公判前整理手続とは、いかなるものですか?

結論:公判前整理手続とは、検察官、弁護人、裁判所の三者によって、充実した公判の審理を継続的かつ迅速に実施するために行う手続きです。裁判員裁判では必須とされているほか、一般事件でも必要に応じて裁判所の判断で行うことが可能とされています。

1 はじめに
公判前整理手続の目的には、「充実」と「迅速」という文言が使用されていますが、一方を重視しすぎるともう一方が軽視されてしまう点に注意が必要です。
特に、裁判所は「迅速」を重視しすぎる傾向があると指摘されています。

公判前整理手続には、検察官、弁護人、裁判所の三者は必ず出頭します。
被告人は出頭できるものの、必須ではありません。

審理予定の策定のため、「争点」と「証拠」の整理が行われることになり(刑訴316条の2第1項)、以下で詳述します。

2 「争点」の整理
まず、検察官が、証明予定事実記載書面を提出します。(刑訴316条の13)。
証明予定事実とは、公判期日において証拠によって証明しようとする事実、言い換えれば、被告人を有罪として適切な量刑をするための事実です。

これを受けて、弁護側が予定主張を明示します(刑訴316条の17)。
ただ、一切の主張をしない、完全黙秘の場合は、予定主張は不要です。
証明予定事実に対する認否については、裁判所から求められることが少なくありませんが、義務とまでは言えず、個別具体的な対応が求められます。
なお、予定主張を明示する前提として、前記証明予定事実のほか、同時期に開示される検察官請求証拠と類型証拠の検討を行うことになります。

その他、手続終了までの間、検察側は証明予定事実を追加・変更することができ(刑訴316条の21)、同様に弁護側も予定主張を追加・変更することができます(刑訴316条の22)。

2 「証拠」の整理
まず、検察官が証明予定事実を証明するための証拠調べ請求が行われ(刑訴316条の13)、いわゆる検察官請求証拠が弁護人に開示されます(刑訴316条の14)。

もっとも、これで十分な証拠開示が行われることは稀です。
そのため、弁護側は、刑訴316条15に規定された証拠、いわゆる類型証拠開示請求を行うことになります。
検察側が証拠開示に応じない場合は、裁判所に対して、証拠開示を求める裁定請求をすることができます(刑訴316条の26)。
ただ、検察側が任意での証拠開示に応じる場合は、類型証拠開示請求が省略されることもあるようです。

以上を踏まえ、弁護側は、検察官請求証拠に対する同意・不同意の意見を述べます(刑訴316条16)。
なお、裁判員裁判では、通常の裁判より、直接主義・口頭主義の要請が強いことから、従来型裁判では同意してきたような書面についても、不同意にすべきとの意見があります。

前記弁護側予定主張の明示と同時に、未だ開示されていない検察側証拠について、弁護側主張に関連する証拠であるとして、開示請求することができます(刑訴316条の20)。
この主張関連証拠開示請求に関しては、証拠の類型による限定はありません。

弁護側としても、予定主張として、証明予定事実がある場合は、予定主張関連証拠の取調べ請求をする必要があります(刑訴316条17)。
証拠書類・物については、検察側に閲覧・謄写の機会を与えなければなりません。

公判前整理手続終了後は、「やむを得ない事由」がある場合に限り、新たな証拠調べ請求をすることができるとされています(刑訴316条32)。

3 証拠の採否決定と審理予定の策定
以上の手続きを経て、裁判所は、検察側・弁護側証拠の採否を決定し、審理予定を策定します。
これによって、公判前整理手続が終了し、公判に移行することになります。

採用された証拠については、相当でないことを理由として異議を述べることは不可とされており、異議を述べる際には何らかの法令違反を主張しなければなりません。

審理予定でもっとも問題となるのは、証人尋問の取調べ予定時間です。
裁判員裁判では、裁判員の負担を考慮し、時間を短くする傾向があるとされています。

終了後には整理された公判前整理手続調書が作成されるため、内容に誤りがないか等を確認しておくことが肝要です。

弁護士 北野 岳志

2023年08月12日|刑事:刑事