ある企業から内定をもらっていますが、最近、痴漢行為をして書類送検されました。内定は取消しになるのでしょうか?

結論:内定通知中、内定取消事由として犯罪行為が明記されていた場合、内定取消しが適法とされる可能性が高いと考えられます。

1 採用内定の法的性質
採用内定は、始期付解約権留保付労働契約と解されています。

「始期付解約権留保付」とは、入社時まで、使用者側から労働契約を解約する権利が保持されるということです。

2 内定取消の適法性判断
判例では、解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認することができるものでなければならない。

基本的には、内定通知や誓約書等に記載された取消事由への該当性で判断されますが、それだけで適法になるとは限りません。

3 代表的な内定取消事由
(1)重大な病気(疾患)
内定後の健康診断で、業務に耐えられない程度の病気が判明したような場合があげられます。
(2)卒業できなかったこと
留年して卒業できなくなった場合、1年待ってくれるところもありますが、多くは内定取消となります。
(3)犯罪行為
内定後に犯罪をした場合、犯罪内容にもよりますが、内定取消となる可能性が高いです。
(4)経歴詐称
内定後に経歴詐称が判明した場合、内容や動機にもよりますが、内定取消となる可能性が高いです。

4 裁判で違法な内定取消とされた事例
最判昭和54.7.20(通称:大日本印刷事件)では、内定者に対して陰気な印象があったところ、入社までにそれを打ち消す事情が出なかったことを理由にした内定取消しが、違法かつ無効とされました(※ 別途慰謝料100万円を認定)。

東京地判平成17.1.28は、入社前内定者研修に参加しなかったり、研修結果がよくなかったりしたことを理由とした内定取消しを違法としました(※ 別途慰謝料80万円を認定)。

東京地判平成16.6.23では、能力に問題ありとして内定取消するには、内定後に新たな事実が見つかったこと等の事由が必要であると述べた上で、そのような事由は認められず、違法・無効としました。

5 本件の検討
痴漢行為は、各都道府県の迷惑防止条例違反行為に該当して刑罰の対象となり、社会的な非難も大きいことから、適法な内定取消しとされる可能性が高いと思われます。

もっとも、迷惑防止条例違反の法定刑は強制わいせつ等に比べると軽いことから、被害者と示談できて、最終的に不起訴になったような場合は、取消までされない可能性が高まると考えられます。

弁護士 北野 岳志

2023年06月21日|その他:その他