ライン工をしていますが、昨日、痴漢行為で罰金刑を受けた後、勤務先から懲戒解雇されてしましました。この処分は妥当でしょうか?
結論:懲戒解雇は重過ぎると思われます。
1 懲戒処分の意義
懲戒処分とは、使用者(雇用主)が従業員(雇用者)の企業秩序違反行為に対する制裁として科す「罰」であり、懲戒解雇、諭旨解雇、降格、出勤停止、減給、戒告、訓告、けん責等があります。
2 懲戒処分と私生活上の非違行為
懲戒処分が有効になされるには、就業規則に懲戒事由が明記された上で、労働者の懲戒事由の程度・内容等に照らして相当なものであることが必要とされます。
労働者の私生活には、基本的に使用者(雇用主)の指揮命令権は及びません。
しかし、労働者は信義則上、使用者の信用・名誉等を下落させない義務(誠実義務)を負うことから、私生活上の行為であっても、企業の円滑な運営に支障を来すおそれがある等の場合には懲戒事由になるというのが判例であり、実際に私生活上の非違行為を懲戒事由としている使用者がほとんどであると言えます。
3 懲戒解雇と痴漢行為
前述のとおり、私生活上の非違行為も懲戒処分の対象にはなるものの、懲戒解雇は最も重い処分であることから、非違行為の内容等に照らして相当であることが求められます。
重過ぎる場合は、懲戒権の濫用として無効となります(労働契約法15条)。
通常、痴漢行為の被疑事実・公訴事実は、迷惑防止条例違反とされています。
なお、程度がひどい場合には、強制わいせつ罪等にもなり得ます。
三重県の迷惑防止条例に照らすと、「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」と規定されており、余り重くない印象も受けます。
しかし、痴漢に代表される破廉恥罪は、社会的非難が厳しく、使用者の信用・名誉等との関係では看過し難い影響を及ぼす可能性があることから、軽く見ることはできません。
いささか大げさに言うと、「痴漢をするような者を雇っているのか」と指摘されること等によって、営業上の悪影響が生じ得るということです。
特に、SNSの発達した現在では、実名報道された破廉恥罪の被疑者について、どこに勤めているのか、家族は何人か等の個人情報が匿名第三者によって調べられ、インターネット上にアップロードされることによって、広く知れ渡るということがしばしば生じています。
東京高判平成15.12.11によれば、以前に痴漢行為を複数回行って、その都度懲戒処分を受けていた電鉄会社社員に対する懲戒処分が有効とされています。
これは、何度も同じことをしているということと、本来痴漢行為を抑止すべき電鉄会社社員であることが重視されたものと考えられます。
4 本件の考え方
懲戒処分歴がないこと、強制わいせつ罪には至っていないこと、職業上積極的に痴漢行為を抑止する義務を負うとまでは言えないこと等から、いきなり懲戒解雇するのは重過ぎると言えるでしょう。
争い方としては、従業員としての地位確認や未払い賃金・慰謝料等の請求が考えられます。
懲戒解雇に限らず、科された懲戒処分の妥当性に疑問を持った場合は、弁護士等の専門家に相談することをお勧めします。
弁護士 北野 岳志