数年間勤めている会社から、営業成績がよくないことを理由に解雇されました。このような理由で解雇することができるのでしょうか?
結論:成績不良・能力不足での解雇が有効とされることはあります。ただし、プロフェッショナル・即戦力として雇用された場合を除き、非常に厳格な要件をみたすことが求められることから、解雇が無効とされることが多々あります。
1 解雇の法規制
労働契約法16条は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でない解雇は無効と定めています。
一般的に解雇が有効とされるのは、解雇事由が重大で、将来においても存続することが予想され、他に解雇を回避する手段がない場合をいうと解されます。
2 成績不良・能力不足と解雇
多くの就業規則や労働契約においては、成績不良・能力不足を解雇事由の1つに定めています。
実際、出来の悪い社員を雇用し続けるのは、経営者に過度の負担を課すものであるほか、他の社員に悪影響を及ぼすという観点から、解雇を柔軟に認めるべきという考え方もあります。
しかし、本邦の裁判例は、現状そのような考え方は採用せず、解雇が労働者に重大な不利益をもたらす点を重視し、解雇の有効性を厳しく判断しています。
3 成績不良・能力不足による解雇の有効性が争われた裁判例。
(1)解雇が無効とされたもの
東京地決H11.10.15(通称:セガ・エンタープライゼス事件)では、解雇が有効となるには、平均的水準に達していないだけでなく、著しく労働能力が劣り、向上見込みがないことを要するとした上で、本件でそれにあたるとは認定できないとしました。
東京地判H24.10.5(通称:ブルームバーグ・エル・ピー事件)では、当該労働契約上必要とされている職務能力の低下が当該労働契約の継続を期待できない程重大か否か、改善矯正を促して努力反省の機会を与えたのに改善がされなかったか否か、今後の指導による改善可能性の見込みはないか否か等を総合考慮した上で、解雇が相当とは言えないとしました。
(2)解雇が有効とされたもの
東京地判H27.6.2(通称:KPIソリューションズ事件)では、成績不良・能力不足のほか、経歴詐称、論文の盗用、勤務態度の不良等が指摘され、解雇は有効とされました。
解雇が有効とされた裁判例は、成績不良・能力不足だけでなく、それ以外の問題行為(業務命令違反、勤務態度不良、服務規律違反等)が考慮されているものが少なくないように思われます。
4 プロフェッショナル・即戦力について
プロフェッショナル・即戦力として雇用した労働者が期待した能力・資質を有していないような場合は、裁判例は比較的容易に解雇を有効としている傾向がみられます。
東京地判H14.10.22(通称:ヒロセ電機事件)では、海外勤務歴に着目し、語学力・品質管理能力を具備した即戦力として採用したにもかかわらず、予定された能力を有しておらず、これを改善しようとしなかった場合には、解雇されてもやむを得ないとしました。
弁護士 北野 岳志