恐喝罪(刑法249条)における恐喝行為とは何ですか?
結論:犯行を抑圧するに至らない程度の脅迫or暴行を加え、それによって畏怖した相手から、財物or財産上の利益の交付・処分を求めることです。
1 「犯行を抑圧するに至らない程度」
「強盗罪(刑法236条)」と線引きする要素となります。
すなわち、犯行を抑圧する程度に達していれば強盗罪が、達していなければ恐喝罪が成立し得るということです。
2 恐喝における「脅迫」
相手を畏怖させるような害悪の告知をすることです。
畏怖させるとは、恐れを抱かせる・怖がらせることです。
単に困惑させるに止まるもの、漠然とした不安を抱かせる程度の内容であれば、恐喝行為とはならないと解されます。
脅迫罪(刑法222条)では、生命・身体・自由・名誉・財産に害悪が限定されています。
他方、恐喝罪における「害悪」には、そのような限定はありません。
例えば、発覚していない犯罪行為を警察に通報すると告げることや、私的な秘密(例:浮気、特殊な収集癖)を暴露すると告げることも、害悪の告知となります。
脅迫罪(刑法222条)では、害悪を受ける客体が、本人とその親族に限定されています。
他方、恐喝罪では、これらに加えて、友人その他の人的関係がある第三者も含まれると解されます。
言葉自体が一般に相手を畏怖させるようなものではなくても、行為者(犯人)の職業・地位その他事情と相俟って畏怖させることが可能であれば、それで足ります。
例えば、行為者が暴力団その他反社会的勢力に属する者であり、相手方がそれを知っている場合は、普通なら恐喝にならない言動も、恐喝になり得えます。
告知の手段・方法は、何でもよいとされます。
いわゆる暗黙の告知でも足ります。
行為者が第三者を通じて間接的に告知する場合も含まれます。
3 恐喝における「暴行」
有形力の行使、典型としては、殴る・蹴る・掴む・投げる・絞める等です。
相手方等の身体に直接触れる必要はないと解されます。
4 「財物」と「財産上の利益」
財物の典型は、金銭です。
宝石や自動車といった交換価値・経済的価値を有する物が財物に含まれるのは当然ですが、私人間の手紙(記載済み)等の主観的価値しかないようなものについても、財物になると解されます。
ただ、ちり紙のように所有権等の対象とならないようなものについては、刑法的保護に値する価値がないとして、財物性が否定される可能性があります。
財産上の利益には、財物以外のすべての財産上の利益が含まれます。
具体的には、借金等債務の免除、返済期限の延長、借金の肩代わり、預貯金口座への振込の約束等です。
5 交付・処分を求めること
恐喝は、畏怖させた相手方に財物・財産上の利益を交付させる・処分させる犯罪です。
交付・処分先には、行為者本人のほか行為者と一定の関係に立つ第三者も含まれます。
弁護士 北野 岳志