生前贈与や債務がある場合、遺留分の基礎となる財産はどのようにして算定するのですか?

結論:遺留分算定の基礎となる財産は、相続開始時における被相続人の積極財産に、一定の期間内の生前贈与の額を算入し、被相続人の債務の額を控除した上で、算出します(民法1043条1項)。

1 ステップ1:死亡時の被相続人の積極財産を整理・集計する
積極財産とは、現金、預貯金、有価証券、土地建物、自動車、貴金属類などの金銭的価値のある財産を意味します。

評価の基準時は、死亡時(=相続開始時)です。

借金等の負債は、消極財産と呼称され、積極財産には含まれません。

なお、遺贈の対象となる財産は、含めて集計します。

2 ステップ2:生前贈与の有無を調査し、①相続人に対する生前贈与は死亡時から原則10年以内、②第三者に対する生前贈与は死亡時から原則1年以内のものを算入する
相続における生前贈与は、相続財産の前渡しと評価される贈与をいいます。

判例実務は、「生計の資本としての贈与」であれば、相続における生前贈与にはあたらないとしていますが、その判断基準については長くなるため割愛します。

生前贈与の相手方の属性によって、算入期間に違いが生じる点には注意を要します。

なお、いわゆる持戻し免除の意思表示がある場合においても、算入すべきとされます。

3 ステップ3:被相続人の債務を控除する
死亡した被相続人に、借金等の負債があれば、その全額を控除します。

制度趣旨としては、遺留分制度が、相続人が現実に取得する価額を基礎とするものであるから等と解されています。

4 例題
・令和5年12月31日に死亡したAは、死亡時に2000万円の積極財産を有していた。
・Aは、令和5年6月1日に、知人のBに5000万円を贈与していた。
・Aは、死亡時に、C銀行からの1000万円の借入金があった。
・Aの配偶者であるDは既に死亡していたが、子であるEとFは存命であった。

この場合における遺留分算定の基礎となる財産は、次の計算式に基づき、6000万円となります。
 2,000万円+5,000万円-1,000万円=6,000万円

更に進めると、E・Fの1人当たりの遺留分額は、次の計算式に基づき、1500万円となります。
 6,000万円×1/2(総体的遺留分率)×1/2(法定相続分率)=1,500万円

そして、E・Fの1人当たりの遺留分侵害額は、次の計算式に基づき、1000万円となります。
1,500万円(※ 遺留分額)-2,000万円(※ 積極財産の価額)×1/2+1,000万円(※ 負債の価額)×1/2=1,000万円

弁護士 北野 岳志

2024年02月05日|相続:相続