窃盗罪で保護されている「占有」とは、どのような内容ですか?

結論:物を事実上支配・管理する状態であり、物を持ったり身に着けたりしている場合はもちろん、そうでなくとも支配・管理が及んでいるとして認められることがあります。

1 窃盗罪における占有の意義
現状、判例・実務は、窃盗罪における保護法益は、「占有」と解しています。

「占有」は、物を事実上支配・管理する状態等と定義されます。
詳述すると、主観的要素としての「支配意思(物を事実上支配・管理しようという意欲・意思)」と、客観的要素としての「支配の事実」が要件となります。

占有されている他人の財物を奪った場合は窃盗罪(10年以下の懲役、または、50万円以下の罰金)となり、占有されていない他人の財物を盗った場合は占有離脱物横領罪(1年以下の懲役、または、10万円以下の罰金)となります。
このように、罪の重さを決める上でも、占有のあり・なしは重要な意味を持っています。

2 「占有」と認められた具体例
旅館に置き忘れた財布については、旅館主の占有が認められています。

ゴルフ場のロストボールには、ゴルフ場管理者の占有が認められています。

自宅角から約1.5m離れた公道上の看板柱そばに立てかけられた自転車について、自転車所有者の占有が認められています。

バス待ちで並んでいる際、カメラを置き忘れたことに気づいて、カメラから約20m、時間にして約5分の距離的・時間的間隔があった状況において、カメラ所有者の占有が認められています。

公園ベンチにポシェットを置いたまま、ポシェットから約27m、時間にして約2分の距離的・時間的間隔があった状況において、ポシェット所有者の占有が認められています。

3 「占有」と認められなかった具体例
村役場の事務室に納税者が置き忘れた金員については、村長の占有は認められませんでした。

電車の客室内に置き忘れた物については、車掌等の占有は認められませんでした。

開店中の大規模スーパーマーケットの6階ベンチに札入れを置いたまま、地下1階に移動し、約10分間放置されていた状況において、札入れ所有者の占有は認められませんでした。

4 まとめ
各事例からわかるように、窃盗罪における占有は、実際に財物を携帯していない場合でも認定されていますが、その判断基準は明瞭とは言い難く、財物の特性や支配の意思の強弱、距離的・時間的要素等を総合勘案して評価していると解されます。


弁護士 北野 岳志

2023年05月30日|刑事:刑事