「時効の中断」という言葉が使われなくなったとのことですが、どのように変わったのでしょうか?
結論:民法改正(R2.4.1施行)によって、「時効の完成猶予」と「時効の更新」という用語に置き換えられました。
1 「時効の中断」の意義と法改正による区分
以前は、時効の完成が妨げられるという効力と、完成した時効が効力を失って新たな時効が進行を始めるという効力について、いずれも「時効の中断」という用語で表されていました。
民法改正によって、前者が「時効の完成猶予」に、後者が「時効の更新」に区分して整理されることとなりました。
2 「時効の完成猶予」
「時効の完成猶予」とは、一定期間、時効の完成を遅らせることです。
改正民法が「時効の完成猶予」となる事由として挙げているのは、主として次のとおりです。
・裁判上の請求、支払督促、即決和解、民事調停、家事調停、破産手続き参加、再生手続き参加、更生手続き参加(147条1項)
※ いずれも当該事由が終了するまで。ただし、確定判決や和解成立によって権利が確定しないまま終了した場合は、終了時から6ヶ月を経過するまで
・強制執行、担保権実行、財産開示手続き(148条1項)
※ いずれも当該事由が終了するまで。ただし、申立ての取下げや裁判所による取消しによって終了した場合は、終了時から6ヶ月を経過するまで
・仮差押え、仮処分の終了時から6ヶ月を経過するまで(149条)
・催告の時から6ヶ月を経過するまで(150条)
・権利について協議を行う旨の合意が書面でなされてから、1年間又は定められた協議期間が経過するまで(どちらか短い方)(151条1項)
・時効期間満了前6か月以内に未成年又は成年後見人に法定代理人がいないときは、当人が行為能力者となった時又は法定代理人就任後6ヶ月を経過するまで(158条1項)
・相続財産につき、相続人確定時、相続財産管理人選任時、又は破産手続開始決定時から6ヶ月を経過するまで(160条)
・時効期間満了の際、天災その他回避不能な事変によって、完成猶予のための諸手続きを行使できない場合は、その障害が消滅した時から3ヶ月を経過するまで(161条)
3 「時効の更新」
「時効の更新」とは、所定の事由が生じたときに、これまでの時効が完成することはなくなり、新たな時効の期間が進行し始めることです。
改正民法が「時効の更新」となる事由として挙げているのは、主として次のとおりです。
・確定判決又は和解の成立(147条2項)
※ 147条1項所定事由が終了した時から進行開始
・強制執行、担保権実行、財産開示手続きの終了時(148条2項)
※ ただし、申立ての取下げ、裁判所による取消しによって終了した場合は、更新されない。
・権利の承認(152条1項)
※ 権利の承認は、権利存在の認識を示すすべての行為を意味する。裁判内・裁判外であるかは関係なく、口頭・文書いずれの形式でも可能である。
4 その他
長期間弁済が滞っている債務者においては、所定の行為によって、消滅時効が完成猶予となったり、更新されたりしないかを意識したほうがよいでしょう。
逆に債権者としては、消滅時効が完成しないために、完成猶予や更新に向けた手続きをとることが重要となるでしょう。
弁護士 北野 岳志