交通事故において、事故発生を避けることが出来ない、相手の車両を避けることが出来ない場合は、こちらの過失はゼロになりますか?
結論:事故ごとの判断にはなりますが、「結果回避可能性」がなかったとして、過失がゼロになることはあります。
1 交通事故における過失責任
よく訴状では、「被告には、・・・という注意義務があるところ、これを怠り、漫然と・・・した過失によって本件事故を惹起せしめた。」という言い回しを用います。
ここで出てくる注意義務は、予見可能性と結果回避義務の2つの要素で構成されます。
予見可能性とは、事故・衝突が起きるかもしれないという危険をあらかじめ予見できたかどうかという事情です。
例えば、道路走行中、道路沿いの駐車場出入り口付近でウインカーを点けて待機している自動車がいた場合、通常、道路走行車両の運転者は、待機中の自動車が道路に進入してくるかもしれないと予見することができたと評価されます。
結果回避義務は、先程予見した危険を避けるため、具体的な回避行動(ブレーキペダルの操作、ハンドルの操作等)をなすべき義務を意味します。
そして、結果回避可能性は、この結果回避義務を課すための前提条件とされています。
2 結果回避可能性に関する典型例
信号のない交差点で、交差道路から自動車が飛び出してくると予見できた状況では、衝突を回避するべく、ブレーキペダルを操作して減速・停止することができたと解されることから、結果回避可能性は肯定されるでしょう。
信号待ちで停止中に、後方から相手車両が追突してきた状況では、バックミラーで接近を察知したとしても回避行動をとりようがないことから、結果回避可能性は否定されるでしょう。
3 裁判例の紹介
静岡地判H31.3.14(判例秘書:L07451613)は、同じ方向に並進していた2台の自動車のうち一方が左に車線変更してきた際に発生した事故に関するものです。
第1車線を直進していた方をX、第2車線から車線変更してきた方をYとします。
前記判決では、次のように述べて、過失割合をX:Y=0:100としました。
「…本件は、Xが法定速度を遵守してX車両を運転して片側2車線直線道路の第1車線を直進走行していたところ、第2車線をほぼ並走して直進走行していたY…が安全確認を怠ったまま第1車線への車線変更を開始し、既にほぼ真横にいたX車両に一方的に衝突してきたのであり、車線変更開始から衝突(接触)まで僅か1.5秒にも満たなかったというのであるから、Xからすればおよそ結果回避可能性がなかった事故というべきであり、…過失割合は、X 0%、Y 100%と認めるのが相当である。」
4 その他
冒頭で述べたように、結果回避可能性の有無は、事故ごとの判断となり、評価が悩ましいことも多々あります。
独りで判断するのは好ましいとは言えず、一度、弁護士に相談することをお勧めします。
弁護士 北野 岳志