知り合いにあげたり貸したりする目的で、預貯金通帳やキャッシュカードを作成することは、罪になるのでしょうか?

結論:詐欺罪(刑法246条1項)に当たります。

1 譲渡等禁止の背景
預貯金口座を、振り込め詐欺の受入口座にしたり、資金洗浄に用いたりするなど、不正に利用することが問題視されてきました。
そのようなこともあって、金融機関側には、口座開設申込時に、本人確認や利用目的を適切に確認することが義務付けられています(犯罪による収益の移転防止に関する法律、通称、「犯罪収益移転防止法」参照)。

そして、一般的な金融機関では、前記不正利用防止のほか、自由譲渡されると新たな権利者を確認する事務作業が大変であること等から、預貯金債権や通帳・キャッシュカード等を、第三者に譲渡・利用等させることを各規約で禁止しています。
別の言い方をすれば、前記規約に同意することが口座開設の条件であり、不同意であるにもかかわらず口座開設に応じる金融機関は皆無でしょう。

2 詐欺罪における欺罔行為該当性
詐欺罪における人を欺く行為(これを「欺罔行為」といいます)とは、これによって相手方が錯誤に陥り、行為者が希望するような財産の処分行為をするに至るようなものであることが必要です。
裏を返せば、相手方が本当のことを知っていれば、そのような財産の処分行為はしなかったという関連性が求められます

行為者が、第三者に通帳・キャッシュカードを譲渡する意図があるにもかかわらず、それを秘して、譲渡等を禁止した各規約に同意する旨のサインをすることは、金融機関をして、行為者が第三者に譲渡等はしないものと錯誤に陥らせ、それによって口座を開設させ、通帳・キャッシュカード等を交付させる行為と解されます。
裏を返せば、金融機関が、第三者に譲渡等する目的を知っていれば、口座開設や通帳・キャッシュカードの交付等はしなかったという関連性が認められます。

それ故、標題の行為は、欺罔行為に当たり、詐欺罪が成立すると考えられます(最判平成19.7.17参照)。

3 知らなかったという主張は認められるか
「第三者への譲渡等が禁止されているとは知りませんでした。」、「契約書は言われた通りにサインしただけで、第三者への譲渡等の禁止について理解していませんでした」と主張して、詐欺罪の故意を否認することが考えられます。

もっとも、前述の譲渡等禁止について、最判昭和48・7・19は次のように述べています。
「銀行を債務者とする各種の預金債権については一般に譲渡禁止の特約が付されて預金証書等にその旨が記載されており、また預金の種類によっては、明示の特約がなくとも、その性質上黙示の特約があるものと解されていることは、ひろく知られているところであって、このことは少なくとも銀行取引につき経験のある者にとつては周知の事柄に属する」

このように譲渡等禁止が社会通念化していると解されている以上、被告人側が知らなかったことを積極的に立証していく必要がありますが、容易ではないと考えられます。

弁護士 北野 岳志

2023年06月24日|刑事:刑事