執行猶予期間中にまた窃盗をしてしまいましたが、もう執行猶予が付くことはないのでしょうか?

結論:可能性はゼロではありませんが、厳しい条件をクリアする必要があります。

1 刑法25条2項
「①前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその刑の全部の執行を猶予された者が②一年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け、③情状に特に酌量すべきものがあるときも、前項と同様とする。ただし、④次条第一項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。」

これが再度の執行猶予を規定した条文です。以下詳述します。

2 1①について
判決言渡しの時点で、(前刑の)執行猶予中の者を意味します。

裏を返せば、犯行時点では執行猶予期間でも、判決言い渡し時点では執行猶予期間が満了していれば、これにはあたらないと解されます。

3 1②について
文字通り、新たに言い渡される判決が1年以下の懲役または禁錮であることが要件になります。

1年超であれば、再度の執行猶予はつきません。

4 1③について
犯罪の情状が特に軽微で実刑の必要性が乏しく更生の見込みが大きいこととされますが、結局のところ、個別具体的な判断になります。

おそらく、人(裁判官)によって最も判断が分かれ得るのが、この要件です。

5 1④について
文字通り、(前刑の)執行猶予期間中に保護観察に付され、保護観察が終了(※ 仮解除含む)する前に犯罪に及んだ場合には、再度の執行猶予はつきません。

6 再度の執行猶予を付した裁判例
(1)名古屋地判令和2.2.17
公訴事実は窃盗(いわゆる万引き)です。

本件では、窃盗症等の精神障害が認定されています(但し、完全責任能力ありとされました)。
その診断をした医師は、鑑定書を提出するとともに、弁護側証人として出廷しています。

再度の執行猶予(5年)を付した理由として、判決では、被害(約3,000円)が軽微であること、被害弁償ができたこと、窃盗症の影響を大きく受けていたこと、入院して専門治療を受けた上でその後は専門施設に入所して治療を継続していること、両親や社会福祉士の支援が得られていること等があげられています。

(2)東京地判平成27.5.12
公訴事実は窃盗(いわゆる万引き)です。

本件では、(1)と同様にクレプトマニア等の精神障害が認定されています(但し、完全責任能力ありとされました)。

被害額は2万7000円で、万引きの部類としては大きいとされます。

再度の執行猶予を付した理由として、判決では、クレプトマニアによって責任非難が低減されること、被害弁償及び示談ができたこと、薬治療・カウンセリングを受けるとともに自助グループに参加していること、経営者である夫が自らの職場で働かせて公私ともに監督していくことを約束していること等があげられています。

7 まとめ
以上の裁判例を見る限り、再度の執行猶予を得るには、前記1③を満たすために、短期間にかなりの活動をする必要があると思われます。

個人・ご家族だけでは難しいことから、弁護士に相談されるべきでしょう。

弁護士 北野 岳志

2023年07月01日|刑事:刑事