詐欺破産罪における「債権者を害する目的」とはどういう意味ですか?

結論:総債権者の財産的利益を害するおそれのある状況、すなわち、破産に至る可能性が高状況を認識した上で、その財産的利益を害することを認識・認容していたことと解されます

1 詐欺破産罪(破産法265条1項各号)の概要
財産をどのように処分するかは、当該財産の所有者の自由な裁量によるのが原則です。
しかし、債務者の総財産が減少し、最終的に破産に至れば、前記債務者の債権者は、引当財産の減少によって、債権回収することが困難ないし不可能となります。
それ故、破産する蓋然性のある債務者については、総債権者の財産的利益を保護する目的で、詐欺破産罪が規定されています。
この点について、最決昭和44・10・31は「債務者の全財産を確保して総債権者に対する公平かつ迅速な満足を図ろうとする破産制度の目的を害する」ことを処罰根拠に挙げています。

※ 破産時に残存する資産は、債権額に応じて、総債権者に配当するのが原則

2 「債権者を害する目的」
債務者が破産に至る蓋然性のある状況を認識していたことが必要とされ、単に債権者を害することの認識・認容(※ 積極的認容までは要しない)だけでは足りないと解されます。
この点につき、東京高判令和元・11・6は、「現実に破産手続が開始するおそれのある客観的な状況があり、行為者が、このような状況にあることを確定的に認識しながら、破産法265条1項各号所定の行為に及んだ場合には、「債権者を害する目的」が認められる」と述べています。

前述の破産法265条1項所定の行為とは、財産の隠匿・損壊(1号)、財産譲渡または債務の負担の仮装(2号)、財産の現状改変および価格の減損(3号)、不利益処分または不利益な債務の負担(4号)であり、一般に総債権者の財産的利益を害する行為と解されます。

破産に至る蓋然性のある状況をさらに掘り下げると、①支払不能、債務超過が認められる場合とする説と、②支払不能等が生じる蓋然性が極めて高い場合まで広げる説があるようです。
この点について、東京地判平成30・5・25は、被告人である破産会社の代表取締役に対して、(a)粉飾決算を行っていたこと、(b)実態は債務超過であったこと、(c)赤字経営であったこと、(d)これらが発覚して借入金について期限の利益を喪失する蓋然性が極めて高かったこと、(e)期限の利益の喪失時に借入金を一括返済できる資力はなく支払不能となる蓋然性が極めて高い状態であったことから、現実に破産手続きが開始するおそれのある客観的な状態であったと認定しています(②説を採用したと思われます)。

弁護士 北野 岳志

2023年04月18日|債務整理:債務整理