、自動車ローン等)を控除することで考慮されている。

なお、遊興やギャンブル等に用いた借金については、夫婦共同生活に必要な債務ではないことから、原則どおり考慮されません。

6 請求期間
夫婦間の協議が整えば、公序良俗に反しない限り、いかなる内容で夫婦の財産を分配するも・しないも自由です。
この場合、合意書・協議書で書面化し、双方の認識不一致を防止するとともに、協議に基づく履行を確実にしておくことが推奨されます。

協議が整わない場合は、家庭裁判所に対して、協議に代わる処分を請求することができますが、離婚から2年という時的制約が規定されている点には注意が必要です(民法768条2項)。

弁護士 北野 岳志

2023年06月06日離婚:離婚

窃盗罪で保護されている「占有」とは、どのような内容ですか?

結論:物を事実上支配・管理する状態であり、物を持ったり身に着けたりしている場合はもちろん、そうでなくとも支配・管理が及んでいるとして認められることがあります。

1 窃盗罪における占有の意義
現状、判例・実務は、窃盗罪における保護法益は、「占有」と解しています。

「占有」は、物を事実上支配・管理する状態等と定義されます。
詳述すると、主観的要素としての「支配意思(物を事実上支配・管理しようという意欲・意思)」と、客観的要素としての「支配の事実」が要件となります。

占有されている他人の財物を奪った場合は窃盗罪(10年以下の懲役、または、50万円以下の罰金)となり、占有されていない他人の財物を盗った場合は占有離脱物横領罪(1年以下の懲役、または、10万円以下の罰金)となります。
このように、罪の重さを決める上でも、占有のあり・なしは重要な意味を持っています。

2 「占有」と認められた具体例
旅館に置き忘れた財布については、旅館主の占有が認められています。

ゴルフ場のロストボールには、ゴルフ場管理者の占有が認められています。

自宅角から約1.5m離れた公道上の看板柱そばに立てかけられた自転車について、自転車所有者の占有が認められています。

バス待ちで並んでいる際、カメラを置き忘れたことに気づいて、カメラから約20m、時間にして約5分の距離的・時間的間隔があった状況において、カメラ所有者の占有が認められています。

公園ベンチにポシェットを置いたまま、ポシェットから約27m、時間にして約2分の距離的・時間的間隔があった状況において、ポシェット所有者の占有が認められています。

3 「占有」と認められなかった具体例
村役場の事務室に納税者が置き忘れた金員については、村長の占有は認められませんでした。

電車の客室内に置き忘れた物については、車掌等の占有は認められませんでした。

開店中の大規模スーパーマーケットの6階ベンチに札入れを置いたまま、地下1階に移動し、約10分間放置されていた状況において、札入れ所有者の占有は認められませんでした。

4 まとめ
各事例からわかるように、窃盗罪における占有は、実際に財物を携帯していない場合でも認定されていますが、その判断基準は明瞭とは言い難く、財物の特性や支配の意思の強弱、距離的・時間的要素等を総合勘案して評価していると解されます。


弁護士 北野 岳志

2023年05月30日刑事:刑事

扶養義務は、大きく2つに分けられると聞きましたが、どのような内容でしょうか?

結論:①生活保持義務と②生活扶助義務に分けられます。①生活保持義務は、主に父母が未成熟子に対して負うもので、自己と同程度の生活をさせる義務です。②生活扶助義務とは、その他の一般親族間で負うもので、自己の社会的地位に照らし相応な生活を犠牲にすることなく、給付できる限りで行う義務です。

1 扶養義務の概要
直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務があるとされています(民法877条1項)。

「直系」とは、血縁が直上直下する形でつながる関係で、親子がその典型です。

「血族」には、自然血族(出生によるつながり)と法定血族(養子縁組によるつながり)のいずれも含みます。
似た言葉に「姻族」がありますが、こちらは婚姻を媒介とする関係です(例:夫と妻の父母)。

扶養する義務、扶養義務とは、ある人の生活を維持するため、これに経済的給付(資金援助)を行う義務を意味します。
一方の人が自身の資力と稼働能力では生活できない状態に陥っていること(※ 扶養必要状態といいます)と、もう一方の人が扶養する経済的余裕(※ 扶養能力といいます)があることが必要で、いずれを欠いても具体的な扶養義務は発生しないと解されます。
つまり、親子であるAさんとBさんの双方とも生活に困窮していたり、双方とも裕福な生活を送っていたりする場合は、扶養の権利・義務は基本的に生じないということです。

2 生活保持義務
父母は、未成熟子に対して、自らと同程度の生活をさせる義務があるとされています。
父母が裕福な生活をしている場合、同じくらい裕福な生活をさせてあげなければならないということです。

このような生活保持義務は、夫婦間にも生じると解されています。

離婚する際、親権は夫婦の一方(元妻であることが多い)が持つことになりますが、もう一方(元夫であることが多い)の未成熟子に対する生活保持義務は、先順位の扶養義務者(例:再婚相手)が現れない限り、維持されます。

なお、未成熟子は、20歳未満の子を意味します。
昨今の民法改正によって、成年年齢は18歳となりましたが(民法4条)、未成熟子について特段の取り決めがなければ、基本的に20歳未満と解する運用がなされています。

3 生活扶助義務
夫婦間と父母と未成熟子間を除く扶養義務は、すべて生活扶助義務と解されます。
これは、自己の地位・職業等に相応な生活を犠牲にすることなく、可能な範囲で経済的給付を行うというものです。
裕福な生活をしている場合、裕福な生活水準を落とさない範囲で援助してあげればよく、それで十分となります。

4 扶養義務が適切に行使されない場合
扶養義務は、前述のように、一方が扶養必要状態にあり、もう一方に扶養能力があれば発生しますが、当事者間の協議が整わない場合は、家庭裁判所に調停・審判を申し立てることができます(民法879条、家事事件手続法別表第二・10)。

よく見知った間柄で法的措置をとることは、人情として躊躇するところがないとは言えませんが、やむを得ない場合は弁護士に相談の上、対応を検討すべきでしょう。


弁護士 北野 岳志

2023年05月29日離婚:離婚

離婚時の合意に基づき、子どもの親権は元妻が有し、私は養育費を支払ってきました。先日、元妻が再婚したと知りましたが、もう養育費を支払わなくてもよいのでしょうか?

結論:子どもと元妻の再婚相手との間で、養子縁組が結ばれたかどうかを確認する必要があります。養子縁組が結ばれたのであれば、基本的に従前の養育費を支払わなくてよくなると考えられます

1 離婚時における養育費支払義務の傾向
子どものいる夫婦が離婚する場合、その養育費の支払いについて取り決めがなされるのが通常です(民法766条1項2項)。
そして、ごく一般的な夫婦の場合、親権は妻が有し、夫が養育費支払義務を負うことが多いと解されます。

2 再婚による事情の変更
上記のような一般的な離婚事例において、元妻が別の男性と再婚することがあります。
この場合に注意しなければならないのは、再婚相手となる男性は、元妻の連れ子と養子縁組を結んでもいいし、結ばなくてもいいという点です。

養子縁組が結ばれた場合は、養子が養親との新たな共同生活に入ると解され、その子どもとの関係における扶養義務者は、再婚相手(養親)が元夫(実親)より先順位になると解されます。
つまり、後順位となった元夫は、再婚相手(養親)が扶養義務を果たすことができない特段の事情のない限り、従前の養育費が減額される・免除されることになります。

他方、養子縁組がされていない場合、再婚相手は養親ではなく、連れ子に対する扶養義務を負うことはありません。
もっとも、元妻との関係では婚姻費用負担義務を負います(民法752条)。
再婚相手が婚姻費用を負担することで、元妻の資力に余裕が生じるような場合は、前記婚姻費用の全額または一部を元妻の収入増加とみなし、その効果として、元夫は養育費の減額を求める余地があると解されます(民法766条3項)。

3 最後に
以上のように、再婚したから、養育費の支払いを即ストップするというのは早計です。
弁護士と相談し、周辺事情を調査の上、適切な対応をとるべきでしょう。


弁護士 北野 岳志

2023年05月27日離婚:離婚

取調べに呼ばれていますが、黙秘すると不利になりませんか?

結論:黙秘権は憲法や刑事訴訟法によって保障された権利です。また、黙秘していることから、不利益な推認をすることはできないとされています。よって、黙秘の行使に、後ろめたさを感じることは全くありません。

1 黙秘権の意義と法的根拠
黙秘権は、ずっと黙っていることができる権利です。

黙秘権の経緯としては、国家権力によって、無実の人が自白を強制されてきたという歴史的事実に対する反省として認められるようになったと説明されます。

憲法38条1項は、「何人も、自己に不利益な供述を強要されない」と定めています。
刑事訴訟法198条2項は、「前項の取調に際しては、被疑者に対し、あらかじめ、自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げなければならない。」と定めています。
これらから、取調べにおいて黙秘すること、すなわち黙って何も話さないことは、れっきとした権利行使であることがわかります。

黙秘権は、刑事裁判においても保障されています(前記憲法38条1項、刑事訴訟法291条4項、311条1項)。
そして、黙秘をもって犯罪事実について不利益な心証をとることはできないというのが判例・通説であり、札幌高判平成14・3・19は、黙秘の事実をもって殺意を認定すべきという検察官の主張について、黙秘権保障に反すると述べました。

2 取調べにおける黙秘つぶしの実情
さすがに、黙秘を直接とがめるような発言(例:「黙秘するなんて反省していないのか!」「被害者に申し訳ないと思わないのか!」)は、ほぼなくなってきているように思われますが、黙秘を自発的に撤回させようとする働きかけは、すべての取調べにおいて行われているといってよいでしょう。

例を挙げると、「黙秘してもいいけど、あなたにとって損になると思うよ」「弁護人の言っていることが、本当にあなたのためになるのかな」等の発言があります。
また、事件と関係のない雑談をすることで人間関係を築き、黙秘の意思を氷解させるようなやり方もあるようです。

取調べの主たる目的の1つは、捜査機関の筋書きに沿った供述調書の作成と考えられており、黙秘されてはそれが叶わなくなります。
そのため、通常、あの手この手で、黙秘を撤回させようとしてきます。

一旦、黙秘を解除すると、人間的な心理として、再び黙秘することはやりづらくなります。
その結果、ずるずる取調べに応じて、意にそぐわない供述調書が作成されてしまったという事例は数多あります。

3 強い意思をもって一貫すること
黙秘し続けるのは、それほど簡単なことではなく、当人の強い意思が不可欠です。
黙秘権行使に少しでも後ろめたさがあれば、どこかで崩れる可能性が高くなります。

繰り返しになりますが、黙秘権は、人権侵害の歴史に対する反省から生み出された法的「権利」であり、黙秘することは「正当な」権利行使であることを、広くご理解いただきたいと思います。

4 認め事件と黙秘
認め事件(※ 犯罪事実を争わない、「私がやりました」という事件)でも、黙秘権行使はできます。
もっとも、進んで供述して反省を示すことで、有利な情状にするという選択もあります。
この点は、難しい判断になりますので、弁護士と相談した方がよいでしょう。


弁護士 北野 岳志

2023年05月24日刑事:刑事

相続放棄したいのですが、相続放棄後、私が持っている相続財産は捨てていいのでしょうか?

