不起訴処分となり、押収されたパソコンを返すよう電話で求めましたが、手続に時間がかかる等といわれて、一向に応じてもらえません。どうすべきでしょうか?
結論:検察に対して、正式に還付請求を行った上で、返却拒否・相当期間不応答であれば、裁判所に準抗告を申立てることが考えられます。権利乱用に当たる特段の事情のない限り、還付請求は認められるでしょう。
1 捜査機関に対する還付請求の可否
刑事訴訟法123条は、終局裁判確定前に、裁判所が押収した物のうち、「留置の必要のない」物は、事件終結前に、還付・仮還付しなければならないと規定しています。
還付とは、当該物品を永続的に返却してもらうことを意味します。
仮還付とは、当該物品を一時的に返却してもらうことを意味し、還付と同時に請求することができるとされています。
そして、本条は、同法222条1項で準用され、捜査機関が押収した物についても適用されます。
すなわち、起訴前において、証拠物は、警察(送検前)又は検察(送検後)が保管・管理していることから、実際に保管している捜査機関に対して、還付・仮還付を請求することができます。
2 捜査機関に対する還付請求をする際の「留置の必要」の解釈
一般論としては、捜査の推移に照らして、当該物品を返還しても捜査に支障を生じない場合には、「留置の必要」なしになると考えられます。
しかし、実際のところ、事件の処分が決まっていない場合は、捜査機関が還付請求に応じる可能性は低いです。
裁判所も捜査機関の裁量を広く認めがちなところがありますので、当該物品の証拠価値が低く、かつ、当該物品が返還されないことによって所有者が被る不利益が大きい等の特段の事情のない限り、「留置の必要」ありとされる可能性が高いと思われます。
他方、事件の処分が不起訴となった場合は、これ以上捜査をすることは基本的にないため、次の場合を除き、「留置の必要」なしとなることがほとんどでしょう。
3 権利濫用の考え方
最高裁決定令和4年7月27日(判タ1512号83頁)は、還付請求が権利濫用(刑事訴訟規則1条2項)として許されない場合があるとしています。
どのような場合が権利濫用にあたるかは、個別具体的な事件によるとしか言えませんが、熊本地判令和4年11月28日が参考事例としてあげられます。
本件は、元被疑者(被疑事実は強制わいせつ、最終処分は不起訴)が、所有するパソコンの還付請求を行ったところ、元被疑者が被害者画像の消去に同意しないことを理由に検察が拒否したというものです。
元被疑者は、還付拒否が違法であるとして国家賠償請求訴訟を提起し、還付拒否が権利濫用にあたるかが争われました。
裁判所は、被疑事件が不起訴処分によって終結したこと、パソコン内に保存されていた被害者の画像がすべて着衣姿であったこと、被害者側代理人との交渉において返還後に画像消去することを提案していたこと、元被疑者が無断で画像を流出・拡散させる可能性は低かったこと等を考慮し、権利濫用にはあたらないと判断しました。
4 最後に
還付請求を行うには、前述のように「留置の必要」や権利濫用該当性等を検討する必要があり、専門的な知識・経験が求められます。
お悩みの方は、弁護士にご相談ください。
弁護士 北野 岳志