あらかじめ時効を放棄する内容の合意は無効になると聞きましたが、どうしてですか?

結論:時効制度が無意味化するおそれがあるからです。

1 時効制度の趣旨
時効制度の趣旨の1つとして、真実の権利状態と異なった事実状態が永続した場合、その事実状態をそのままの権利状態として尊重し、認めるということがあげられています。

2 取得時効と消滅時効
取得時効は、時効の援用によって援用者が権利を取得するというものです。
例えば、荒れ放題だった山田さんの所有地を、鈴木さんが自分の所有地として占有し、20年間耕作し続けた場合、鈴木さんがその土地の所有権を時効取得することが可能となります(民法162条1項)。
この場合、鈴木さんが占有開始時に善意無過失なら、期間は10年に短縮されます(民法162条2項)。

消滅時効は、反対に、時効の援用によって援用者の義務が消滅するというものです。
例えば、佐藤さんからお金を借りた田中さんが、返済期限にお金を返さないまま5年が経過した場合、田中さんは返済義務を時効消滅させることが可能となります(民法166条1項1号)。

3 時効利益をあらかじめ放棄できない理由
分かりやすい例として、借金の貸し手と借り手の関係を取り上げてみます。
仮に時効利益をあらかじめ放棄できるとしたら、貸し手は、時効利益の放棄を借り手に迫ったり、契約書・約款にその条項を定めたりすることが想定されます。
借り手は、基本的に弱い立場にあることから、受け入れざるを得ず、その結果、世の中の貸金契約のほぼすべてにおいて、消滅時効を主張し得ず、時効制度が無意味化するという不都合な事態が起こりかねません

同じような趣旨で、時効期間の延長・中断・停止に関する特約も無効と解釈されます。

4 最後に
貸金業者等が、約款で消滅時効の放棄等を規定することはさすがにないと思われますが、法律に疎い個人間の契約では、今もなお起こり得る問題です。
貸し手から「契約で決めたことだから消滅時効は完成しない」等と言われ、何十年も前の借金の督促を受けているような場合は、弁護士にご相談ください。


弁護士 北野 岳志

2023年09月09日|債務整理:債務整理