結論:相続放棄しても、他の相続人に引き継ぐまで相続財産に対する注意義務はなくならず、勝手に捨てることは認められません。全員が相続放棄してしまった場合は、相続財産清算人の選任申立てをすることが考えられますが、予納金には注意を要します。

1 相続放棄の意義。
相続放棄とは、相続人が、積極財産(例:預貯金)・消極財産(例:借金)に関わらず、被相続人に属した一切の相続財産を承継しない手続きです。
これによって、相続人は、初めから相続人にならなかったものとみなされます(民法939条)。

相続放棄は、被相続人(例:親、配偶者)が亡くなったこと、及び、その相続財産の存在を知った時から3ヶ月以内(※ 初日不算入)に、管轄の家庭裁判所に申立てをすることによって行います。

前記3ヶ月は「熟慮期間」と呼称され、相続財産の調査に時間を要する場合等では、家庭裁判所に申立てをすることで期間を伸長することができます。
どこまで伸長するかは、最終的には家庭裁判所の審判によります。

2 相続放棄の効果
前述のように、相続放棄の審判がなされると、初めから相続人ではなかったことになり、相続の効果を拒否することができます。

民法上、相続人となるものは、被相続人の配偶者に加え、子ども(第一順位)、直系尊属(第二順位)、兄弟姉妹(第三順位)とされています(民法887条、889条、890条)。
子どもについては代襲と再代襲、兄弟姉妹については代襲があります。

前記順位に基づき、子どもが相続放棄すれば直系尊属が相続人となり、直系尊属が相続放棄すれば兄弟姉妹が相続人となります。
最終的に兄弟姉妹と配偶者が相続放棄すれば、法定相続人はいなくなります。

3 相続放棄後の財産と相続財産清算人
相続放棄した元相続人が、何らかの事情で相続財産を占有していた場合、元相続人は「自己の財産におけるのと同一の注意」をもって、相続人または相続財産清算人に相続財産を引き渡すまでの間、保存しなければなりません(民法940条1項)。
勝手に捨てたりすることは、認められません。

相続財産清算人は、利害関係者(元相続人含む)や検察官の請求によって、家庭裁判所が選任します(民法952条1項)。
相続財産清算人は、相続財産を管理するとともに、相続人の存否を確定し、また、特別縁故者や債権者・債務者等を確定すべく、調査を行います。
最終的に相続人不存在が確定した時は、相続財産を清算して、残余財産は国庫に帰属させます(民法959条)。

元相続人は、相続財産清算人が選任されれば、占有している相続財産の管理を引き継いでもらうことで、前述の注意義務から解放されます。

4 予納金
申立の際には、予納金を求められることには注意を要します。
予納金は、相続財産清算人への報酬や相続財産の管理、各種調査に用いることが予定されている金員です。
予納金の額は、相続財産の数、種類、評価額等によって異なりますが、相続財産がほぼない場合でも30万円~50万円程度必要となります。

検察官に対して申立てを請求する法的権利は認められていないため、元相続人間で協議して、どのようにして予納金を負担するかを協議すべきでしょう。
なお、相続財産占有者が単独で申立てをして予納金を納付後、元相続人らに対して求償する権利までは認められないと解されます。

弁護士 北野 岳志

2023年05月20日相続:相続

相続した土地を国に帰属させる制度ができたと聞きました。管理が手間だし、買い手も見つからないので、利用したいのですが・・・。

結論:どんな土地でも国庫へ帰属させられるわけではなく、所定の要件を満たした上で、所定の手続きを踏む必要があります。併せて、10年分の管理コスト相当額を期限内に納付しなければなりません。

1 相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律(以下「相続土地国庫帰属法」「法」と略す)の趣旨
相続土地国庫帰属法は、令和5年4月27日に施行された新しい法律です。
法務省が作成したパンフレットには、「相続した利用しない土地を手放す制度」と記載されています。
これによって、相続人を土地所有に伴う管理負担から解放するというのが制度趣旨とされています。

2 国庫帰属の要件
(1)相続または遺贈(※ 相続人に対する遺贈に限る)によって、土地の所有権・共有持分を取得したこと
法の施行前に取得した土地も対象となります。
(2)承認申請者が本人または法定代理人であること
弁護士等の任意代理人による手続代理は認められていません(※ 書類作成の代行までは可)。
なお、パンフレットでは、専門家が代理できないことに配慮したのか、法務局への事前相談(要予約)を推奨しています。
(3)申請ができない土地に該当しないこと
申請の対象外となる土地は、次のとおりです。
ア 土地上に建物があること
イ 担保権・用益物権が設定されていること
ウ 通路等他人による使用が予定されていること
エ 土壌汚染があること
オ 境界が不明であったり、所有権に争いがあったりすること
カ 崖地(※ 勾配30度以上+高さ5メートル以上)で、管理に過分の費用・労力を要すること
キ 土地上に通常の管理・処分を阻害する工作物や樹木等があること
ク 通常の管理・処分を阻害する埋設物があること
ケ 隣接地所有者等との紛争のおそれがあること
コ その他通常の処分・管理をするにあたり過分の費用・労力を要する土地にあたること(法施行令3条3項各号参照)

3 申請と審査手続き
前記要件をすべて満たす場合、法務局に対して、書面をもって承認申請を行うことになりますが、この際、土地1筆につき14,000円の審査手数料の納付(※ 収入印紙で)が求められます。
前記書面には、必要事項の記載のほか、土地の位置及び範囲を明らかにする図面(※ 国土地理院地図、住宅地図等)と隣接地との境界を明らかにする写真、対象地の形状を明らかにする写真の添付が求められます。

書面調査の段階で、不備や要件非該当が判明したら、却下となります。
書面調査をクリアすると、法務局担当者による実地調査が行われ、それに基づいて承認・不承認の判断が示されます。
現状、最終判断が出るまでの期間の目安は、半年~1年間とされています。

4 負担金の納付
承認が出た後、申請者は、承認通知の到達から30日以内に、負担金を納付しなければなりません。
納付は、承認通知と同時に送付される納入告知書に基づき、金融機関を介して行います
負担金が期限内に納付されなければ、承認は失効になります(一からやり直しとなる)。

負担金の計算方法は、法務省ホームページに自動計算シートがアップされていますが、一例をあげると次のとおりです。
(1)宅地
原則:20万円(※ 面積問わない)
例外:都市計画法の市街区域又は用途地域が指定されている地域内にある場合は、面積による。
例えば、面積200㎡であれば、793,000円となる。
(2)農地
原則:20万円(※ 面積問わない)
例外:都市計画法の市街区域又は用途地域が指定されている地域内、農業振興地域の整備に関する法律の農用地区域内、土地改良事業等の施行区域内にある場合は、面積による。
例えば、面積1000㎡であれば、1,128,000円となる。
(3)森林
面積による。
例えば、面積3,000㎡であれば、299,000円となる。
(4)その他雑種地、原野
20万円(※ 面積は問わず)

5 私見
最終的に承認を得るまでには、相続人は、相当な時間・費用・労力を費やすことになると思われます。
そうであれば、相続時点において見通しを立てた上で、相続放棄をする方が合理的であるように感じました。

弁護士 北野 岳志

2023年05月18日不動産:不動産

先日父親が亡くなりましたが、弟が行方不明のため、遺産分割協議をすることができません。どうすべきでしょうか?

結論:不在者財産管理人選任の審判を申立て、選ばれた不在者財産管理人との間で遺産分割協議を行うべきです。ただ、生存が証明された最後の時から長期間経過している場合は、失踪宣告の審判を申し立てることも検討すべきでしょう。

1 問題の所在
遺産分割協議が有効に成立するには、すべての相続人が協議内容について合意する必要があり、1人でも欠けている場合は無効となります。
そのため、本件のように連絡の取れない相続人がいる場合も、その者の死亡が確認されない以上無視することはできず、どう対処すべきかが問題となります。

2 調査
まずは、何とか連絡が取れないか、調査を行う必要があります。
従前の電話番号と住所がわかっている場合は、電話をかける・手紙を出す・訪問する等が考えられます。
行方不明直前の職場や友人が何か事情を知っている可能性がありますので、一度は聞いてみるべきでしょう。
また、SNSが発達した時代ですので、著名なSNSにアカウントを開設していないか探ってみるのも1つです。
手紙が宛所なしで帰ってきた場合は、住民票を取り付けて、転出・転入の手続きがとられているかを確認することも求められます。

3 不在者財産管理人選任審判の申立て
前述の調査にもかかわらず、当該相続人の行方や生死が不明の場合は、不在者財産管理人選任審判の申立てを行うべきです(民法25条1項)。
不在者財産管理人」とは、不在者(※ ここでは行方不明となった弟)のためにその財産を管理・保存することを職務とするもので、家庭裁判所の審判によって選任されます(※ 不在者自身が依頼した委任管理人は含めません)。
法律上の地位としては、不在者の法定代理人とされます。

不在者財産管理人となるのに、特別な資格は不要です。
もっとも、職務の性質上、不在者と利害が対立する者は適しません。
また、職務の専門性から、弁護士・司法書士等の士業が選ばれることが多いです。
士業以外の不在者財産管理人をどの程度許容するかは、地域によって温度差があるようです。

申立後、1~2か月かけて裁判所内の手続きが進められ、選任の可否についての結論が示されます。
不在者財産管理人が選任されれば、その者を不在者の代わりに加えて、遺産分割協議を行うことが可能となります。

4 失踪宣告
調査の結果、不在者の生存が証明された最後の時から7年間経っている場合は、失踪宣告の申立てをすることができます(民法30条1項)。
これを「普通失踪」といいます。

不在者が戦争や船舶の沈没等に巻き込まれている場合は、それら危難がさった後1年間経過後に失踪宣告の申立てをすることができます(民法30条2項)。
これを「特別失踪」といいます

失踪宣告の申立てがなされると、普通失踪は3~4ヶ月、特別失踪は1~2か月の公告期間が設けられ、期間満了時に裁判所から失踪宣告の審判が行われます。
失踪宣告の審判結果は関係書類とともに申立人に郵送され、不服がある場合は、到達日の翌日から14日以内に即時抗告をすることができます。
期限内に即時抗告をしなければ、審判結果は確定し、不在者は死亡したものとみなされます

死亡したとみなされる日は、普通失踪の場合は「生存が証明された最後の時から7年間満了時」、特別失踪の場合は「危難が去った時」です。
その後は、不在者は死亡したものとみなして、残りの相続人間で遺産分割協議を進めていくことになります。

なお、不在者の生存が判明した場合は、失踪宣告は取り消され、失踪宣告に基づく死亡の効果は当初から生じなかったものとされます(民法121条)。
ただし、取消しによって返還する財産は現に利益を受けている限度で足りるほか、取消し前に善意で行った行為は効力を失いません(民法32条1項2項)。

弁護士 北野 岳志

2023年05月17日相続:相続

賃借物件で漏水があった場合、賃料の支払いを拒否することはできますか?

結論:漏水によって、賃借物件の全部または一部につき、使用・収益することができなくなった場合は、その程度に応じて、漏水以降の賃料の全部または一部を支払わなくてよいと考えられます。

1 問題の所在
賃貸借契約は、賃借人が目的物の使用・収益をする対価として、賃貸人に対して賃料を支払うというものです(民法601条)。
そのため、漏水等の事情で目的物の使用・収益に支障を来した場合、対価としての賃料を満額支払わなくてもよいのではないかという問題が生じます。

2 民法611条1項
民法611条1項(※ 平成29年改正)は、「賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。」と規定します。
これは、前述の賃料の対価性を踏まえたものと解されます。

本条の「その他の事由」には漏水も含まれますので、漏水被害に遭った借主は、借主が原因で生じた漏水でない限り、本条に基づき、漏水以降の賃料の全部または一部の支払いを拒否することができます。

3 立証責任
民法611条1項は、「使用及び収益をすることができなくなった」ことを要件としており、その立証は賃借人が負います。
それ故、賃借人としては、当該賃貸借の目的、漏水の程度、前記目的との関係で漏水による使用・収益への具体的影響(※ 漏水前と比べて利用価値が何割程度減じたか)を的確に立証する必要があります
減じた程度については、漏水によって汚損した部分の床面積を、賃借物件全体の床面積で割るというのが単純なやり方ですが、それだけでは正確な算定はできないケースも多々あると考えられます。

「賃借人の責めに帰することができない事由によるもの」、いわゆる帰責事由については、賃借人が立証するのではなく、賃貸人の抗弁と解されます。
すなわち、賃借人から、民法611条1項に基づく全部または一部の賃料の支払い拒否・減額請求に対して、賃借人に帰責事由がある(※ 漏水の原因は賃借人にある)ことを立証することで賃料の減額を免れるということです。


弁護士 北野 岳志

2023年05月09日不動産:不動産

どうすれば保釈が認められますか?

