相続放棄したいのですが、相続放棄後、私が持っている相続財産は捨てていいのでしょうか?

結論:相続放棄しても、他の相続人に引き継ぐまで相続財産に対する注意義務はなくならず、勝手に捨てることは認められません。全員が相続放棄してしまった場合は、相続財産清算人の選任申立てをすることが考えられますが、予納金には注意を要します。

1 相続放棄の意義。
相続放棄とは、相続人が、積極財産(例:預貯金)・消極財産(例:借金)に関わらず、被相続人に属した一切の相続財産を承継しない手続きです。
これによって、相続人は、初めから相続人にならなかったものとみなされます(民法939条)。

相続放棄は、被相続人(例:親、配偶者)が亡くなったこと、及び、その相続財産の存在を知った時から3ヶ月以内(※ 初日不算入)に、管轄の家庭裁判所に申立てをすることによって行います。

前記3ヶ月は「熟慮期間」と呼称され、相続財産の調査に時間を要する場合等では、家庭裁判所に申立てをすることで期間を伸長することができます。
どこまで伸長するかは、最終的には家庭裁判所の審判によります。

2 相続放棄の効果
前述のように、相続放棄の審判がなされると、初めから相続人ではなかったことになり、相続の効果を拒否することができます。

民法上、相続人となるものは、被相続人の配偶者に加え、子ども(第一順位)、直系尊属(第二順位)、兄弟姉妹(第三順位)とされています(民法887条、889条、890条)。
子どもについては代襲と再代襲、兄弟姉妹については代襲があります。

前記順位に基づき、子どもが相続放棄すれば直系尊属が相続人となり、直系尊属が相続放棄すれば兄弟姉妹が相続人となります。
最終的に兄弟姉妹と配偶者が相続放棄すれば、法定相続人はいなくなります。

3 相続放棄後の財産と相続財産清算人
相続放棄した元相続人が、何らかの事情で相続財産を占有していた場合、元相続人は「自己の財産におけるのと同一の注意」をもって、相続人または相続財産清算人に相続財産を引き渡すまでの間、保存しなければなりません(民法940条1項)。
勝手に捨てたりすることは、認められません。

相続財産清算人は、利害関係者(元相続人含む)や検察官の請求によって、家庭裁判所が選任します(民法952条1項)。
相続財産清算人は、相続財産を管理するとともに、相続人の存否を確定し、また、特別縁故者や債権者・債務者等を確定すべく、調査を行います。
最終的に相続人不存在が確定した時は、相続財産を清算して、残余財産は国庫に帰属させます(民法959条)。

元相続人は、相続財産清算人が選任されれば、占有している相続財産の管理を引き継いでもらうことで、前述の注意義務から解放されます。

4 予納金
申立の際には、予納金を求められることには注意を要します。
予納金は、相続財産清算人への報酬や相続財産の管理、各種調査に用いることが予定されている金員です。
予納金の額は、相続財産の数、種類、評価額等によって異なりますが、相続財産がほぼない場合でも30万円~50万円程度必要となります。

検察官に対して申立てを請求する法的権利は認められていないため、元相続人間で協議して、どのようにして予納金を負担するかを協議すべきでしょう。
なお、相続財産占有者が単独で申立てをして予納金を納付後、元相続人らに対して求償する権利までは認められないと解されます。

弁護士 北野 岳志

2023年05月20日|相続:相続