定年まで大分かかる場合でも、退職金は財産分与の対象となりますか?
結論:定年まで相当な時間がかかる場合でも、退職金を財産分与の対象に含めるのが一般的です。もっとも、算定の仕方は一律ではなく、最終的には裁判所の判断となります。
1 退職金の性質と夫婦生活との関係
退職金は、賃金の後払いとしての性格と、(勤続内容・期間に応じた)功労報償としての性格を持つと解されています。
通常、勤務の継続については、同居する夫婦の一方(妻であることが多い)の協力・支えがあればこそと考えられます。
そこで、退職金を夫婦共有財産と同視し、財産分与の対象に含めるのが実務の運用です。
2 財産分与の基礎となる退職金の範囲
次の事例で考えてみたいと思います。
・ Yが20歳の時に、A社で勤務を開始した。A社の定年は65歳である。
・ Yが30歳の時に、Xと結婚した(※ 同時に同居を開始したとする)。
・ Yが50歳の時に、Xと離婚した(※ 別居も同時期とする)。
この場合の退職金の算定方法としては、主に次の3つが考えられます。
① Yが50歳の時に自己都合退職した場合(勤続30年で退職)の退職金を算出した上で、その内婚姻中の同居期間(20年)に対応する部分を対象とする。
② Yが15年後に定年退職した場合の退職金から、婚姻(同居)前期間分(10年)と離婚(別居)後労働分(15年)を差し引き、中間利息(ライプニッツ係数を使用することが多い)を控除した部分を対象とする。
③ Yが15年後に定年退職した場合の退職金から、婚姻(同居)前期間分(10年)と離婚(別居)後労働分(15年)を差し引くが、中間利息は控除しない。ただし、実際に支払うのは退職時(15年後)とする。
どの方式も、長所と短所があります。
また、裁判所は、上記①~③以外の方式で算定することも可能です。
3 同居と別居について
上記事例では婚姻と同居、離婚と別居を同時にしていますが、ズレがある場合は注意が必要です。
例えば、婚姻して半年後に同居を開始した場合、財産分与の対象となるのは、同居後となります。
また、離婚の1年前から別居している場合、財産分与の対象となるのは、別居までとなります。
夫婦が同居して生活をしていることが、夫婦の一方に対する生活面における協力・支えの前提と考えられるからです。
弁護士 北野 岳志