子どもA(15歳、男)が、他人を殴ってけがをさせてしまいました。Aは賠償責任を負いますか?親はどうでしょうか?

結論:15歳ともなると、不法行為における責任能力が認定される可能性は非常に高いです。他方、両親について、責任無能力者の監督義務者としての責任を負う可能性は非常に低いですが、独自の不法行為責任を負う可能性は残されています。

1 A(15歳)の不法行為責任
民法712条は、未成年者は、当該行為の責任を認識するに足る知能を備えていなければ、不法行為における賠償責任を負わないと定めています。
これに関して、東京高判昭和32・4・26は、「単に一般的に知能が高いとか運動が得意だとかいうことだけで決められるものではなく、当該加害行為のような種類の行為について一般的にその責任を弁識するに足る知能」と判示しました。

15歳の健常な中学生(男子)ともなると、他人を殴るという行為が違法で非難されるものであることは十分認識できたと解されることから、Aに民法712条が適用されるとは考え難く、その結果、不法行為に基づく賠償義務を負うことになる(民法709条)と思われます。

なお、民法712条が適用されること、すなわち、当該未成年が責任無能力者となって不法行為責任を負わないことは、被害者(※ 本件説例でいうと、殴られた人)側が立証責任を負うとされています。
他方、民法714条1項(責任無能力者の監督義務者等の責任)における監督義務を怠っていなかったことの立証責任は、加害者の監督義務者(両親等)が負います。

2 A(15歳)の両親の責任
民法714条は、前提として未成年に民法712条が適用されることを条件としているところ、前述のように、Aには民法712条は適用されず、民法709条に基づく不法行為責任を負うと考えられることから、Aの両親が民法714条に基づく責任を負うことはありません。

もっとも、Aが普段から粗暴であることを両親が知っており、粗暴な振る舞いを改めるよう指導・教育できたにも関わらず、これを怠ったと認定された場合は、両親に独立の不法行為責任が肯定され、賠償義務を負う可能性があります。
この点につき、大阪地判昭和37・5・26は、「親権者において未成年者が他に損害を加えることを予見し、または予見し得る状態にあり、かつ損害の発生を防止し得る状態にありながらこれを放任するなどその監護義務に著しく違背し、このため他に損害を与えた場合であつてしかも親権者の監護義務違背と損害の発生との間に相当因果関係の認められるような場合にあつては、被害者において親権者の監護義務違背、損害発生との因果関係の存在を主張立証して親権者に対する独立の責任を追及し得るものと解すべきである」と述べています。

判断が微妙な場合は、弁護士に相談しましょう。

3 他の裁判例の概観
(1)名古屋地判昭和38・8・9
当時13歳4ヶ月の中学一年生が、他の中学生の友人と共謀し、三輪自動車を無免許で動かした結果、第三者に傷害の損害を与えた事件につき、法律上の責任を弁識するに足る知能があったと認定し、民法712条の適用を否定しました。
→子:賠償責任あり、親:賠償責任なし
(2)東京高判平成18・2・16
当時4-6歳の幼稚園児について、法律上の責任を弁識するに足る知能はなかったと認定し、民法712条の適用を肯定しました。
また、本件では、民法714条1項の監督義務を怠っていたか否かが争点になりましたが、具体的事実に即して十分ではなかったとして、怠ったことが認定されました。
→子:賠償責任なし、親:賠償責任あり
(3)浦和地判昭和58・11・21
当時17歳で暴走族に属していた少年が、手拳や武器を用いて、他人に傷害を負わせ、所有物を破損させたという事案です。
判決では、両親につき、少年の日常の素行や交友関係に注意し、不良徒輩との交際をやめるよう特に十分に指導監督すべき義務があったにもかかわらず、これを怠り、暴走族の構成員としてとどまるに放置させたとして、民法709条・719条に基づく独立の不法行為責任を肯定しました。
→子:賠償責任あり、親:賠償責任あり


弁護士 北野 岳志

2023年04月15日|その他:その他