結論:保釈保証金を用意する、身元引受人を確保する、被害者と示談する等が考えられます。もっとも、100%保釈が認められる方法はありませんし、事件の性質上、保釈許可が出づらい場合もあります。

1 保釈の意義
保釈は、保釈保証金の納付等を条件として、勾留の執行を停止し、被告人を身体拘束から暫定的に解放する制度です(刑訴法88条)。
「被告人」とあるように、保釈を請求できるのは、起訴後になります。
保釈中に逃亡等をした場合は、保釈許可が取り消され、保釈保証金の全部又は一部が没収されることとなります(刑訴法96条)。

保釈は、「権利保釈or必要的保釈(刑訴法89条)」、「職権保釈or裁量保釈(刑訴法90条)」、「義務的保釈(刑訴法91条)」の3つに分けられます。

権利保釈(必要的保釈)」とは、刑訴法89条1~6号に該当する場合を除き、保釈を許可しなければならないというものです。
除外事由として規定されているのは、重罪にあたる場合(1~3号)、罪証隠滅すると疑うに足る相当な理由がある場合(4号)、証人や関係者へ加害行為・畏怖行為をすると疑うに足る相当な理由がある場合(5号)、氏名不詳の場合(6号)です。
逃亡の恐れは除外事由に明記されていませんが、保釈の取消し事由として規定されていること(刑訴法96条1項2号)の関係から、事実上考慮されていると考えられます。

職権保釈(裁量保釈)」とは、権利保釈における除外事由に該当していたとしても、裁判所の合理的な裁量によって、保釈を許可することができるというものです。

義務的保釈」とは、勾留による拘禁が不当に長くなった場合は、権利保釈や職権保釈が認められなくても、保釈を許可しなければならないというものです。



2 保釈保証金の用意
保釈を請求するには、あらかじめ保釈保証金を準備する、または、それに相当するお金を出してくれる人物を確保しておく必要があります。

保釈保証金の額は、事件の性質によって異なりますが、100万円を下回ることはないでしょう。

保釈保証金は、貸与条件を満たすことを前提に関係団体から借りることもできますが、その場合は通常より保釈審査が厳しくなったり、金額が高くなったりする可能性があります。

3 身元引受人の確保
保釈請求をする場合は、基本的に身元引受人の誓約書(※ 逃亡等させない、出廷させることを約する書面)を同時に提出します。

身元引受人は、法的義務を負うことはないものの、普段の被告人を管理・監督できる人物が適格であるため、同居する家族が望ましいです。
そのため、被告人が一人暮らしの場合は、保釈中の住居を当該身元引受人の住居にした上で請求することもあります。

同居家族には劣りますが、普段働いている職場の上司も、一定の適格はあるでしょう。
ただし、そこまで協力してくれるケースは多くありません。

別居の友人でもなることはできますが、被告人との具体的な関係や管理・監督し得ること等を疎明することが推奨されます。

4 罪証隠滅の可能性の削減
権利保釈の除外事由としてよく用いられるのが4号の罪証隠滅であるため、罪証隠滅の被害者への弁償や示談交渉を行うことが多々あります。

被害弁償・示談交渉が奏功しなくても、審理が終結して次回判決言渡しとなれば、保釈の許可が出される可能性が高まります。

5 保釈請求が棄却されやすい事件
否認事件、共犯事件、実刑判決の見込みが高い事件等については、裁判所は比較的あっさりと罪証隠滅のおそれありとする傾向があり、被告人・弁護人の努力や成果に関わらず、保釈の許可が出づらいといえます。


弁護士 北野 岳志

2023年05月02日刑事:刑事

賃貸マンションの1階に住んでいますが、上からの水漏れが原因でパソコンやプリンターが故障してしまいました。誰に対して、損害賠償請求することができますか?

結論:漏水の原因によって、請求対象が異なります。上階の住民の行為が原因である場合は、当該住民に対して請求します。建物自体の欠陥が原因である場合は、建物の管理者や所有者に対して請求します。

1 漏水原因の特定
漏水事故に基づく請求の出発点は、原因の特定です。
そのため、漏水事故が生じたら、現場を写真・映像で保存するとともに、管理者に連絡して速やかな調査を依頼します。
時間が経てば、水は蒸発しますし、現場状況が変化し得るので、急いで行動すべきです。
なお、被害者側で調査会社に依頼するというやり方もありますが、相応のお金が必要ですし、自分の部屋以外は許可なく自由に調査できないことがネックとなります。

2 原因調査における派生問題
上部からの漏水の場合は、通常、直上の部屋の立ち入り調査を行うことになります。
このような場合に、直上の部屋の住人が立ち入り調査を拒否した場合はどうなるでしょうか?

管理人・所有者は、通常、マスターキーか合鍵を保有し、賃貸物件のどの部屋も開錠することができますが、賃借人には居住権がありますので、賃借人が拒否しているにも関わらずその部屋に立ち入ることは自力救済として原則禁止とされます。

民法606条1項は賃貸人の修繕義務を規定し、同条2項は「保存に必要な行為」に関する賃借人の協力義務を規定しています。
漏水の調査は基本的に保存に必要な行為にあたると考えられるため、賃借人が合理的な理由なく調査を拒否することは、民法606条2項違反、すなわち、賃借人側の債務不履行になり得ます。

そのため、立ち入り調査を拒否した住人に対して、賃貸人より、債務不履行に基づく損害賠償請求(民法415条1項)や賃貸借契約の解除(民法541条の催告解除、同542条1項、)が行われる可能性が生じます。

また、階下の住民との関係では、特段の事情がない限り、立入調査を受任すべき義務があるところ、これに違背したとして、不法行為に基づく損害賠償請求を受ける可能性が生じます。

3 調査の結果、上階の住民の行為が原因と判明した場合
例えば、排水口の栓をした状態で、水道を出しっぱなしにしていたため、溢れ出た水が床から天井を介して直下の部屋に流れ込んだような場合があげられます。

上階の住民は、溢れ出る前に水を止める、または、栓を開けるべきところ、これを怠った過失があると評価されます。
よって、被害者は、上階の住民に対して、不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)を行うことが可能と考えられます。

4 調査の結果、建物自体の欠陥が原因であった場合
例えば、建物に接続された配管の老朽化によって亀裂が発生し、そこから漏水が生じたような場合があげられます。

土地に接着して人工的作業によって成立したものは、民法717条における「土地の工作物」とされます。
具体的には、建物、橋梁、堤防等です。
配管は、建物に付合し、建物と一体をなすものとして、土地の工作物に含まれます。

配管の老朽化による亀裂等は、保存の瑕疵と評価され、建物の占有者・所有者に対して、工作物の瑕疵に基づく損害賠償請求を行うことが考えられます(民法717条1項)。
ここでいう「瑕疵」とは、その種の工作物として通常有すべき安全性を欠いていることを意味します。

そのほか、漏水が生じるような建物を貸すことは、一般に契約違反であることから、賃貸人(通常は所有者と同一)に対し、債務不履行に基づく損害賠償請求を行うことも考えられます(民法415条1項)。
ただ、帰責事由不存在の抗弁が認められる余地がある点に注意を要します。

土地の工作物責任か、債務不履行責任のどちらをメインにして請求するかは、漏水原因の具体的内容や被害者が入手した証拠等を踏まえた専門的検討を要しますので、弁護士とよく相談されるべきでしょう。


弁護士 北野 岳志

2023年04月26日不動産:不動産その他:その他

犯罪をする要因・犯罪を繰り返す要因には、どんなものがありますか?

結論:様々な要因がありますが、犯罪・再犯と高い相関を示す要因としては、①犯罪・反社会的行動の履歴、②犯罪・反社会的行動と結びつく性格・認知、③犯罪・反社会的行動に親和的な家族・友人・環境が考えられます。

1 ①犯罪・反社会的行動の履歴
成人においては前科・前歴、少年においては非行・補導歴が典型です。
刑事裁判における事実認定において、前科・前歴等の類似事実があることを証拠とするのは基本的に許されません。
もっとも、以前に犯罪や反社会的行動をしてきた人の方が、それらのない人に比べて、一般に犯罪・再犯リスクが高いのは否めません。
特に、1対1の殴り合いのケンカ→武器を使用した集団暴行、店舗での商品の万引き→他人宅に侵入しての現金・貴金属窃取のように、犯罪傾向が悪化している場合は、よりリスクが顕著になっていると評価され得ると考えられます。

2 ②犯罪・反社会的行動と結びつく性格・認知
ある人が「楽してお金を得たい」「自分さえよければ他人に迷惑をかけても構わない」「人が傷つくのを見ても胸が痛むことはない」のような考え方を持っていたり、ちょっとしたことですぐキレる性分であったりした場合、そうでない人たちに比べて、犯罪(窃盗、詐欺、傷害等)に至りやすいと言えます。
なお、刑事裁判の事実認定において、このような悪性格を証拠とすることが基本的に許されないのは、①と同様です。

3 ③犯罪・反社会的行動に親和的な家族・友人・環境
「朱に交われば赤くなる」という諺がありますが、周囲が犯罪・反社会的行動をしていたり、それに抵抗感を示さなかったりした場合、その渦中にいえる当人についても、犯罪・再犯リスクが高くなります。
少し前の報道で、親が子どもに指示して万引きをさせていたというものがありましたが、最たるものと言えるでしょう。
ほかには、暴力団、暴走族、あるいはこれらに準じるような人と付き合いがあるような場合が典型です。

4 弁護(付添)活動との関係
成人の刑事事件においては、情状事実として再犯可能性を論じることになりますが、その際は②・③の要因をいかにして消滅・減少させられるかがポイントとなります。
①については、既に起きたことなので消すことはできませんが、本件犯罪事実との関係で、可能な限り善意に解釈して論じることになろうと思われます。

少年事件においては、再犯可能性は犯罪的危険性(再非行可能性)と呼称され、要保護性の中核を成すと考えられており、処遇の内容にも重大な影響を及ぼします。
そのため、成人の場合以上に、②・③の消滅・減少に向けた具体的活動、いわゆる環境整備に尽力する必要があると思われます。

弁護士 北野 岳志

2023年04月26日刑事:刑事

①「特定少年」とはなんですか?②通常の「少年」とどう違うのですか?

結論:①18歳以上20歳未満の者を意味します。②民事上は成年(行為能力者)と扱われること、検察官送致(逆送)の対象が拡大されていること、少年法上の特則の多くが適用されないこと等です。

1 特定少年の定義と背景
特定少年とは、18歳以上20歳未満の者のことです(少年法2条1項、同62条1項)。

民法改正によって、成年となる年齢が「18歳」となりました(民法4条)。
施行日(※ 改正された法律が適用される開始日)は、令和4年(2022年)4月1日です。

ここで、少年法上の「少年」を民法に合わせて18歳未満に引き下げるか否かが議論されました。
18・19歳は類型的に成長発達途上で可塑性が認められること等が考慮され、引き下げ自体は見送られましたが、民法上は成年となることやこの年齢になると事理弁識能力は一般に相当程度認められること等が考慮され、「特定少年」という新たなカテゴリーが設けられることになりました。

2 「特定少年(18・19歳)」と「少年(18歳未満)」の違い
(1)逆送の対象拡大
少年は、捜査機関から家庭裁判所への全件送致が規定されていますが、死刑・懲役・禁錮にあたる罪で、刑事処分が相当である場合は、家庭裁判所は検察官へ送致しなければならないとされます(少年法20条1項)
これが、一般に「逆送」と言われるものです。

しかし、特定少年については、単に刑事処分が相当である場合は逆送しなければならないとされており、禁固以上という限定がなくなっています(少年法62条1項)。

また、逆送が原則の場合として、16歳以上の少年が、故意に他人を死亡させた場合が規定されていますが(少年法20条1項)、特定少年においては、死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪(例:強盗罪、強制性交罪)を犯したことも加えられています(少年法62条2項 ※犯行時18-19歳であることが要件)。

(2)保護処分の特則
特定少年に保護処分を科す場合は、犯罪の軽重を考慮して、相当な限度を超えない範囲内において、つぎのいずれかとしなければならないとされています(少年法64条1項)。
① 6ヶ月の保護観察
② 2年の保護観察
③ 少年院送致(3年以内)

このうち、②については、遵守事項に違反した場合は、上限1年の範囲内において、(犯情の軽重を考慮して)少年院に収容することができる期間を定めなければならないとされており、特定少年としては気を抜くことはできません。

(3)少年法の特則の不適用
少年は、刑事手続きにおいて、成年と異なる扱いをすべき特則が複数定められていますが、特定少年においては、それら特則の多くが適用されません(少年法65条、67条、68条)。

適用されない特則をいくつか挙げていきます。
・少年法48条1項:少年を勾留するのに「やむを得ない場合」を要件とする規定
・少年法49条1項:少年は、他の被疑者・被告人となるべく接触させないという規定
・少年法52条1項:少年に有期懲役・禁錮を科すには、不定期刑をもってするという規定
・少年法54条:少年に労役場留置を科すことはできないという規定
・少年法60条1項:少年の刑の執行が終了又は免除された者は、人の資格に関する法令の適用において、将来に向かって刑の言渡しを受けなかったとみなすという規定
・少年法61条:公訴提起された少年事件について、氏名等その者が当該事件の本人であることを推知させるような報道をしてはならないという規定

これらのうち、少年法52条1項の不適用によって長期間の懲役・禁錮刑が科されうること、及び、少年法61条の不適用によって実名報道される可能性が高まることは、特に留意しておくべきです。

このように、特定少年は、18歳未満の少年と20歳以上の成人との折衷的な扱いを受けるようになっています。

弁護士 北野 岳志

2023年04月20日刑事:刑事

詐欺破産罪における「債権者を害する目的」とはどういう意味ですか?

