賃借物件で漏水があった場合、賃料の支払いを拒否することはできますか?

結論:漏水によって、賃借物件の全部または一部につき、使用・収益することができなくなった場合は、その程度に応じて、漏水以降の賃料の全部または一部を支払わなくてよいと考えられます。

1 問題の所在
賃貸借契約は、賃借人が目的物の使用・収益をする対価として、賃貸人に対して賃料を支払うというものです(民法601条)。
そのため、漏水等の事情で目的物の使用・収益に支障を来した場合、対価としての賃料を満額支払わなくてもよいのではないかという問題が生じます。

2 民法611条1項
民法611条1項(※ 平成29年改正)は、「賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。」と規定します。
これは、前述の賃料の対価性を踏まえたものと解されます。

本条の「その他の事由」には漏水も含まれますので、漏水被害に遭った借主は、借主が原因で生じた漏水でない限り、本条に基づき、漏水以降の賃料の全部または一部の支払いを拒否することができます。

3 立証責任
民法611条1項は、「使用及び収益をすることができなくなった」ことを要件としており、その立証は賃借人が負います。
それ故、賃借人としては、当該賃貸借の目的、漏水の程度、前記目的との関係で漏水による使用・収益への具体的影響(※ 漏水前と比べて利用価値が何割程度減じたか)を的確に立証する必要があります
減じた程度については、漏水によって汚損した部分の床面積を、賃借物件全体の床面積で割るというのが単純なやり方ですが、それだけでは正確な算定はできないケースも多々あると考えられます。

「賃借人の責めに帰することができない事由によるもの」、いわゆる帰責事由については、賃借人が立証するのではなく、賃貸人の抗弁と解されます。
すなわち、賃借人から、民法611条1項に基づく全部または一部の賃料の支払い拒否・減額請求に対して、賃借人に帰責事由がある(※ 漏水の原因は賃借人にある)ことを立証することで賃料の減額を免れるということです。


弁護士 北野 岳志

2023年05月09日|不動産:不動産