給料の一部をもらえていませんが、どうしたらいいでしょうか?
結論:支払われていない賃金の効果的な請求方法としては、労働審判か訴訟が考えられます。また、労働基準監督署に労働基準法違反申告を行うことが考えられます。なお、時効には要注意です。
1 賃金支払いに関する原則
雇用主は、労働者に対して、賃金を①通貨で②直接③全額支払わなければなりません。
これは、労働基準法24条1項が規定する原則です。
言い換えれば、雇用主が、所定の賃金を一部でも支払わないことは、前記原則、ひいては法律に違反することになります。
2 労働審判と訴訟
(1)労働審判
労働審判は、裁判官と労働審判員2名(労働者側と使用者側)が事件を審理し、基本的に調停による解決を試み、調停が成立しない場合は審判を行うという手続きです。
統計では、調停成立率は7割前後です。
最大の特徴は、原則3回以内の期日で解決するという迅速性です。
反面、申立て時点において、主張や証拠を出し尽くす必要があり、入念な事前準備が不可欠であるほか、膨大かつ緻密な立証が求められる事件には向かないとされます。
審判については、(2週間以内に)異議申立てされると、その効力を失って訴訟に移行してしまいます。
そうなると、当事者は、改めて主張・立証をやり直すことになります。
ちなみに、統計では、異議申立て率は6割程度となっています。
(2)訴訟
訴訟は、労働審判ほど性急な主張・立証は必要とされません。
ある期日に、当事者Aが主張・立証したら、次回期日に他方の当事者Bが反論や補充主張を行い、次々回期日に当事者Aが再反論や補充主張をして・・・というように進行するのが一般的です。
期日は、通常、1か月に1回です。
そして、双方の主張・立証が出尽くした段階で、裁判所が和解を試み、和解が成立しなければ当事者・証人を尋問の上、判決を行います。
当事者間において争いのある事実は、証拠(特に書証が重要)による立証が求められ、十分な証明ができない場合は、裁判上の事実として認定されません。
この点が、訴訟を選択する場合の判断基準となります。
(3)どちらが妥当か
賃金請求の主張・立証は、基本的に単純なものなので、どちらでも問題ないと解されます。
強いて言えば、証拠が揃っていて、遅延損害金も含めてきっちり獲得したい場合は訴訟を、ある程度減額しても早期解決を図りたい場合は労働審判を選ぶべきでしょう。
いずれの手段も相当な専門性が要求されますので、弁護士委任を推奨します。
3 申告受理
前述のように、賃金不払い・未払いは労働基準法違反であることから、労働基準監督官に当該事実を申告することができます(労働基準法104条1項)。
これを受けた労働基準監督官は、所定の調査を行い、違反ありと認めた場合は、是正勧告や指導等を行うことになります。
なお、これによって、賃金支払いの効果が直接生じるわけではないので、ご注意ください。
4 賃金請求権の消滅時効
2020年(令和2年)3月31日以前に発生した賃金請求権の消滅時効は、2年と規定されていました。
それ故、現時点では、前記賃金請求権を行使するのは困難と言えるでしょう。
法改正によって、2020年(令和2年)4月1日以降の賃金請求権については、消滅時効を5年としつつ、当分の間は3年にするという暫定措置がとられています(労働基準法115条1項、同法143条2項)。
以前より若干長くなったとはいえ、放っておけば消滅時効が完成してしまいますから、速やかに請求することが大事です。
弁護士 北野 岳志