結論:総債権者の財産的利益を害するおそれのある状況、すなわち、破産に至る可能性が高状況を認識した上で、その財産的利益を害することを認識・認容していたことと解されます

1 詐欺破産罪(破産法265条1項各号)の概要
財産をどのように処分するかは、当該財産の所有者の自由な裁量によるのが原則です。
しかし、債務者の総財産が減少し、最終的に破産に至れば、前記債務者の債権者は、引当財産の減少によって、債権回収することが困難ないし不可能となります。
それ故、破産する蓋然性のある債務者については、総債権者の財産的利益を保護する目的で、詐欺破産罪が規定されています。
この点について、最決昭和44・10・31は「債務者の全財産を確保して総債権者に対する公平かつ迅速な満足を図ろうとする破産制度の目的を害する」ことを処罰根拠に挙げています。

※ 破産時に残存する資産は、債権額に応じて、総債権者に配当するのが原則

2 「債権者を害する目的」
債務者が破産に至る蓋然性のある状況を認識していたことが必要とされ、単に債権者を害することの認識・認容(※ 積極的認容までは要しない)だけでは足りないと解されます。
この点につき、東京高判令和元・11・6は、「現実に破産手続が開始するおそれのある客観的な状況があり、行為者が、このような状況にあることを確定的に認識しながら、破産法265条1項各号所定の行為に及んだ場合には、「債権者を害する目的」が認められる」と述べています。

前述の破産法265条1項所定の行為とは、財産の隠匿・損壊(1号)、財産譲渡または債務の負担の仮装(2号)、財産の現状改変および価格の減損(3号)、不利益処分または不利益な債務の負担(4号)であり、一般に総債権者の財産的利益を害する行為と解されます。

破産に至る蓋然性のある状況をさらに掘り下げると、①支払不能、債務超過が認められる場合とする説と、②支払不能等が生じる蓋然性が極めて高い場合まで広げる説があるようです。
この点について、東京地判平成30・5・25は、被告人である破産会社の代表取締役に対して、(a)粉飾決算を行っていたこと、(b)実態は債務超過であったこと、(c)赤字経営であったこと、(d)これらが発覚して借入金について期限の利益を喪失する蓋然性が極めて高かったこと、(e)期限の利益の喪失時に借入金を一括返済できる資力はなく支払不能となる蓋然性が極めて高い状態であったことから、現実に破産手続きが開始するおそれのある客観的な状態であったと認定しています(②説を採用したと思われます)。

弁護士 北野 岳志

2023年04月18日債務整理:債務整理

子どもA(15歳、男)が、他人を殴ってけがをさせてしまいました。Aは賠償責任を負いますか?親はどうでしょうか?

結論:15歳ともなると、不法行為における責任能力が認定される可能性は非常に高いです。他方、両親について、責任無能力者の監督義務者としての責任を負う可能性は非常に低いですが、独自の不法行為責任を負う可能性は残されています。

1 A(15歳)の不法行為責任
民法712条は、未成年者は、当該行為の責任を認識するに足る知能を備えていなければ、不法行為における賠償責任を負わないと定めています。
これに関して、東京高判昭和32・4・26は、「単に一般的に知能が高いとか運動が得意だとかいうことだけで決められるものではなく、当該加害行為のような種類の行為について一般的にその責任を弁識するに足る知能」と判示しました。

15歳の健常な中学生(男子)ともなると、他人を殴るという行為が違法で非難されるものであることは十分認識できたと解されることから、Aに民法712条が適用されるとは考え難く、その結果、不法行為に基づく賠償義務を負うことになる(民法709条)と思われます。

なお、民法712条が適用されること、すなわち、当該未成年が責任無能力者となって不法行為責任を負わないことは、被害者(※ 本件説例でいうと、殴られた人)側が立証責任を負うとされています。
他方、民法714条1項(責任無能力者の監督義務者等の責任)における監督義務を怠っていなかったことの立証責任は、加害者の監督義務者(両親等)が負います。

2 A(15歳)の両親の責任
民法714条は、前提として未成年に民法712条が適用されることを条件としているところ、前述のように、Aには民法712条は適用されず、民法709条に基づく不法行為責任を負うと考えられることから、Aの両親が民法714条に基づく責任を負うことはありません。

もっとも、Aが普段から粗暴であることを両親が知っており、粗暴な振る舞いを改めるよう指導・教育できたにも関わらず、これを怠ったと認定された場合は、両親に独立の不法行為責任が肯定され、賠償義務を負う可能性があります。
この点につき、大阪地判昭和37・5・26は、「親権者において未成年者が他に損害を加えることを予見し、または予見し得る状態にあり、かつ損害の発生を防止し得る状態にありながらこれを放任するなどその監護義務に著しく違背し、このため他に損害を与えた場合であつてしかも親権者の監護義務違背と損害の発生との間に相当因果関係の認められるような場合にあつては、被害者において親権者の監護義務違背、損害発生との因果関係の存在を主張立証して親権者に対する独立の責任を追及し得るものと解すべきである」と述べています。

判断が微妙な場合は、弁護士に相談しましょう。

3 他の裁判例の概観
(1)名古屋地判昭和38・8・9
当時13歳4ヶ月の中学一年生が、他の中学生の友人と共謀し、三輪自動車を無免許で動かした結果、第三者に傷害の損害を与えた事件につき、法律上の責任を弁識するに足る知能があったと認定し、民法712条の適用を否定しました。
→子:賠償責任あり、親:賠償責任なし
(2)東京高判平成18・2・16
当時4-6歳の幼稚園児について、法律上の責任を弁識するに足る知能はなかったと認定し、民法712条の適用を肯定しました。
また、本件では、民法714条1項の監督義務を怠っていたか否かが争点になりましたが、具体的事実に即して十分ではなかったとして、怠ったことが認定されました。
→子:賠償責任なし、親:賠償責任あり
(3)浦和地判昭和58・11・21
当時17歳で暴走族に属していた少年が、手拳や武器を用いて、他人に傷害を負わせ、所有物を破損させたという事案です。
判決では、両親につき、少年の日常の素行や交友関係に注意し、不良徒輩との交際をやめるよう特に十分に指導監督すべき義務があったにもかかわらず、これを怠り、暴走族の構成員としてとどまるに放置させたとして、民法709条・719条に基づく独立の不法行為責任を肯定しました。
→子:賠償責任あり、親:賠償責任あり


弁護士 北野 岳志

2023年04月15日その他:その他

少年審判における処分には、どのようなものがありますか?

結論:①不処分決定、②保護処分、③中間決定である試験観察があります。

1 不処分決定
家庭裁判所は、保護処分に付する必要がないと認められるときは、少年を保護処分に付さないとの決定をします(少年法23条2項)。
不処分となる類型としては、①軽微な事件、②保護的措置、③別件保護中の3つがあげられます。
①軽微な事件については、審判自体が開かれないことが少なくないのですが(審判不開始)、非行事実を争う等して審判が必要となった場合には、審判をした上で不処分となります。
②保護(教育)的措置とは、審判に至る過程(観護措置中の鑑別、関係者からの働きかけ)や審判における裁判官の指示・訓戒等を意味し、これらによって要保護性が解消し、再非行のおそれがないと判断された場合には不処分となります。
③別件で保護的措置や保護・刑事処分が実施され、これによって、本件で特に処分をする必要がなくなった場合には不処分となります。

2 保護処分
保護処分には、①保護観察、②児童自立支援施設・児童養護施設送致、③少年院送致の3つがあげられます。

①保護観察は、社会内において、少年の改善更生を図るものです。
保護観察を司るのは、少年の住居地を管轄する保護観察所になります(更生保護法60条)。
そして、実際に少年の指導監督にあたるのは、通常、保護観察官または保護司です(更生保護法61条1項)。
一般保護観察に付されると、少年は定期的に(※ 月1~2回が多い)保護観察官または保護司を訪れ、近況を報告します。
これに対して、保護観察官または保護司は、必要な指導や助言を行うとともに、保護観察所に対して少年の近況を報告します。
期間は、少年が20歳に達するまでか、2年とされています。もっとも、改善更生が順調であれば、その途中で解除または一時解除が認められます(更生保護法69条70条)。

②児童自立支援施設・児童養護施設は、家庭環境が更生に適さず(※ ネグレクトがある、保護者がいない、虐待が行われている等)、非行性がさほど進んでいない少年を対象としています。
実際の運用は、中学生を中心とする義務教育中の児童が大半を占めています。
少年院と異なり、開放施設であり、生活指導等も家庭的な雰囲気の中で行われます。

③少年院は、少年の自由を拘束した上で、矯正教育を行う閉鎖施設で、最も強力な保護処分といえます。
少年院は、(A)第1種少年院(おおむね12歳以上~23歳未満で、心身に著しい故障のない者が対象)、(B)第2種少年院(おおむね16歳以上~23歳未満で、心身に著しい故障はないが犯罪的傾向の進んだ者が対象)、(C)第3種少年院(おおむね12~26歳で、心身に著しい故障のある者が対象)、(D)第4種少年院(少年院において刑の執行を受ける者が対象)、(E)第5種少年院(18歳以上の特定少年が対象)の5つが設けられています。
ただ、通常は、(A)第1種少年院を指して言われることがほとんどです。

少年院では、特別の場合を除いて外出することはできず、規律ある生活に従うことが求められ、違反者には懲戒することができるとされています。

少年院送致の期間は、標準が2年以内とされています。
ただ、矯正教育を実施する上での標準期間は、おおむね1年程度のようです。
このほか、6ヶ月以内(※ 標準は4~5ヶ月)の短期間、4ヶ月以内(標準は2~3ヶ月)の特別短期間、2年超の相当長期等があります。

なお、少年院における処遇が最高段階に達し、少年院を退院させることが改善更生のために相当と認められる場合は、仮退院が許されます(更生保護法41条)。
仮退院中は、保護観察に付されることになります(更生保護法42条、同法40条)。

3 試験観察
試験観察は、家庭裁判所が、少年の保護処分を決定するため必要があると認める場合に、終局処分を一定期間留保した上で、少年の行動等を家庭裁判所調査官の観察に付すことです(少年法25条1項)。

観察期間は、在宅試験観察は3~4ヶ月程度、補導委託観察は4~6ヶ月で、基本的には、調査官が少年や保護者と定期的に面接し、遵守事項(少年法25条2項1号)が守られているかを確認しつつ、作文・日記の指導や心理検査の実施等を行います。
その上で、家庭裁判所において最終審判が開かれ、期間中の調査結果や委託先からの報告を踏まえて、処分(不処分、保護観察、少年院送致)が決定されます。

前述の在宅試験観察は、保護者のもとで生活をしつつ、調査官の指導・観察を受けます。
補導委託観察は、民間の施設・団体・個人に補導が委託され、そこでの働きかけを行いながら観察を行うものです。
補導委託観察には、宿泊・居住を伴う身柄付き補導委託と、在宅のまま行われる在宅補導委託がありますが、前者は減少傾向にあります。

4 最後に
審判で決定される処分の見通しを立てつつ、それに向けた適切な付添人活動を行うには、専門家である弁護士の支援が必要と考えられます。
時間的制約もあることから、速やかにご相談を受けることが推奨されます。

弁護士 北野 岳志

2023年04月13日刑事:刑事

観護措置(収容観護)で行われる「鑑別」とは、何ですか?

