前科があると、犯人になりやすいのでしょうか?
結論:前科があることを理由に犯人扱いすることは、基本的に認められません(※ 例外あり)。
1 前科の内容と時間的間隔
現在問題となっている犯罪(以下「本件」といいます。)と前科との関連性については、少なくとも犯罪の内容と時間的間隔の2点に注目する必要があります。
前科が「盗撮」で本件が「業務上横領」であるように、犯罪の内容が大きく異なる場合は、関連性はないと言えます。
他方、前科が「暴行」で本件が「傷害致死」であるような場合、他人に対して有形力を加えるという共通性があるため、一定の関連性は肯定されるように思われます。
前科と本件はともに「窃盗」ですが、前科が20年以上も前であるように時間的間隔が大きい場合、その間一度は更生したと評価し得ること等から、関連性はない又は乏しいと言えます。
他方、前科からほとんど時間が経っていないような場合(例:1~2年)、前科における犯罪傾向が維持・悪化している等と評価されてしまうでしょう。
2 前科と犯罪認定
前科によって犯人を認定するというのは、おおざっぱに言うと、次のようなものです。
「2年前、B宅で起きた下着泥棒の犯人は、Aだった。」
「最近、また、B宅で下着が盗まれる事件が発生した。」
「犯人はまたAに違いない。」
思い込みに依拠した非常に危険な推論であることがおわかりいただけましたでしょうか。
下着の窃盗事件は、いたるところで頻繁に起きており、Aだけが行い得るものではありません。
前科のあるAを捜査対象とすることはあり得るとしても、前科をもって犯人と決めつけたり、間接証拠にしたりするようなことは不合理です。
これに関して、最判平成24.9.7は、前科をもって犯人と推認することは基本的に許されないとしました。
ただ、前科及び本件の犯罪事実が顕著な特徴を有し、かつ、その特徴が相当程度類似することから、それ自体で同じ犯人であることを合理的に推認させるような場合については、例外的に許されるとしました。
3 前科と情状
このように、前科を犯罪認定に用いることは基本的に許されませんが、情状事実として用いることは妨げられません。
というより、前科や前歴は、情状事実の中で重要視されるものの1つであり、時間的間隔があまり空いていない同種前科がある場合は、量刑は確実に重くなると考えられます。
弁護士 北野 岳志