A社からB社(同業他社)に転職するにあたり、A社に無断で、ある商品に関する情報が含まれたファイルをUSBにコピーしました。私は、B社に持ち込むつもりはないのですが、罪に問われるのでしょうか?
結論:本人にその気がなくても、外部事情から不正利用の目的が認定され、不正競争防止法違反となる危険があります。
1 不正競争防止法違反
不正競争防止法は、営業秘密を不正な手段で取得したり、使用したりすることを禁止しており、違反した場合は刑事罰の対象となります。
営業秘密とは、公知の事実ではなく、社外に持ち出し・開示することが禁じられている、事業活動に有用な技術や情報のことです。
典型例として、顧客情報、マニュアル、仕入れ価格、商品・製品の開発情報や設計図などがあげられます。
不正競争防止法21条は、10年以下の拘禁刑もしくは2000万円の罰金に処し、又はこれを併科すると規定しており、重い罪であることがうかがえます(※ 21条以外にも罰則規定はありますが、ここでは割愛)。
初犯でも実刑が課された事例が複数見受けられます。
2 「不正の利益を得る目的」
不正競争防止法21条等は、主観的構成要件として、「不正の利益を得る目的」を定めています。
「不正の利益を得る目的」とは、単純な利益追求にとどまらず、公序良俗・信義則に反する形で利益を得ようとすることを意味します。
典型例としては、①転職先にて自己の立場を確立したり、報酬・昇進を得たりするため、②技術・情報それ自体を売却して金銭的対価を得るため、③転職・独立した上で、本来かかるはずの時間・労力・コストを大幅に削減して利益を得るため等があげられます。
この「不正の利益を得る目的」は、通常、外部事情から判断されることが多いです。
言い換えれば、本人が「不正の利益を得る目的」はないと弁解していても、それが受け入れられず、「不正の利益を得る目的」があったと認定されてしまうことがあるということです。
参考裁判例として、名古屋地裁令和元年6月6日判決を引用します(※一部加工)。
「本件の動機・目的についてみると、関係証拠によれば、被告人は、①●国の求人サイトに登録し、被害会社と同種の事業を行う●国企業の求人を検索していること、②転職先あっせん業者に対し、自らが○○加工の知識・経験を有し、資料も多数有しているなどとアピールし、同あっせん業者の紹介による転職活動の結果、実際に、被害会社と同種の事業を行う●所在の企業から内定を得ていること、③転職を考え始めた◆年◇月以降,6回(本件を含めれば7回)にわたり被害会社の営業秘密を大量にダウンロードしたことなどが認められ、これら①②③の事実によれば、被告人は、高い経済的価値を有する本件データを保有していることをもって、待遇や処遇の良い転職先を確保し、あるいは転職先における自己の地位、評価を高め、自らの待遇や処遇を利する目的であったと認められる。
…この点について、被告人は、自宅で勉強するために本件データをダウンロードした旨述べるが、被害会社の営業秘密へのアクセス状況やメッセージアプリにおける被告人の発言内容等に照らせば、かかる弁解は信用できない。」
3 最後に
繰り返しになりますが、、本人の弁解がそのまま受け入れられるとは限りません。
不正競争防止法違反で課される刑罰が重いことを併せて考慮すると、転職や独立の際は、特にデータや資料の持ち出しを疑われる行動は、慎むべきでしょう。
弁護士 北野 岳志