結論:各専門家が、少年に対して、様々な検査や面接・観察を行い、それらによって得られた情報を基に、少年の現状や問題点、及び、改善策(処遇)等を示す手続きです。鑑別の結果は書面にまとめられ、家庭裁判所の審判における重要な資料として取り扱われます。

1 法律上の定義
少年鑑別法16条1項は、「医学、心理学、教育学、社会学その他の専門的知識及び技術に基づき、鑑別対象者について、その非行又は犯罪に影響を及ぼした資質上及び環境上問題となる事情を明らかにした上、その事情の改善に寄与するため、その者の処遇に資する適切な指針を示す」と定義しています。

2 鑑別の時期・期間
少年事件については、すべて家庭裁判所へ送致することが規定されています。
逮捕・勾留された少年については、家庭裁判所へ送致直後、少年鑑別所に収容する観護措置がとられるのが一般的です(少年法17条1項2号)。
この観護措置は、通常、4週間続きますが(少年法17条3項4項)、鑑別はその期間中に実施されます(少年鑑別所法17条1項1号)。

3 鑑別の流れ・内容
まず、家庭裁判所や警察からの情報をベースとした、当該少年に対する入所時調査が行われます。

次に、少年に対する面接や心理検査(集団方式)が行われます。
面接は、通常、複数回行われ、生活状況や家庭環境等の確認がなされます。
心理検査は、知能・性格・特徴等を把握するために、同時期に入所した少年らと一緒に実施されます。

少年には、健康診断や、必要に応じて専門医による診察も行われ、その結果も鑑別の資料とされます。

初回の面接や心理検査の結果を踏まえて、少年ごとに鑑別方針が設定されます。
以降の面接や心理検査は、この鑑別方針に沿って実施されることとなります。
面接や検査のほか、収容中の生活場面における行動や、作文・貼り絵・日記等の課題に対する行動の観察も行われ、その内容は鑑別の資料となります。

以上を経て、少年鑑別所の長が開催する判定会議が行われ、各担当者の意見が示された上で、保護の必要性や具体的な処遇等についての検討が行われます。
最終的に決定された少年鑑別所としての判定結果は、鑑定結果通知書という書面にまとめられ、家庭裁判所に提出されることとなります。
収容から鑑定結果通知書の提出までに要する期間は、3週間を要するのが一般的です。
この鑑定結果通知書は社会記録につづられ、審判における重要資料となります。

4 付添人の必要性
付添人は、少年鑑別所に収容中も時間制限なく少年と面会できるほか、鑑定結果通知書を閲覧し、審判における意見書作成等に役立てることができます。
鑑別が実施されるような少年事件で国選付添人が認められないような場合は、弁護士を私選付添人に立てることを検討すべきでしょう。

弁護士 北野 岳志

2023年04月12日刑事:刑事

「国選付添人」は、どのような場合に選任されるのですか?

結論:検察官の関与が決定している事件と被害者の審判傍聴が許可された事件で、私選付添人がいない場合は、必ず国選付添人が選任されます。このほか、裁判所の裁量で国選付添人が選任されるものがあります。

1 付添人の概要
少年事件が家庭裁判所に送致されると、担当弁護士における「弁護人」の選任は効力を失い(少年法42条2項)、それ以降は「付添人」として活動する必要があります。

付添人は、少年の保護・教育といった目的が適正に実現されるため裁判所への協力者的役割を担うと同時に、少年の権利・利益の擁護という弁護人的役割を担うものと解されています。
弁護士のほか、家庭裁判所の許可を得た保護者もなることができます(少年法10条1項2項)。

2 必要的国選付添人
家庭裁判所は、少年の行為が死刑、無期、または、長期3年を超える懲役・禁錮にあたる罪(例:殺人罪、傷害罪、窃盗罪等)に該当し、その事実を認定するための審判手続きに検察官の関与が必要と認める場合は、決定で検察官を審判に出席させることができます(少年法22条の2第1項)。
この検察官関与事件では、必ず弁護士の付添人が必要とされており、私選付添人(弁護士に限る)がいない場合は国選付添人が付されることになります(少年法22条の3第1項)。いわゆる必要的国選付添人です。
なお、いわゆる逆送事件(少年法20条1項2項)は、成人と同様の刑事手続きとなるため、付添人でなく弁護人が対応することになります。

また、家庭裁判所は、少年の行為が故意によって被害者を死傷させた罪(例:殺人罪、傷害罪)、業務上過失致死傷罪、自動車過失運転致死傷罪等に該当し、当該事件の被害者らから審判傍聴の申し出があった場合は、これを許可することができます(少年法22条の4第1項)
この被害者傍聴事件では、必ず弁護士の付添人が必要とされており、私選付添人(弁護士に限る)がいない場合は国選付添人が付されることになります(少年法22条の5第1項)。
ただ、少年等が不要との意思を明らかにした場合は付さなくてよいとされており、前述の検察官関与事件との違いとして挙げられます。

3 裁量的国選付添人
家庭裁判所は、次の4要件を満たす場合は、裁量で国選付添人を付すことができるとしています(少年法22条の3第2項)。

近年の傾向として、この裁量的国選付添人が付される事例は増えているように思われます。

1つ目は、①死刑、無期、または、長期3年を超える懲役・禁錮にあたる罪にかかる犯罪少年、及び、触法少年の事件であることです。
犯罪少年と触法少年の意義については、次に挙げた以前の記事にてご確認ください。
https://prop-matsusaka.com/posts/faq14.html

2つ目は、②収容観護が行われていることです。

3つ目は、③弁護士である私選付添人がいないことです。

4つ目は、④事案の内容、保護者の有無その他の事情を考慮し、審判の手続きに弁護士の付添人が関与する必要性が認められることです。
具体的には、非行事実について争っているもの、少年院送致等の重大な処分が予想されるもの等が典型例です。
典型例に該当しない場合でも、非行の動機・態様、その後の情況、保護者の有無・監護能力や意欲、監護情況、性格、年齢、能力等が考慮され、必要性が認められる余地はあります。

なお、国選付添人選任の申入れを行ったものの、選任されなかった事件については、日弁連の付添援助制度が利用できる可能性があります。

弁護士 北野 岳志

2023年04月11日刑事:刑事

少年事件では、どのような場合に「観護措置」が行われるのですか?

結論:①少年事件が係属していること、②審判条件が具備されていること③非行事実を行ったことについて嫌疑が存在していること、④審判を行う蓋然性があること、⑤観護措置の必要性が認められること、以上の要件がすべて満たされていることが求められます

1 観護措置の概要
観護措置は、調査官観護(少年法17条1項1号)と収容観護(少年法17条1項2号)の2つが規定されていますが、前者はほぼ活用されておらず、現状、観護措置といえば収容観護を指すと解されています。
収容観護とは、非行少年を少年鑑別所に収容し、逃亡や罪証隠滅を防止するとともに、審判に資する調査や心身の鑑別を行う措置と解されます。

少年事件では、捜査機関から家庭裁判所への全件送致が定められていますが(少年法41条、42条)、観護措置は家庭裁判所へ送致されて24時間以内に行わなければならないとされています(少年法17条2項)。

観護措置の期間は2週間とされ、「特に継続の必要があるときは」更新できるとされますが、実務上更新されることが一般であり、4週間かかると考えておくべきです。

2 観護措置の要件
以下では、先出しした観護措置の各要件について詳述します。

少年事件の係属については、事件が家庭裁判所に送致されている時点で、全件満たされているといえます。

審判条件の具備とは、審判権の存在、少年が20歳未満であること、手続きが適法かつ有効になされていること、一事不再理の原則(※ 以前に確定した審判・判決については、再び審判・裁判にかけられることがないというもの)に反していないこと等です。
これも、家庭裁判所に送致されている時点で満たされているのが通常ですが、土地管轄(少年法5条1項)が欠けている又は他の管轄地で調査・審判を行うのが望ましい場合は、移送措置がとられています。

③の嫌疑の程度は、非行事実を行ったと疑うに足りる相当な理由が必要と解されますが、前提となる勾留で必要となる嫌疑と同程度であるため、否定されることは基本的にありません。

④の審判を行う蓋然性は、観護措置決定時に審判開始決定がなされるべき要保護性が存在していることであり、否定されることはまずありません。

観護措置の必要性は、(ア)審判・調査の出頭確保のための身体拘束の必要性、(イ)保護の必要性、(ウ)少年鑑別所における心身鑑別の必要性のいずれか1つが存在していれば、認められると解されます。

3 観護措置を争う方法
実務上、少年が逮捕・勾留されて家庭裁判所に送致された場合は、観護措置がとられることが通常です。
観護措置決定に対しては、異議申立て(少年法17条の2)や取消しの申立て(少年審判規則21条を根拠とする職権発動を促す申立て)を行うことができますが、認められることはなかなかない模様です。

弁護士 北野 岳志

2023年04月11日刑事:刑事

少年事件で見聞きする「要保護性」とは何でしょうか?

結論:①犯罪的危険性、②矯正可能性、③保護相当性の3要素で構成されると解され、少年の処遇を決める重要な考慮要素となります。

少年法19条1項は、「家庭裁判所は、調査の結果、審判に付することができず、又は審判に付するのが相当でないと認めるときは、審判を開始しない旨の決定をしなければならない」と定めています。
下線部における審判に付すのが相当か否かが、「要保護性」の要件と言われるものです。

要保護性の構成要素の1つ目は、①犯罪的危険性再非行可能性)です。
これは、少年の性格や環境に照らして、将来再び非行に陥る危険性を意味します。
要保護性の中核をなすと解され、非行事実の態様、回数、原因・動機、保護処分歴、心身の状況、性格、反省の程度、保護者の有無とその保護能力の程度、職業の有無・種類、職場・学校・友人関係、反社会的勢力との関係、家庭や地域の環境、行状一般等を総合的に考慮して判断されます。
この中で非行歴、保護処分歴が著しいと、非行に対する親和性が強いと解されることになります。
また、保護者に育児放棄や児童虐待等があったりすると、保護者の指導・教育による犯罪的危険性の低下は困難と評価されやすくなります。

要保護性の構成要素の2つ目は、②矯正可能性です。
これは、保護処分による矯正教育を施すことによって、犯罪的危険性を解消できる可能性を意味します。
少年は、一般に可塑性に富んでいて、矯正可能性があると評価されています。
例外的に、重度の精神疾患を抱えていたり、反社会的勢力の幹部であったりする場合は、矯正可能性がない・乏しいと評価されることになります。
なお、少年が非行事実を否認していることや、正面から向き合っていないことをもって、矯正可能性を消極評価してよいかは、議論のあるところです。

要保護性の構成要素の3つ目は、③保護相当性です。
これは、少年の処遇にとって、保護処分が最も有効・適切といえることを意味します。
現行法は、保護処分原則主義(※ 少年には、できるだけ刑罰でなく、保護処分その他教育的手段によって非行性の除去に努めなければならないという考え方)を採用していることから、保護相当性は基本的に認められます。
例外的に、非行内容が非常に重大・悪質で、世論や被害感情等から刑事責任を問うのが相当な場合は、家庭裁判所から検察官へ送致し、成人と同様の刑事手続きを受けることになります(少年法20条1項2項)。

少年事件における弁護・付添活動では、要保護性をどの程度解消できるかが、大きなポイントとなります。
お悩みの方は、少年事件を取り扱う弁護士にご相談ください。

弁護士 北野 岳志

2023年04月08日刑事:刑事

過失傷害・致死罪と業務上過失致死傷罪は、どう違うのでしょうか?

