取調べに呼ばれていますが、黙秘すると不利になりませんか?

結論:黙秘権は憲法や刑事訴訟法によって保障された権利です。また、黙秘していることから、不利益な推認をすることはできないとされています。よって、黙秘の行使に、後ろめたさを感じることは全くありません。

1 黙秘権の意義と法的根拠
黙秘権は、ずっと黙っていることができる権利です。

黙秘権の経緯としては、国家権力によって、無実の人が自白を強制されてきたという歴史的事実に対する反省として認められるようになったと説明されます。

憲法38条1項は、「何人も、自己に不利益な供述を強要されない」と定めています。
刑事訴訟法198条2項は、「前項の取調に際しては、被疑者に対し、あらかじめ、自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げなければならない。」と定めています。
これらから、取調べにおいて黙秘すること、すなわち黙って何も話さないことは、れっきとした権利行使であることがわかります。

黙秘権は、刑事裁判においても保障されています(前記憲法38条1項、刑事訴訟法291条4項、311条1項)。
そして、黙秘をもって犯罪事実について不利益な心証をとることはできないというのが判例・通説であり、札幌高判平成14・3・19は、黙秘の事実をもって殺意を認定すべきという検察官の主張について、黙秘権保障に反すると述べました。

2 取調べにおける黙秘つぶしの実情
さすがに、黙秘を直接とがめるような発言(例:「黙秘するなんて反省していないのか!」「被害者に申し訳ないと思わないのか!」)は、ほぼなくなってきているように思われますが、黙秘を自発的に撤回させようとする働きかけは、すべての取調べにおいて行われているといってよいでしょう。

例を挙げると、「黙秘してもいいけど、あなたにとって損になると思うよ」「弁護人の言っていることが、本当にあなたのためになるのかな」等の発言があります。
また、事件と関係のない雑談をすることで人間関係を築き、黙秘の意思を氷解させるようなやり方もあるようです。

取調べの主たる目的の1つは、捜査機関の筋書きに沿った供述調書の作成と考えられており、黙秘されてはそれが叶わなくなります。
そのため、通常、あの手この手で、黙秘を撤回させようとしてきます。

一旦、黙秘を解除すると、人間的な心理として、再び黙秘することはやりづらくなります。
その結果、ずるずる取調べに応じて、意にそぐわない供述調書が作成されてしまったという事例は数多あります。

3 強い意思をもって一貫すること
黙秘し続けるのは、それほど簡単なことではなく、当人の強い意思が不可欠です。
黙秘権行使に少しでも後ろめたさがあれば、どこかで崩れる可能性が高くなります。

繰り返しになりますが、黙秘権は、人権侵害の歴史に対する反省から生み出された法的「権利」であり、黙秘することは「正当な」権利行使であることを、広くご理解いただきたいと思います。

4 認め事件と黙秘
認め事件(※ 犯罪事実を争わない、「私がやりました」という事件)でも、黙秘権行使はできます。
もっとも、進んで供述して反省を示すことで、有利な情状にするという選択もあります。
この点は、難しい判断になりますので、弁護士と相談した方がよいでしょう。


弁護士 北野 岳志

2023年05月24日|刑事:刑事