貸金業者から「1万円でいいから支払って」との督促状が届きました。残債は約50万円で、最後の支払から5年以上経ちますが、言うとおりに支払うことによるデメリットはありますか?
結論:一部弁済をすると、時効の更新と評価されて、完成した消滅時効の援用ができなくなります。
1 前提:貸金に関する消滅時効
返済期限が到来してから何事もなく5年間が経過すれば、当該金融機関に対して消滅時効を援用し、もって貸金債務の支払いを免れることができると解されます(民法166条1項、同145条)。
2 時効の更新について
時効の「更新」とは、所定の事由が生じたときに時効期間が新たに進行を開始するというものです。
言い換えれば、更新後は、従前に完成していた時効の援用はできなくなります。
「更新」事由としては、確定判決、確定判決の同一の効力を有するもの(民法147条2項)や強制執行手続きの完了等(民法148条2項)のほか、権利の承認(民法152条1項)があります。
3 承認について
ここでいう承認とは、抽象的には、時効利益を受ける者が、時効によって権利を失う者に対して、その権利の存在を認識していることを示すことです。
具体例は以下のとおり。
・「〇に対して、…円の借金があることを認めます」と口頭で言うor文書・メールを出す
↑
債務(借金)の存在の認識を示す行為と評価されます。
・利息のみ支払う
↑
元本の承認となります。
・借金の一部の支払う
↑
残りについての承認となります。
4 本件の考え方
一部でも支払った場合は、残りについての承認となり、時効が更新されることになります。
すなわち、完成した消滅時効の援用をすることができなくなります。
後で支払をなかったことにはできないため、慎重に検討するべきでしょう。
判断に迷う場合は、弁護士にご相談ください。
弁護士 北野 岳志