結論:行為に業務性が認められるかどうかによって区分され、通常、業務上過失致死傷の方が高度の注意義務を課せられます。

1 過失致死傷罪

過失致死傷罪(刑法209条、210条)における「過失」とは、犯罪事実の認識・認容のないまま不注意によって一定の作為・不作為を行うこととされています。
不注意が認定されるには、行為者に注意義務があったこと、及び、その注意義務を怠ったことが必要です。
なお、行為者が注意義務を履行することが可能であったことが前提となります。

例えば、大型犬の散歩中にその犬が他人に飛び掛かってけがをさせた事案で、飼い主が犬の動作を制御すべき注意義務があるところ、これを怠ったとして、過失傷害罪が認定されたというものがあります。

2 業務上過失致死傷罪

他方、業務上過失致死傷罪(刑法211条)では、当該行為に業務性があり、かつ、その業務における注意義務を怠ったことが成立要件となります。
この「業務」とは、本来人が社会生活上の地位に基づき反復継続して行う行為であって、かつ、その行為は他人の生命身体等に危害を加えるおそれのあるものとされています(最判昭和33・4・18)。
日常生活において、誰もが容易にできるような行為・特段専門性を要しない行為については、業務性が否定されやすくなります。
免許等は必須ではありませんが、通常、免許者・有資格者が行うような行為については、業務性が認められやすくなります。

具体的な注意義務の内容については、個別具体的に検討されることになりますが、各業法、業界の慣行、国から示された行動指針や基等が参考にされることが多いです。
ただ、業法や国の基準さえ遵守していれば大丈夫かというと、必ずしもそうとはいえません。
デパートビルの火災事故における責任が問われた最決平成2・11・29では「火災の拡大を防止するため、法令上の規定の有無を問わず、可能な限り種々の措置を講ずべき注意義務があったことは明らかである」と判示されています。

他人の生命身体等に危害を加える可能性が高いほど、及び、大人数に危害をもたらすような業務であるほど、高度の注意義務が課せられる傾向があると言えます。
具体的には、火を扱う仕事、イベントを主催・警備する仕事、有害な化学物質を扱う仕事等です。

弁護士 北野 岳志

2023年04月07日刑事:刑事

自筆証書遺言は、①すべて本人が直筆で書かなければなりませんか?②検認の手続きは必要ですか?

結論:①財産目録については、自筆要件が緩和されています。②原則は必要ですが、保管制度を利用した場合は省略できます。

<①について>
自筆証書遺言とは、被相続人(遺言者)が、遺言書の全文、日付、氏名を自署し、これに押印したものと定義されています(民法968条1項)。

遺言書には財産目録(すべての相続財産の概要をまとめたもの)を含めるのが推奨されますが、これを自筆とすることは煩瑣であり、これによって自筆証書遺言の簡便性が損なわれるとの批判がありました。

そこで、平成30年の民法改正で、財産目録については自筆でなくともよいとされました。
具体的には、パソコンによる作成はもちろん、第三者による代筆、預貯金通帳のコピーや不動産登記事項証明書等も含まれるとされています。
なお、被相続人(遺言者)は、偽造等防止のため、財産目録の各頁(※ 両面あるものは表裏それぞれに)に署名押印しなければならないとされていることには注意を要します(民法968条2項)。

<②について>
遺言書の検認とは、遺言書(※ 公正証書遺言は除く)の偽造・変造を防ぐ証拠保全の手続きであって、家庭裁判所にて行われます(民法1004条1項)。
検認を経ずに遺言書を開封した場合、遺言書が即無効になることはありませんが、偽造・変造がなされていないという公的な証明が得られないため、相続人間の争いの火種となり得ます。

自筆証書遺言を開封する場合、原則として前記検認の手続きを経る必要があります。

しかし、平成30年の民法改正(※ 施行は令和3年9月1日)で、自筆証書遺言の保管制度が創設されました(法務局における遺言書の保管等に関する法律)。

これによって、被相続人(遺言者)は、法務局が管轄する遺言書保管所に、自筆証書遺言の保管を申請することが可能となりました(同法4条1項)。
後日、被相続人(遺言者)が亡くなると、相続人等の関係者は、遺言書保管所に対して、遺言書の閲覧のほか、遺言書情報証明書の交付を請求することができます(同法9条)。
この点について、検認手続きは不要とされているので(同法11条)、相続人等の関係者は、遺言書の内容を速やかに確認し、遺言内容の実現に向けて、手続きを進めることが可能となります。

なお、保管制度を使用していたとしても、自筆証書遺言の効力を争うことは妨げられないので、絶対的効力を付与するものではない点には注意を要します。

弁護士 北野 岳志

2023年04月06日相続:相続

接見等禁止処分は、どのようにすれば解除できますか?

結論:逃亡や罪証隠滅のおそれがない事情をあげた上で、準抗告や一部解除申立てを行うことによって、処分が解かれる可能性があります

接見等禁止処分とは、勾留中の被疑者・被告人につき、弁護人以外の者との接見を禁止し、差入れ・宅下げ物(手紙等の書類含む)について検閲・授受禁止・差押えを可能とする処分です(刑事訴訟法81条、同207条1項)。
全面的な禁止のほか、個別的禁止(※ 特定の者についてのみ禁止)や期限付禁止(※ 起訴まで禁止等)もあります。

検閲は憲法21条2項で禁止されていますが、接見等禁止処分における検閲は憲法上禁止されたものではないとされています(最判昭和59・12・12)。

実務において、接見等禁止処分が付されることが多い事例として、否認事件、組織犯罪、共犯事件、反社会的勢力に属する者の事件があげられます。

勾留されると、勾留施設から出ることができないのはもちろんのこと、食事もアレルギーがある場合を除いて決まったものしか食べられません(※ 好きなものをリクエストすることは認められない)。
入浴も、決まった日時にしかできません(※ 毎日ではない)。
黙秘権こそあるものの、捜査機関の取調べには付き合わざるを得ません(※ 「もう帰ります」とは言えない)。
このように、勾留は、被疑者・被告人に重大な身体的・精神的苦痛をもたらすものですが、それに接見等禁止処分まで付されれば、その苦痛はさらに著しいものになります。
一時でも、親しい家族や知人と話をすることができれば、前記苦痛は多少なりとも和らぎますが、それすらかなわないわけです。
苦痛に耐えかねて、真意にそぐわない供述や虚偽自白をしてしまう危険もあります。

接見等禁止処分を解除するには。「準抗告」と「一部解除申立て」があります。
「準抗告」は接見等禁止処分をした原決定審の上部裁判所へ、「一部解除申立て」は原決定審へ行う点に違いがありますが、申立書面の内容については、大差はありません。
逃亡や罪証隠滅のおそれがないことを、事件の個別事情に即して主張するとともに、裏付け資料を添付するというものです。

現在の勾留の運用においては、弁護人以外の接見は時間が制限されるほか、捜査機関担当者が立ち会います。
また、差入れ・宅下げ物については、接見等禁止処分の有無にかかわらず、捜査機関担当者がチェックしています。
さらに、関係証拠は逮捕と同時期に捜索・差押えされている場合がほとんどであるほか、証人を威迫する行為は罪に問われることになります(刑法105条の2)。
このように見ていくと、接見等禁止処分を付さなくても、逃亡や罪証隠滅など不可能に近いと思われますが、裁判所・裁判官は、比較的あっさり「罪証隠滅のおそれあり」と認定してしまう傾向があるように思われます。

何れにせよ、家族・知人が逮捕・勾留され、接見等禁止処分がつけられてしまったという場合は、早急に弁護士と相談し、準抗告や一部解除申立てを検討したほうがよいでしょう。

弁護士 北野 岳志

2023年04月05日刑事:刑事

告訴と被害届はどう違うのですか?

結論:処罰意思の有無、方式、捜査機関における義務等において、違いが認められます。

1 被害届
通常の被害届には、犯罪や被害の事実のみが記載され、処罰意思は含まれていません。
処罰感情については、供述調書にて記録されるのが通例ですが、処罰意思と厳密に言えるかは微妙なところです。

被害届は、被害者の口頭の申し出を捜査機関担当者が筆記するか、捜査機関担当者が傍で指導しながら被害者が記載するパターンが多いと思われます。
後述の告訴状のように、専門職が代理人として被害届を出すパターンはあまりありません。

後述の通知義務・告知義務は、被害者が別途請求しないと、課せられることはありません。
なお、一部の捜査機関においては、運用上、自発的に通知や説明を行っていることがある模様です。

2 告訴
告訴とは、被害者その他法律上告訴権を有する一定の者(以下「告訴人」といいます。)が、捜査機関に犯罪事実を申告し、犯人の処罰を求める意思表示と定義されています。

告訴は口頭でも可能ですが(刑事訴訟法241条1項参照)、大半は、告訴状という書面の提出をもって行われます。
告訴状は、特定の犯罪事実について告訴人が犯人の処罰を求める意思が表示され、告訴人が誰であるかが明らかにされていればそれで足ります。犯人が氏名不詳であっても、告訴は有効です。
告訴状は、相応の専門性が求められることもあって、被害者本人でなく、弁護士等の専門職が作成することが非常に多くなっています。

告訴状が提出されると、原則として、捜査機関担当者はこれを受理する義務があります
ただ、実務では、明らかに犯罪が成立しないと思われる事例や、根拠が不明瞭なものについては、補正を求める等して、自主的に撤回させることが少なくありません(※ それでも撤回に応じなければ受け取るしかありませんが)。

検察官は、起訴・不起訴をしたことを告訴人に通知しなければならないほか、不起訴にした場合はその理由を説明しなければなりません(刑事訴訟法260条、同261条)。

弁護士 北野 岳志

2023年04月04日刑事:刑事

国選弁護人における「資力要件」とは何ですか?

結論:50万以上の流動資産を有しているか否かという基準です。

被疑者国選弁護人については刑事訴訟法37条の2が、被告人国選弁護人については刑事訴訟法36条が、それぞれ規定していますが、そこに書かれている「貧困」の具体的内容が問題となります。
言い換えれば、「貧困」に当たらなければ、基本的に国選弁護人を付けることはできないため、私選弁護人を選任する必要があります。

当該被疑者・被告人が保有する流動資産が50万円未満であれば、「貧困」の要件を満たすことになります。50万円以上であれば、「貧困」にはなりません。
ここでいう流動資産とは、すぐに現金化・費用化できる資産のことで、典型例としては、現金や預貯金のことです。
不動産や自動車などは、流動資産に該当しません。

国選弁護人選任の場面では、負債との総合評価はされません。
例えば、100万円の現金があるものの、返済期限の到来した借金が200万円ある場合、総合的にはプラスマイナスして100万円の負債があると評価することができますが、「貧困」要件を満たすことにはなりません。

家族が50万円以上の流動資産を保有していることは、通常、考慮されません。
ただ、家族が自費で私選弁護人を選任した場合は、既存の国選弁護人は解任されることになります(刑事訴訟法38条の3第1号)。

50万円以上の流動資産が有るか否かは、通常、被疑者・被告人からの資力申告書によって判断されます。
厳密に審査するのであれば、預貯金通帳の写し(通帳レスの場合は残高ページの写し)等の裏付け資料の提出が求められますが、弁護人の選任は急いで行う必要があることから、そこまで行うことはあまりない模様です。

 

弁護士 北野 岳志

2023年04月03日刑事:刑事

事後強盗罪と強盗罪の違いは何ですか?

結論:主体と目的に違いがあります。

 

刑法238条は、事故強盗罪を次のように定義しています。
「①窃盗が、②(ア)財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、(イ)逮捕を免れ、又は(ウ)罪跡を隠滅するために、③暴行または脅迫をしたときは、強盗として論ずる」。

①のとおり、本罪の主体は窃盗犯人です。
②(ア)とつながる場合は、既遂(財物を盗っていること)が必要です。
他方、②(イ)or(ウ)とつながる場合は、未遂(財物を盗ろうとしたがまだ盗っていないこと)でも足りるとされます。

強盗罪(刑法236条)の主体は、窃盗既遂・未遂犯である必要はないため、事後強盗罪との違いとしてあげられます。

②は、後述の③暴行・脅迫の目的が、(ア)~(ウ)のいずれかの目的に該当すればよいとされます。
相手にケガさせるつもりはなかったというのは、事後強盗罪の成否との関係では考慮されないと思われます。
すなわち、ケガさせる意図がなかったとしても、(ア)~(ウ)の目的があれば、事後強盗罪は成立し得ます

強盗罪は、暴行・脅迫の目的が財物奪取に向けられていることを要件としているので、この点も事後強盗罪と違っています。

③の暴行は人の身体に対する有形力の行使(例:殴る・蹴る・押す・噛む)、脅迫は生命・身体・財産等に危害を加える旨を告げること(例:「ぶっ殺すぞ」「痛い目に合わせるぞ」)です。
②の目的と関連している必要があるのは、前述のとおりです。
程度としては、相手の反抗を抑圧するに足りるものである必要があります。
具体的には、暴行・脅迫の態様、犯行場所、時刻、周囲の状況、性別、年齢、体格、相手方との格差等を考慮して判断されます。

強盗罪における暴行・脅迫も、相手の反抗を抑圧するに足りる程度であることが必要ですので、この点は事後強盗罪と共通です。

弁護士 北野 岳志

2023年03月29日刑事:刑事

警察に呼ばれて取調べを受けてきました。今後、逮捕されないか不安ですが、どうしたらいいですか?

