財産散逸行為等とは何ですか?どうして、してはならないのですか?

結論:支払不能・困難となった債務者が、自己の財産を不当に減少させる行為や、隠匿する行為、偏頗弁済等を意味します。財産散逸行為等が禁止される理由は、債権者全体の利益を害し、債権者間の平等を害するからです。

1 債務者の財産に対する制約とその理由
破産申立てを弁護士に委任した後も、破産手続開始決定が出るまでは、債務者は財産の管理処分権を有します。
すなわち、自由に使用・処分することは一応可能ということです。

しかし、債務者の財産は、破産手続きにおける配当の原資となるものです。
債務者の財産が少なくなれば、その分配当金が減ることになります。

また、受任弁護士からの受任通知後、債権者が事実上取立てを控えている中で、特定の債権者に対してだけ弁済が行われていたら、不公平となります。
他の債権者からすれば、「だったら、こっちにも払ってよ」と言いたくなるでしょう。

そのため、破産手続きを控えた債務者の財産は、生活上必要なものや破産申立てに必要なものを除き、使用・処分することは制限されると解されています。

2 財産散逸行為等の具体例
(1)財産を不当に減少させる行為
生活に不必要な高額商品を購入したり、国内・海外旅行に行ったりするようなことがあげられます。
食費が、平均値と比較して著しく高い場合も、不相当とされる可能性があります。
保険・共済についても、補償内容や金額等から、一部が不相当とされる可能性があります。

(2)隠匿行為
所持金をタンス預金にして申告しなかったり、何かに使ったと見せかけて隠し口座に貯蓄したりするようなことがあげられます。

(3)偏頗弁済
特定の債権者のみ弁済することです。

A・B・C・Dの債権者がいるとした場合、Aにだけ弁済したり、B・Cにだけ弁済したりするような行為が該当します。

A~Dすべてに弁済する場合は偏頗弁済となりません。
しかし、A・Bは全額、C・Dは半額だけ支払うような場合は、偏頗弁済となる可能性があります。

3 財産散逸行為等がなされた場合
否認(破産法160条以下)の対象となる可能性があります(※ 否認の意義についてはここでは省略)。
悪質な場合は、詐欺破産罪(破産法265条)等の犯罪に該当することもあり得ます。

また、受任した弁護士も、財産散逸行為等を防止すべき義務を怠ったとして、責任を問われることがあります。
そのため、破産申立てを受任した弁護士は、基本的に毎月の家計簿作成を求め、財産散逸行為等と疑われる支出や不審な記載がある場合は、質問したり、指導したりします。
債務者にとっては耳の痛い話となりますが、破産手続きを滞りなく進めるためにも、ご理解いただきたいところです。


弁護士 北野 岳志

2023年10月27日|債務整理:債務整理