先日父親が亡くなりましたが、弟が行方不明のため、遺産分割協議をすることができません。どうすべきでしょうか?

結論:不在者財産管理人選任の審判を申立て、選ばれた不在者財産管理人との間で遺産分割協議を行うべきです。ただ、生存が証明された最後の時から長期間経過している場合は、失踪宣告の審判を申し立てることも検討すべきでしょう。

1 問題の所在
遺産分割協議が有効に成立するには、すべての相続人が協議内容について合意する必要があり、1人でも欠けている場合は無効となります。
そのため、本件のように連絡の取れない相続人がいる場合も、その者の死亡が確認されない以上無視することはできず、どう対処すべきかが問題となります。

2 調査
まずは、何とか連絡が取れないか、調査を行う必要があります。
従前の電話番号と住所がわかっている場合は、電話をかける・手紙を出す・訪問する等が考えられます。
行方不明直前の職場や友人が何か事情を知っている可能性がありますので、一度は聞いてみるべきでしょう。
また、SNSが発達した時代ですので、著名なSNSにアカウントを開設していないか探ってみるのも1つです。
手紙が宛所なしで帰ってきた場合は、住民票を取り付けて、転出・転入の手続きがとられているかを確認することも求められます。

3 不在者財産管理人選任審判の申立て
前述の調査にもかかわらず、当該相続人の行方や生死が不明の場合は、不在者財産管理人選任審判の申立てを行うべきです(民法25条1項)。
不在者財産管理人」とは、不在者(※ ここでは行方不明となった弟)のためにその財産を管理・保存することを職務とするもので、家庭裁判所の審判によって選任されます(※ 不在者自身が依頼した委任管理人は含めません)。
法律上の地位としては、不在者の法定代理人とされます。

不在者財産管理人となるのに、特別な資格は不要です。
もっとも、職務の性質上、不在者と利害が対立する者は適しません。
また、職務の専門性から、弁護士・司法書士等の士業が選ばれることが多いです。
士業以外の不在者財産管理人をどの程度許容するかは、地域によって温度差があるようです。

申立後、1~2か月かけて裁判所内の手続きが進められ、選任の可否についての結論が示されます。
不在者財産管理人が選任されれば、その者を不在者の代わりに加えて、遺産分割協議を行うことが可能となります。

4 失踪宣告
調査の結果、不在者の生存が証明された最後の時から7年間経っている場合は、失踪宣告の申立てをすることができます(民法30条1項)。
これを「普通失踪」といいます。

不在者が戦争や船舶の沈没等に巻き込まれている場合は、それら危難がさった後1年間経過後に失踪宣告の申立てをすることができます(民法30条2項)。
これを「特別失踪」といいます

失踪宣告の申立てがなされると、普通失踪は3~4ヶ月、特別失踪は1~2か月の公告期間が設けられ、期間満了時に裁判所から失踪宣告の審判が行われます。
失踪宣告の審判結果は関係書類とともに申立人に郵送され、不服がある場合は、到達日の翌日から14日以内に即時抗告をすることができます。
期限内に即時抗告をしなければ、審判結果は確定し、不在者は死亡したものとみなされます

死亡したとみなされる日は、普通失踪の場合は「生存が証明された最後の時から7年間満了時」、特別失踪の場合は「危難が去った時」です。
その後は、不在者は死亡したものとみなして、残りの相続人間で遺産分割協議を進めていくことになります。

なお、不在者の生存が判明した場合は、失踪宣告は取り消され、失踪宣告に基づく死亡の効果は当初から生じなかったものとされます(民法121条)。
ただし、取消しによって返還する財産は現に利益を受けている限度で足りるほか、取消し前に善意で行った行為は効力を失いません(民法32条1項2項)。

弁護士 北野 岳志

2023年05月17日|相続:相続