結論:逮捕のリスクを下げる行動をとった方が良いと思われます

 

逮捕とそれに続く勾留は、身体を拘束する国家権力の行使として、最もよく知られたものです。
逮捕・勾留するには、原則として、裁判官の発した令状が必要です(刑事訴訟法199条1項、刑事訴訟法207条1項)。
ただ、実際のところ、捜査機関から逮捕状・勾留状が請求された場合、裁判所が発布を拒否することは滅多にないと言われています。
そのため、逮捕・勾留されないためには、前記令状請求を控えてもらう、言い換えれば、捜査機関に逮捕や勾留をする必要がないと思ってもらうことの方が重要といえます。

まず、取調べへの出頭要請に応じるか否かですが、応じないことによって逮捕リスクが高まることを踏まえると、基本的には応じるべきでしょう。
なお、体調不良等の正当な理由があれば、拒否することも可能です。

私選弁護人がいれば、これに同行することも多々ありますが、取調室での同室までは認められないことがほとんどです。

捜査機関に対して、本人や身元引受人より誓約書を提出するというのも1つです。
内容としては、取調べに応じる、罪証隠滅や逃亡をしない等です。

被害者がいる事件の場合、被害者と示談するのも1つです。
もっとも、被害者への威迫や証拠隠滅行為と受け止められるリスクがあるほか、感情論になることが危惧されるため、示談交渉をする場合は、弁護士等専門職を代理人に立てるのが望ましいと言えます。

弁護人より、逮捕しないよう意見書を提出するというのも考えられます。
これによって、弁護人が就いていることを捜査機関に知らしめる効果もあり、逮捕自体を防ぐ効果は低いものの、強引な捜査に対する抑止効果が期待できます。

以上のように、逮捕を回避するための様々な方策がありますが、残念ながら100%逮捕を回避する方法はありません。
また、捜査の進展や捜査機関の対応に応じて、別のやり方を考えなければならない場合もあります。
詳細については、刑事事件を扱う弁護士にご相談ください。

弁護士 北野 岳志

2023年03月27日刑事:刑事

盗撮をしてしまいましたが、逮捕・勾留されますか?

結論:割合としては高くないものの、逮捕・勾留される事例はあります。

 

盗撮は、地方自治体の迷惑防止条例違反として立件されることが多く、三重県では、撮影を実行した場合は1年以下の懲役又は100万円以下の罰金実行に至らない場合は6月以下の懲役または50万円以下の罰金に処すと定められています。
常習者については、これらの2倍の量刑となります。
また、件数は少ないものの、管理者の意思に反する立ち入りである点を捉えて建造物侵入罪とされることもあります。

盗撮は、(他の性犯罪と比べて)重大犯罪とは言えないこともあって、在宅のまま捜査が進められるケースが多いです。現行犯逮捕されても、すぐに身体解放されるケースが散見されます。

とはいえ、逮捕・勾留される事例は一定数認められます。
以下では、どのような場合に逮捕・勾留されやすいかをお伝えします。

(1)逃亡した・逃亡を図った場合
 刑事訴訟法207条が準用する同法60条1項3号は、勾留要件として「逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき」と規定しています。
 盗撮後に逃亡した、逃亡を図った場合は、前記勾留要件に該当してしまうことから、逮捕・勾留の可能性が高まります。
 直接は関係ないものの、定職を持たないことや身元引受人がいないことは、類型的に逃亡の危険がありとされがちな傾向があります。
(2)住所不定の場合
 刑事訴訟法60条1項1号要件に該当します。
 真実の住所を述べなかったことから、住所不定とされたケースもあります。
(3)証拠隠滅をした・証拠隠滅を図った場合
 刑事訴訟法60条1項2号要件に該当します。
 典型例としては、盗撮画像の撮影・保存に用いた電子機器を破壊・隠匿したこと等です。
 もっとも、自身の罪の証拠を隠滅することは、証拠隠滅罪(刑法104条)には問われません。

 盗撮をして、逮捕・勾留の危険を感じていたり、実際に家族・友人が逮捕されてしまったりした場合は、速やかに弁護士にご相談ください。

弁護士 北野 岳志

2023年03月24日刑事:刑事

加害者側に請求できる弁護士費用はいくらでしょうか?

結論:請求額の1割とするのが実務の傾向です。

 

交通事故における弁護士費用は、決して小さい額とは言えません。
それをカバーするものとして、弁護士費用保険(共済含む)がありますが、これを付保していなかった場合は、加害者側に請求するほかありません。

そもそも、弁護士費用を加害者側に請求できるのかという論点もありましたが、最判昭和44.2.27(判タ232号276頁)が、一般人は弁護士なしでは十分な訴訟活動ができないから、訴訟追行を弁護士に委任した場合は、諸般の事情を斟酌して相当と認められる範囲の額を請求できる旨を示したことによって、決着したということができます。
実際の訴訟では、弁護士費用について、加害者側は否認するものの、詳細な主張立証をしてくることはほぼなく、争点化することは基本的にありません。

前記最判は、弁護士費用として相当な額について複数の考慮要素は提示したものの、それをどのように考慮して最終的にいくらを導き出すかまでは、定かでありません。
そのため、弁護士費用として相当な額をどのように算定するかが次に問題となりますが、現在は認容額の1割とすることで固まったと解されます。
1割の超える認定をした裁判例もありますが、圧倒的多数は(特段具体的理由を示さないまま)1割で認定しています。

すべての事件で1割が相当とまでは思われず、事件ごとに個別具体的な検討をしてもよいように思われます。
しかし、双方代理人及び裁判所のいずれも、これ(1割)が当たり前だという前提で議論をしていることがほとんどです。

なお、加害者側保険会社は、訴訟になっていない限り、弁護士費用を損害項目に含めないのが一般的です。
また、訴訟上の和解においては、いわゆる和解の調整金として、弁護士費用を事実上考慮しているものの、認容額の1割より少ないのが通常です。
そのため、認容額の1割の弁護士費用を獲得するには、どのような内容になるかわからないという不安があるものの、判決を求めるしかないのが実情です。

弁護士 北野 岳志。

2023年03月23日交通事故:交通事故

父が交通事故で急逝しましたが、相手に請求できる葬儀費用には上限があるのでしょうか?

結論:上限額に近いものはあると考えられます。

 

自賠責保険では、葬儀費(関連費用含む、以下同じ)は100万円とすると規定されています。そのため、自賠責保険から回収できる葬儀費は100万円が上限となります。

一般に、相手方にいくら請求できるかというと、「150万円」が大きな壁となっています。

150万円を超える額が認定された事例は複数存在し、考慮要素としては、葬儀(お別れ会も含む)の回数、死亡場所と墓地のある実家の距離、死亡者の社会的地位・立場、新たに仏壇・墓石等を購入したこと等が挙げられています。
とはいえ、これらの要素があれば、150万円を超える葬儀費が高確率で認定されるわけではなく、実際のところ、大多数の事例において、150万円までしか認定されていません。

被害者遺族の方から怒られそうですが、葬儀費を損害として認定すること自体を否定する考え方もあります。
すなわち、その人が当該交通事故に遭わなくても、いずれ将来のどこかの時点で亡くなって葬儀を行うことになるのだから、葬儀費の支出が早まったにすぎないという理屈です。

葬儀費を正面から否認した裁判例はないと思われますし、最高裁も葬儀費を損害認定しています。
ただ、前述の「人はいずれ亡くなる論」が、葬儀費に事実上の上限額を設けることに何かしらの影響を与えている可能性は否めません。

葬儀費につき、実際にかかった金額を請求することは当然ですし、150万円を超える金額が認定される可能性はあります。
しかしながら、そのハードルが非常に高くなっていることについては、知っておいたほうがよいと思われます。

なお、実際にかかった葬儀費が150万円を下回っている場合は、その実額しか認定しないのが多数です。
そのため、葬儀費がいくらかかったか、言い換えれば、150万円以上要したかの立証は必要です。

弁護士 北野 岳志

2023年03月22日交通事故:交通事故

遺留分を侵害する遺言書の作成は可能ですか?

結論:作成は可能ですが、一般には避けた方が無難です。

 

遺留分とは、一定の範囲の相続人が、相続によって取得することが保障されている権利です。
一定の範囲の相続人とは、兄弟姉妹以外の相続人のことです。

【例1】相続財産額:1800万円、相続人:父親と母親
 この場合、父親と母親の遺留分は、各々300万円(1800万円×1/3×1/2)となります。
※ 直系尊属のみが相続人の場合、総体的遺留分(遺留分権利者全体に留保されるべき相続財産全体に対する割合)は3分の1となる(民法1042条1項1号)。

【例2】相続財産額:2000万円、相続人:配偶者と子4名
 この場合、配偶者の遺留分は500万円(=2000万円×1/2×1/2)、子の遺留分は各々125万円(=2000万円×1/2×1/2×1/4)となります。
※ 直系卑属のみ、直系卑属+配偶者、直系尊属+配偶者、配偶者のみの場合、総体的遺留分は2分の1となる(民法1042条1項2号)

遺留分については、遺言でも無効とすることはできません
前記例2において、被相続人が、配偶者に1600万円を、子4名に100万円ずつ渡すという遺言書を書いたとします。この場合、子が相続する金員は前記遺留分より25万円少なくなることから、配偶者(母親)に対して、各々25万円の遺留分侵害額請求権を行使することができます。

遺留分侵害額請求権が行使されると、遺言で定めたことの修正を余儀なくされます。
また、遺留分を侵害するような遺言にすることによって、相続人間における感情的な問題を残す懸念があります。
そのため、一般には、遺留分を侵害するような遺言は避けた方がよいと考えられます。

もっとも、遺留分を侵害する内容の遺言であっても、遺留分侵害額請求権が行使されて、初めて遺留分を侵害する程度で無効になるにすぎません。
そこで、どうしても遺留分を侵害する遺言書を残したいということであれば、一部の者に多くの相続財産を与える目的・動機等を遺言書の付言事項として記載することによって、遺留分侵害額請求権の行使をしないよう求めることが考えられます。

 

弁護士 北野 岳志

2023年03月22日相続:相続

入院雑費は1日・・・円という定額しか認めてもらえないのですか?

結論:定額払いが原則となります。

 

入院雑費は、交通事故で入院した場合、入院生活に伴って支出を余儀なくされる治療費を除く諸雑費を対象とします。

自賠責保険基準では1日1100円、赤本基準では1日1500円とされ、これに入院日数を乗じた金額を請求することができます。

示談交渉では、自賠責基準か赤本基準かでもめることはあっても、支払い自体が拒否されることはほとんどありません。

裁判では、入院の必要性が問題となる場合を除き、1500円×入院日数がすんなり認定されるのが通常です。

 

損害賠償では実損てん補が通常であることから、定額払いに違和感を覚える方もいらっしゃるかと思われます。

しかし、入院雑費は、(1)日用品雑貨費、通信費用、文化費等、非常に多様であること、(2)領収証が残されていないことが少なくないこと、(3)入院しているという一事をもって前記諸費用が発生したことがある程度推認できること、(4)さほど高額でないこと等の理由から、発生費目ごとに必要性・相当性を細かく吟味するのではなく、1日・・・円といった定額払い方式を用いることが実務において浸透しています。

 

前記日額1500円を上回る入院雑費が認められないわけではありませんが、その場合は、被害者側が、金額はもちろん、当該支出の必要性・相当性を主張立証し、基準を超える額が当該交通事故と相当因果関係を有する損害であると認定してもらわなければなりません。

なお、私見では、赤本基準の定額を超えることは容易ではないように思われます。

 

弁護士 北野 岳志

2023年03月21日

少年事件では、犯罪少年、触法少年、ぐ犯少年という3つの呼び方が用いられますが、どう違うのですか?

