亡くなった父の死亡保険金の受取人が姉になっていました。この死亡保険金は、特別受益にはならないのでしょうか?

結論:原則として、特別受益とは扱われず、持戻しの対象にはなりません。もっとも、諸般の事情から、共同相続人間に看過し難い著しい不公平があると解される場合は、特別受益として持戻しの対象になります。

1 特別受益と持戻し
特別受益とは、被相続人から特定の相続人に対してなされた遺贈、または、婚姻・養子縁組・生計の資本としての贈与のことです。「特受(トクジュ)」と略する方もいるようです。

特別受益は、遺産の前渡しというべきものであり、これを無視して遺産分割を行うことは、前記特定の相続人だけが得をし、遺産分割の公平を失することになります。
そこで、被相続人が相続開始時(一般には死亡時)に有していた総財産の価額に、特別受益分の価額を加算して、みなし相続財産の額が算定されます。
この特別受益分の加算を、通常、特別受益の持戻し(モチモドシ)と呼称します。

2 持戻しが行われる場合の具体例
被相続人:A
相続人:BとCの2名 ※ いずれもAの子
A死亡時におけるAの総財産の価額:1億円
Cの特別受益の価額:2000万円
遺言等による相続分の指定なし、持戻し免除の意思なし

みなし相続財産は、2000万円を持戻した結果、1億2000万円となります。

Bが受け取る相続財産は、次の計算式に基づき、6000万円となります。
12,000万円×1/2=6,000万円

Cが受け取る相続財産は、次の計算式に基づき、4000万円となります。
12,000万円×1/2-2,000万円(※ 特別受益分)=4,000万円

3 特定の相続人が受け取る生命保険金は特別受益となるか
最決平成16.10.29は、①当該死亡保険金請求権は、当該保険金受取人が固有の権利として取得すること、②死亡保険金請求権は、被保険者が死亡した時に初めて発生するものであり、保険契約者の払い込んだ保険料と等価関係に立つものではなく、被保険者の稼働能力に代わる給付でもないのであるから、実質的に保険契約者又は被保険者の財産に属していたものとみることはできないこと、といった理由から、原則として特別受益にはならないとしました。

他方、前記最決は、保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、同条の類推適用により、当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となるとし、例外的に特別受益とする余地を認めました
そして、「特段の事情」として考慮する要素として、(a)保険金の額、及び、保険金額の遺産の総額に対する比率、(b)同居の有無、被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係、(c)各相続人の生活実態等をあげました。

4 調停・審判の傾向
死亡保険金額が遺産総額の6割以上で、かつ、高額である場合は、特別受益とされる可能性が高いと思われます。

もっとも、それだけで決まるわけではないため、まずは弁護士への相談をお勧めします。


弁護士 北野 岳志

2023年07月05日|相続:相続