検討のために渡された刑事事件の証拠書類を、親友にも見てもらうべく、コピーを渡したり、スキャンしたデータを送信したりすることは問題ありませんか?
結論:刑事裁判の証拠書類を、勝手に第三者に見せたり、交付したりする行為は禁止されています。これに違反した場合は刑事罰に問われる可能性があります。
1 刑事裁判で閲覧・謄写した証拠書類の取り扱い
刑事裁判では、検察側は、被告人の有罪を立証するために多数の証拠書類を提出します(刑事訴訟法317条参照)。
これら証拠書類については、適切な防御活動を行うため、弁護人は閲覧・謄写することができます(刑事訴訟法299条)。
通常、被告人は、事件の経緯や関係者に関する事情を、弁護人より詳しく把握しています。
また、弁護人は、基本的に被告人の意向を無視して弁護活動を行うことはできません。
そのため、証拠書類を更に複製して、被告人に交付し、内容をよく検討してもらうことが行われています。
もっとも、刑事裁判で用いられる証拠書類には、被告人以外の個人情報が多数含まれており、これが拡散すると、名誉棄損やプライバシー侵害が生じかねません。
そのため、刑事裁判において弁護人側に開示された証拠書類については、適切に管理・保管しなければならないとされ(刑事訴訟法281条の3)、正当な理由なく目的外に交付等することは禁止されています(刑事訴訟法281条の4)。
実際に交付等してしまった場合には、1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処されることがあります(刑事訴訟法281条の5)。
以上のことから、弁護人から渡された刑事裁判の証拠書類のコピーをしたり、第三者に見せたりするのは、やめるべきでしょう。
2 民事訴訟との関係
刑事裁判で閲覧・謄写した証拠書類を、損害賠償請求や離婚請求等の民事訴訟の証拠書類に転用することが考えられます。
訴訟であれば、先程の名誉棄損・プライバシー侵害の可能性は乏しいようにも思われますが、現行法はこれも禁止していると解されています。
民事訴訟で刑事記録を使用する場合は、あらためて、謄写申請したり、弁護士法23条の2に基づく照会をかけたりするしかないと考えられます。
ただ、これによって開示される刑事記録は、黒塗りや部分開示等の処置が施され、すべてを見ることができないようになっていることが多々あります。
これらも明らかにしたいのであれば、裁判所を介しての文書開示命令等の利用が考えられます(民事訴訟法223条参照)。
弁護士 北野 岳志