「犯罪少年」(少年法3条1項1号)とは、文字どおり、罪を犯した少年のことです。弁護士が弁護人・付添人として関わる少年の大多数はこれにあたります。

 

「触法少年」(少年法3条1項2号)とは、14歳未満で刑罰法令に触れる行為をした少年のことです。14歳未満の行為は罰せられないこと(刑法41条)との関係で、設けられています。

平成19年の少年法改正によって、重大な触法行為(殺人、強盗等)をした疑いのある少年は、原則、家庭裁判所に送致されることになっています。

 

「ぐ犯少年」(少年法3条1項3号)とは、ぐ犯事由とぐ犯性がある少年のことをいいます。

ぐ犯事由とは、保護者の正当な監督に服しない、正当な理由がないのに家庭に寄り付かない、犯罪性・不道徳性のある人と付き合ったり、いかがわしい場所に出入りする等の事由です。

ぐ犯性とは、性格・環境からみて将来的に犯罪を行うおそれがあることです(※ 罪を犯したわけではない)。

 

これら3つを併せて「非行少年」と呼称することがあります。

 

このように、刑罰法令で罪に問えない触法少年やぐ犯少年も対象にしているのが、少年事件の特徴といえます。その趣旨は、少年審判の目的が、罪を犯した者を非難・処罰することではなく、非行性を除去し、将来の犯罪を防ぐことにあるからと解されています。

 

なお、警察が補導活動の対象としているのは、前記非行少年よりも広く、少年の犯罪防止・再非行防止に大きな役割を果たしていると言えます。

 

弁護士 北野 岳志

2023年03月21日刑事:刑事

保険会社からの治療費の支払いが1ヶ月で打ち切られました。裁判等で強制的に支払いを続けさせることはできますか?

結論:交渉は可能ですが、強制はできません。

 

保険会社が行っていたのは「一括払い」というものです。

交通事故で被害者が病院等で治療を受けた場合、被害者は病院等に対して診療契約に基づく治療費等の支払い義務を負います。加害者が、病院等に対して、直接治療費等の支払い義務を負うわけではありません。

しかし、実際は、加害者が対人賠償責任保険(共済含む、以下同じ)を使用して、加害者側任意保険会社が病院等に直接治療費等を支払うことが多いです。

対人賠償責任保険は、自賠責保険の上積み保険で、自賠責保険の保険金額を超えた分を支払うのが建前ですが、迅速・簡便に被害者救済を図るという趣旨で、随分前から、任意保険会社が自賠責保険分も「一括して」支払うという運用が行われています。

 

「一括払い」は、法律に基づく制度ではなく、被害者に法的な請求権があるわけではありません。

また、前述のように、法的には病院等に治療費等の支払い義務を負うのは、被害者です。

そのため、一括払いの延長交渉はできますが、任意保険会社が延長に応じなかった場合に、裁判等で強制することはできません。

 

一括払いが打ち切られた場合には、その後も治療を継続し、生じた治療費等を加害者側に請求していくかどうかという重要な判断を速やかに行う必要があります。

個人で抱え込むことなく、弁護士等の専門家にご相談ください。

 

弁護士 北野 岳志

2023年03月18日交通事故:交通事故

先週亡くなった父には、父名義の土地があります。相続登記の義務化はR6.4.1からなので、関係ないでしょうか?

結論:関係あります。

 

不動産登記法の改正に伴い、令和6年4月1日から、相続登記の申請が義務化されます

これは、不動産を取得した相続人は、不動産取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければならず、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料に処せられるというものです。

過料とは、刑罰ではない秩序罰の1種ですが、10万円という金額は小さいとは言い難いため、速やかに相続登記を申請しておくことが望ましいと言えます。

 

改正法は、施行日前に所有権の登記名義人について相続の開始があった場合、すなわち、令和6年4月1日より前に亡くなっていた不動産名義人の相続人についても、適用されます。もっとも、この場合における3年の起算日は、不動産取得を知った日(※ 通常は亡くなった日)ではなく、令和6年4月1日からとされます。

 

説例でいうと、相談者は、令和6年4月1日から3年以内に相続登記を行う義務が科せられることになります。

なお、過料の対象となる相続登記の義務は、相続人申告登記(本改正により新設)という簡易なもので足りるとされており、遺産分割協議がまとまっていなくても、単独ですることが可能です

 

弁護士 北野 岳志

2023年03月17日相続:相続

担当者から「車の損害が軽微だから、ケガの対応はしない」と言われました。諦めるしかないのでしょうか?

結論:治療費等を請求できる可能性はあります。

 

一般に、加害者は、事故と相当因果関係のある損害について賠償責任を負うとされています。

この「相当因果関係のある損害」とは、当該事故によって現実に生じた損害のうち、当該の場合の特有の損害を除き、そのような事故から一般に生じるであろうと認められる損害と解されます。

 

標題のような軽微な事故の場合、自動車の搭乗者がケガをしていないことがあります。

そして、保険会社・共済担当者は、そういった事情を背景に、対応を拒否する事例が散見されます。

 

では、諦めるしかないのかというと、必ずしもそうとは限りません。

まず、何をもって「軽微」とするかについて、偏った評価がされている可能性があります。

また、低速度衝突事故でも負傷し得ることは報告されており、軽微な事故=ケガがないと端的に導き出せるものではありません。

 

令和5年版赤本下巻75頁以下(論者:戸取謙治裁判官)では、本稿のような受傷の有無が問題となることについて考察が行われており、被害者に加わった衝撃の程度(考慮要素として、どこにぶつかったか、どの程度壊れたか、車内のどこに乗っていたか、どのような姿勢であったか、シートベルト有無等)が重要であるが、それとともに、症状の内容・経過、治療経過等を重視し、既往症等のその他事情を総合考慮して判断するという考え方が示されています。

これに当てはめて検討していくと、軽微な事故であっても、治療費等を請求できる事例は少なくないと考えられます。

 

相当難解な問題であることから、弁護士等の専門家に相談することをお勧めします。

 

弁護士 北野 岳志

 

2023年03月16日交通事故:交通事故

亡くなった父には前妻との間に娘がいますが、音信不通です。遺産分割協議にて無視してよいですか?

結論:無効となるリスクがあるため、音信不通の方でも無視してはいけません。

 

離婚によって、前妻は法定相続人ではなくなりますが、前妻との娘はそうではなく、法定相続人としての地位は失われません。

法定相続人を1人でも無視して遺産分割協議を進めると、後日、有効な遺産分割協議ではないと指摘され、口座の凍結解除や土地・建物の相続登記が認められない(無効となる)可能性が高くなります。

前妻の子から、遺産分割請求をされる可能性もあります。

そのため、音信不通であろうと存命であれば、連絡をとらなければなりません。

ちなみに、前妻の娘が、亡父より先に亡くなっており、かつ、子がいた場合(※ 亡父から見ると孫)、代襲相続(民法887条2項)が生じるため、前妻の娘の子に連絡を取ることが求められます。

 

とはいえ、音信不通の親族に直接連絡を取るのは心理的抵抗があるでしょうし、感情的なトラブルにつながる懸念もあります。

そのため、弁護士等の代理人を介して対応することが推奨されます。

 

また、連絡を試みるも、どこにいるかわからない(但し、死亡したとはみなされない)場合は、不在者財産管理人を選任し、音信不通の相続人の代理人として遺産分割協議を行う必要があります。

申立は家庭裁判所に対して行いますが、専門性が高いため、弁護士への相談・委任が推奨されます。

 

弁護士 北野 岳志

 

2023年03月14日相続:相続

顧問契約時は従業員数が3人でしたが、6人に増えました。顧問料は上がりますか?

結論:当所においては、上がりません。

 

当所では、創業時(従業員数4人以下)から顧問契約をしていただいた事業主・会社との間においては、従業員数が20人を超えるまでは、契約時の顧問料2万2000円のままとさせていただきます。

20人を超えてくるような場合は、あらためて協議させていただきたいと思います。

 

弁護士 北野 岳志

2023年03月13日

弁護士に頼むと訴訟になってしまうのでしょうか?

結論:なることも、ならないこともありますが、個人的にはならない方が多いように思われます。

 

各種映像メディアや書籍等の影響なのか、弁護士=訴訟、裁判というイメージをお持ちの方が少なくないと感じています。

確かに、交渉等が行き詰った時の最終手段として訴訟提起することは少なくありませんし、いざとなったら訴訟提起するということが弁護士の交渉力の大きな部分を占めています。

とはいえ、すべてが訴訟になるわけではありません。

交通事故でいうと、私の経験では訴訟になるのは全体の2割前後といったところです。

大半は、訴訟前の示談交渉で解決しています。

 

訴訟提起するとなると、訴状の作成のほか、証拠書類の収集も行う必要があり、事件の内容にもよりますが、相当な時間と労力を要します。

依頼者(当事者)の方に対しても、最終的には当事者尋問への出廷をお願いすることになります。

このように、弁護士・依頼者とも負担が大きいことから、ある程度のところで妥協して示談解決することが多いと感じています。

同じことは相手方にも当てはまり、訴訟になると解決まで長期化するほか、自分たちの弁護士への費用を余計に支払わなければならなくなります。

 

結局のところ、依頼者の意向、相手方の対応、当該事件の具体的事情等によって、訴訟になるか・ならないかが決まるため、どちらともいえないと答えるしかないところです。

 

弁護士 北野 岳志

2023年03月13日その他:その他

会社が労災の使用を認めてくれないのですが、諦めるしかないでしょうか?

結論:会社が協力しなくても、労災請求をすることは可能です

 

労働者災害補償保険(以下「労災」と略します)の請求書式には、会社側で記入する欄があります。

そのため、労災請求には会社の協力が必要ですが、労働基準監督署に目をつけられたくない等の不合理な理由で、労災請求を渋る・認めない会社が未だにあるようです。

 

しかし、このような事情で諦める必要はありません。

労災請求をする際、会社側記入欄が空白のままでも、会社側が協力してくれない等の具体的事情を伝えれば、労働基準監督署は受け付けてくれます

 

とはいえ、労災請求は、相応の専門性が必要であって、一個人で行うのは難儀です。

これまでに述べたような事情で、会社の協力なしに労災請求をすることを検討されている方は、弁護士等の専門家の助力を仰ぐことを推奨します。

 

弁護士 北野 岳志

 

2023年03月13日労災・労働問題:労災

捻挫だと、後遺障害は認定されませんか?

結論:後遺障害(多くは14級)が認定されることはあります

 

自動車損害賠償保障法施行令別表第二14級9号は、「局部に神経症状を残すもの」を後遺障害としています。

具体的には、治療状況や症状経過等を勘案すると将来においても回復が困難と見込まれる障害と考えられており、打撲・捻挫受傷後、長期間治療を続けても改善しないケースは、これに該当する可能性があります

実際、交通事故にによる頚椎・腰椎捻挫受傷後、半年以上治療を継続しても症状が残存する方は一定数おり、その中の一部の方が14級9号の認定を受けています。

なお、同別表第二12級13豪「局部に頑固な神経症状を残すもの」に該当する可能性もないではありませんが、こちらはMRI等で本件事故に起因する他覚的所見が得られないと、容易に認定されない傾向が認められます。

 

もっとも、捻挫は、骨折のようにレントゲン等で明確な裏付けが得られるものではなく、第三者に適切な理解を得られにくいのが難点です。

そのため、治療におけるさりげない発言や通院の仕方が審査担当者の誤解を招き、後遺障害と認定されない事例も多々見受けられます。

後に誤解を招かないためにも、早い段階で弁護士に相談し、適切な助言を受けておくことが推奨されます。

 

弁護士 北野 岳志

 

2023年03月13日交通事故:交通事故